「36ぷらす3 」 JR九州の新観光列車でめぐる旅
九州は色で旅する。~vol.1 赤編~
2020年10月16日、JR九州から新しい観光列車が運行を開始します。世界で36番目に大きな島、九州に3を足した39(サンキュー)列車「36ぷらす3」を本記事で先行してご紹介!「36ぷらす3」が走る5つのルートには色をテーマに7つのエピソードを搭載。九州を「色」でめぐる新しい旅がいま、はじまります。
▼JR九州36ぷらす3
www.jrkyushu-36plus3.jp
東シナ海・太平洋・日本海・瀬戸内海に囲まれた豊かな土地、九州。温暖な気候が心地よく、雄大な風景が続く大地は、2000年以上前から海外との交易の舞台でもあった。九州を旅すると、自然や食、文化の中に、生命力あふれるさまざまな「色」を見つけることができる。火の国・熊本は阿蘇の「赤」、青島の亜熱帯植物や柑橘類・へべすの「緑」、関さばや関あじといった海の幸の「青」。かごしま黒豚や黒酢の「黒」……。
そんな九州の「色」をキーワードに、今秋運行を開始するJR九州のD&S(デザイン&ストーリー)列車「36ぷらす3」が、新しい旅の提案をしてくれる。
36ぷらす3は、木曜から月曜まで色分けされた5つのルートで運行。それぞれに7つ、計35のエピソードを乗せて大きな輪を描くように九州を一周する。乗客は皆エピソードとともに、ルートごとの「色」を探して自分なりのストーリーを紡いでいくのだ。
Discover Japanでは、5つのルートを含む列車の全容を、全6回の連載にてお届けする。第1回目は、福岡〜熊本〜鹿児島を結ぶルートの、7つの躍動的な「赤」のエピソードを紹介。ぜひ試乗気分で味わってほしい。
〈Episode 1〉赤い祭
まず訪れたのは、火の国・熊本の阿蘇。阿蘇山の裾野に大草原が広がるダイナミックなこの土地は、27万年前から9万年前に起きた4回の大噴火により、現在の姿を築いてきた。人々は約2000年以上前から、噴火し続ける偉大な山を、恵みをもたらす神として崇め、敬ってきたという。
今回は、その歴史をいまに伝える、毎年3月に行われる阿蘇神社の「火振り神事」を訪ねてみた。阿蘇に春を告げるこの祭りは、農業の守護神・国龍神の結婚を祝う7日間にわたる田作り祭の一部だ。4日目の“御前迎え”で、姫神のご神体をお迎えした一行が神社そばに近づくと、19時頃、爆竹を合図に火振り神事が厳かにはじまる。参道に並んだ氏子たちが、いっせいに萱束に火をつけ、姫神御一行の足元を照らすために燃える萱束を頭上で大きく振り回していく。パチパチと爆ぜる音や火の粉に歓声が上がる中、暗闇に火の輪がいくつも浮かび上がっていくさまは幻想的だ。
激しく燃える赤々とした火に、氏子や参拝客の顔が照らし出される。誰も彼も火の美しさに魅せられて、静かな興奮に包まれているようだ。山のように積まれた萱束が燃え尽きるまで、炎の宴、火振り神事は続いた。
阿蘇神社の火振り神事
住所|熊本県阿蘇市一の宮町宮地3083-1
問|火振り神事体験交流実行委員会
Tel|0967-22-8181
〈Episode 2〉火の国
27万年前以降の活発な火山活動と9万年前の巨大噴火で形成された世界最大級のカルデラが広がる阿蘇山。カルデラには、噴煙を上げる中岳を含む阿蘇五岳がそびえ、火の国・熊本を象徴する存在。絶景を一望する展望所・大観峰は、赤い朝焼けも格別。あか牛が草を食む牧歌的な雰囲気も阿蘇ならでは。
阿蘇火山博物館
住所|熊本県阿蘇市赤水1930-1
Tel|0967-34-2111
〈Episode 3〉赤であったまる
天草の「湯楽亭」には、洞窟で楽しめる珍しい赤湯がある。鉄分を含んだ湯が空気に触れることで赤みがかった色に。肌に気泡が付く湯は、国内最高クラスの炭酸水素含有量を誇り、血行を促進。熊本地震後の再掘削で、さらに二酸化炭素量が増えるなど、身体を芯から温める良質な温泉成分がアップ!
大洞窟の宿 湯楽亭
住所|熊本県上天草市大矢野町上5190-2
Tel|0964-56-0536
料金|600円、小学生400円、小学生未満300円、2歳未満無料
※来館の場合は要連絡
〈Episode 4〉赤い遺産
熊本・八代駅と鹿児島・隼人駅を結ぶ肥薩線。110年以上前の開通工事は、川の増水や山岳の急勾配など困難を極めたという。アメリカ製の球磨川第一橋梁(写真)や日本で唯一のループ線上のスイッチバックなど、当時の最新技術を駆使した“生きた鉄道遺産”はいまも現役。
球磨川第一橋梁
住所|JR肥薩線鎌瀬駅近く(熊本県八代市坂本町鎌瀬)
取材協力|松本晉一さん/熊本産業遺産研究会に所属。著作に『球磨川の駅・ものがたり』など
※球磨川第一橋梁は、“令和2年7月豪雨“の影響により現在は見ることができません。このたびの記録的大雨により、被災された皆さまに心よりお見舞い申し上げます
赤は火の色、命の色。
赤との出合いはまだまだある。阿蘇くじゅう国立公園の中で牧歌的な風景を醸し出すあか牛たち。訪れるとつい「美味しい」が先行してしまうが、実は放牧されているあか牛が草を食み、大地を踏みならすことでも阿蘇の草原は維持されるのだ。また、5〜6月にはミヤマキリシマという植物が花を咲かせ、山一面を薄紅色に染める珍しい景色を見ることができる。
熊本の八代では、日本三大急流・球磨川に架かる橋梁の歴史ある赤を見つけた。福岡では、丹精込めて育てられた博多あまおうのみずみずしい赤を知った。鹿児島では、薩摩焼の作陶を支える赤に触れた。どれも九州で暮らす人々の、思いが詰まった「赤」だ。
赤は火の色、命の色。人の心を熱くかき立てる強い力をもつ。大いなるエネルギーを肌で感じる赤の旅は、生きる原動力となるパワーを心にも身体にもたっぷりと分けてもらえる。
さまざまな色がちりばめられた九州。次の路ではどんな色が待っているのだろう。「36ぷらす3」に乗って、車窓に流れる景色を楽しみながら、ルートごとに自分だけのストーリーを見つけてほしい。いままで気づけなかった、新しい九州の魅力にきっと出合えるはずだ。
〈Episode 5〉薩摩焼の赤
薩摩焼は“白もん(白薩摩)”“黒もん(黒薩摩)”が有名だが、名窯「沈壽官窯」で赤を発見! 白薩摩のカップに施された精巧な赤トンボ。また、ベンガラ入りの赤い釉薬は漆黒の黒薩摩を生む。「薩摩焼の白も黒も赤あってのもの。来春、絵付け体験やカフェも新設します」と十五代沈壽官氏。
沈壽官窯
住所|鹿児島県日置市東市来町美山1715
Tel|099-274-2358
〈Episode 6〉赤の癒し
熊本城内の武家屋敷「旧細川刑部邸」は毎年11月下旬、紅葉が見頃に。真っ赤なイロハモミジに抱かれ秋の風情に浸りたい。同時期のイチョウも見事。熊本城は1607年加藤清正によって築城。熊本地震後は復興のシンボルとして力強く歩み進む姿を見せる。2021年春、天守閣が完全復旧予定。
熊本城
住所|熊本県熊本市中央区本丸1-1
Tel|096-352-5900(熊本城総合事務所)
〈Episode 7〉赤は旨い
「あかい・まるい・おおきい・うまい」の頭文字を取った、福岡のブランドイチゴ・博多あまおう。八女市の「ひぐち農園」は、人と自然に優しい農法を目指し、害虫の天敵となる虫を投入する減農薬栽培の先駆者として全国から注目されている。艶やかな赤い実は、甘みと酸味のバランスが絶妙!
ひぐち農園
住所|福岡県八女市大島422-4
Tel|090-8409-2684
Instagram|@higuchi_nouen
日本ではじめての“赤”十字が熊本で誕生
人道的支援団体「日本赤十字社」は、佐賀県出身の佐野常民が設立。医学や蘭学を学んだ佐野は、佐賀藩派遣団団長としてパリ万国博覧会を訪れる。その際、国際赤十字の理念「敵味方の分け隔てなく負傷者を救護する」を知り、感銘を受けた佐野は、西南戦争における熊本・田原坂での惨状を知ると、負傷者救護のため「博愛社」を創立しようと戦地に赴き政府軍の総指揮官に直談判。その熱意に即日創立が許され、初の救護活動を行った。これにより熊本が日本赤十字発祥の地として知られるように。
「真の文明開化とは法律の発布や機械の発明ではなく、人道的組織の発展だ」と訴え続けた佐野。1887年に博愛社は日本赤十字社と改称し、国際赤十字への加盟が実現。1888年の磐梯山噴火(福島)では、国際赤十字に先駆けて初の災害救護を行い、活動の場を広げた。人を想い、時代の先を見据えた佐野の思想は、脈々と受け継がれる。
佐野常民記念館
住所|佐賀県佐賀市川副町早津江津446-1
Tel|0952-34-9455
36ぷらす3
九州の魅力がぎゅっーと詰まったD&S列車。テーマカラーが異なる5つのルートに九州を楽しむ35のエピソードを詰め込んで乗客を迎えてくれる。
車両数|6両編成
席数|103席(全席グリーン)
施設|ビュッフェ、マルチカーなど
商品概要|食事付きの「ランチプラン」ときっぷのみで気軽に乗れる「グリーン席プラン」の2種類。木曜ランチプランは大人1名2万500円〜
▼詳細はこちら
www.jrkyushu-36plus3.jp/guidance/
Rail Data
木曜|博多▶熊本▶鹿児島中央
金曜|鹿児島中央▶宮崎
土曜|宮崎空港・宮崎▶大分・別府
日曜|大分・別府▶小倉▶博多
月曜|博多▶佐賀▶長崎▶佐賀▶博多
九州は色で旅する。
1|~赤編~
2|~黒編~
3|~緑編~
4|~青編~
5|~金編~
text=Nozomi Kage photo=Hiromasa Otsuka
Design&illustration by Eiji Mitooka + Don Design Associates
2020年7・8月号 特集「この夏、どこ行く?ニッポンの旅計画108」