TRADITION

作家・村上 躍
「なぜ、手びねりでつくるのか?」

2020.11.28
作家・村上 躍<br>「なぜ、手びねりでつくるのか?」
指先の微細な感覚を土に伝えながら、かたちづくられていくうつわ。手間のかかる手法だが、手びねりでしか表せないことがある

作家・村上躍さんは、1998年に陶器の創作を開始。以来、機械に頼ることなくひたすら自らの手で土を捏ね、成形するという「手びねり」の手法にこだわり続けてきました。卓越した感覚と技に裏付けられた村上さんの作品は、多くの人の心を惹きつけますが、そもそもなぜ彼は手びねりでつくるのでしょうか。今回、自らの出発点に立ち返り「原形」をテーマに個展を開催した村上さんに、手びねりの魅力、そしてうつわの意義についてあらためてたずねました。

村上 躍(むらかみ・やく)
1967年、東京都生まれ。武蔵野美術大学短期大学部専攻科工芸デザインコース卒業後、’98年より神奈川県にて手びねりで、質朴さの中に美しさが際立つ作品を手掛ける。2020年5月、長野県八ヶ岳に工房を移転し、精力的に活動する

うつわとは、何か?

碗は、信楽の赤土と白土を使い、均一なかたちに。その代わり、一つひとつを異なる釉薬で仕上げ、特徴づけた

2020年10月、伊豆高原に新しくオープンしたギャラリー「SHOKEN IZU」。静寂の建築空間のこけら落としに並んだのは、村上躍の新作100点余りだ。

「テーマを設定せず、自分の最新の状況をただ見てもらうというのが個展を開催するときの基本姿勢。ただ、今回はまったく新しい空間での展示だったこともあり、ギャラリーオーナーと意見交換した上で、自分のこれまでを俯瞰し、これからを展望するような内容にしてみたいと思ったのです」

村上躍がSHOKEN IZUのために選んだテーマは、「原形」。自分の出発点にあらためて立ち返り、創作とは何か、うつわとは何かとを、自問自答を繰り返す様子をかたちで表していった。

手びねりは、つくるほどに新しい世界を見せてくれる。

美しい光と影のグラデーションをまとう、大小さまざまな球体。本展ではあえてうつわとしての機能を設けず、三次元のかたちの在り方だけを追求した

今回、村上が用意した新作は「碗」、「ポット」、「球」と大きく3つのカテゴリーに分かれる。それぞれについてゆっくりと村上は説明をはじめる。

「碗は、汁物を入れたり、食材を盛ったりと、食事をするために使う道具ですが、それは身体機能をそのまま延長したようなものともいえます。手にすっぽりと収まる碗の形状は、水をすくうときに人が両手を合わせた様子から派生したもの。僕もこうした碗をつくりはじめて20年間が経ちますが、当初からかたちはほとんど変わりません。うつわの原形ともいえますよね」

村上は、同じものをつくり続けているというが、近づいてみると一つひとつに異なる表情が宿っており、異なる印象も覚える。

「ゴツゴツしている手、しなやかな手など、人の手も同じようでそれぞれに個性があります。確かに碗の基本形は同じだと考えていますが、同じ手法でつくりながらも、荒々しい表現を追求する一方で、時折薄く繊細に仕上げるなど、結果として人のように多様性に富んだものになっているのかもしれません」

丸みを帯びたものから、直線的なフォルムまで、個性際立つティーポット。すべて白金彩の釉薬で仕上げ、違いをさらに明らかにした

工芸的なアプローチを行う碗と比較すると、彼の代表的な作品であるティーポットは、どちらかというと工業デザインにも似たプロセスを追っているように見受けられる。

「ティーポットは多様な機能を有する、複雑かつ繊細な道具。制作には細心の配慮と、着実な工程が必要です」

湯を入れた状態でも安定して持ち上げられ、注ぎやすいかたち。ポットを傾けたらスムーズにすっとお茶が注がれ、戻したときに液垂れが起きないなど、ディテールの仕上げが使い心地や機能に確実にリンクする。

「お茶を注ぐという単純な行為を完璧にサポートするには、ボディの形状だけでなく、取っ手や注ぎ口の仕上げ、茶漉しの付け方に至るまで、技を駆使しながら課題を一つひとつ丁寧にクリアしていかなければなりません」

実際にこのポットでお茶を淹れてみたが、蓋を閉めたときや持ち上げたときのフィット感、そして注ぎ出したときの水の流れがあまりにもスムーズで、その精密さに驚かされる。

そして、ギャラリーの中央には、天体に並ぶ惑星かのように、大小さまざまな球体のオブジェが並んだ。

「目指したのは『完璧な球体』です。土でシンメトリーな球体をつくりたいならば、ろくろや型を使ったほうが確実で、僕のように手びねりでやること自体がアイデアと矛盾しているんです。でもこのように相反する要素をひとつの表現に収められるのが、ものづくりの醍醐味であり、手びねりの真義」

手びねりとは焼き物の手法のひとつで、機械を使わずに、手で土をねながらかたちづくっていくもの。制限がないため、指先の感覚ひとつで自由に造形を繰り広げられるのが特徴だ。

「重厚さと軽快さ、柔らかさとシャープネスなど、ひとつの作品の中に対峙する要素が共存し、不思議な世界をつくり出す。私にとって手びねりでつくることはとても感覚的なことなので、そのときの心のゆらぎが指先を通し、そのまま作品の表情となる。ある瞬間がかたちとなって表出される、何も隠し立てできない率直な表現だからこそ、ずっと続けているのかもしれません」

一度完璧なところに到達したと思っても、次の手を繰り出すと、また振り出しに戻ってしまう。プリミティブな手法ながら、つくるほどに新しい世界が見えてくる手びねりは、何ものにも代え難いと村上は語る。そんな村上にとって、うつわとはなんだろう。

「ある識者から『うつわとは神をおろす場だ』という話を聞いたことがありますが、確かにうつわはシンプルなものに見えて実はとても特殊で神秘的。『器』は一般的な道具を示すとともに、『器用』、『器量』という言葉に象徴されるに人の心を表しているようにも感じます。また、うつわの部位には、口、胴、腰、耳など、人の身体と同じ表現が使われています。人は無意識のうちに、『うつわ』にただの道具以上のものを感じているような気がします。うつわはそれ自体が自立した存在であると同時に、中にものを入れ、使われることで無限の可能性を示すもの、使う人がどのように愛で、ともに時間を過ごすかによって、いかようにでも変化し続けると思います」

text: Hisashi Ikai photo: Yusuke Nishibe, Yuko Ookoso special thanks: SHOKEN IZU
Discover Japan 2020年12月 特集「うつわ作家50」


≫圡楽窯七代目・福森雅武「うつわに捧げた人生」

≫Discover Japan EC第2弾企画「全国の有名ギャラリーが注目するうつわ作家」

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