紹介制寿司屋「酢飯屋」岡田大介が、子ども向け寿司本『おすしやさんへいらっしゃい!』を出す理由
食通達の間で、普通では出てこないネタや創作寿司を出す実験的な寿司屋で知られる紹介制寿司屋「酢飯屋」。その酢飯屋の寿司職人兼代表でもある岡田大介氏が、2021年2月12日(金)に、子どもに向けた寿司の本「おすしやさんにいらっしゃい!」を出版した。紹介制寿司屋と子どもという、一見遠そうに見える二つを結びつけるものとは?
岡田大介(おかだ だいすけ)
寿司職人。 1979年、千葉県生まれ。18歳で食の 世界へ。寿司の道を修行し24歳で寿司職人として独立。2008年、東京都 中央区にて1日1組の完全紹介制・完全予約制の寿司屋「酢飯屋(すめしや)」を開業。食通達の間で話題となる。その後浅草橋、2016年より文京区江戸川橋に移転。フランスの寿司漫画『L’Art du Sushi』のモデルや、新国立新美術館での、器や食のキュレーションなど、寿司職人という職業の可能性を日々広げている。著書に『季節のおうち寿司』(発行:PHP 研究所)等。
Q1:この本を出版されようと思った理由とは?
岡田「国内でじっくり時間を積み重ね、その伝統文化や技術が受け継がれてきた寿司。いまや、その魅力は味だけでなく、健康、ファッション、ライフスタイルにまで影響しています。いつしか急激に、世界中に広がった『SUSHI』には、残念ながら、本来寿司の中にある様々な生き物の命が見えず、ただ、ただ食べ物としての役割、要するにモノでしか扱われていないように感じることが多くなってきました」。
Q2:寿司が「SUSHI」となったことで、表層的なトレンドとなってしまっているということですか?
岡田「そう思います。寿司の文化が広がっていくのは素晴らしいことですが、それと同時に、日本の食文化の根幹にある、命を頂くことへの感謝、『いただきます』から、遠ざかってほしくはありません。僕自身、時間の許す限り、漁師さんに船に乗せて頂いて現場をみるようにしているんですが、当たり前ですが、漁師さんも命がけですし、魚も釣られまいとって必死ですし、命の攻防以外の何ものでもないんですよね。そのことが僕が、お寿司を握るではなく、握らせて頂いているという気持ちの原点です」。
対馬のサバ漁師フラットアワー銭本さんの船にも同乗。現場を見ることで寿司を握るときの意識も変わるという。
普通だと捨てられてしまうものでも、活かしきるという岡田氏の気持ちが感じられる象徴的な料理の品々
Q3:最近では、漁業の持続可能性について議題があがることが多くなってきましたが、それに関して感じることはありますか?
岡田「魚一匹一匹を命として見ず、安定供給を前提とした社会が進み、地球の人口が増加していく中、持続可能な漁業が無くなれば、寿司も自ずと減少していきます。もう少し正確に言うと、養殖魚で代用できる魚種には現代では限りがあります。養殖魚を否定しているわけではないのですが、さまざまな生き物をいただけるという寿司の魅力もいつの間にか、例えばサーモンだけとか、経済合理的にも養殖可能な魚種のみに変わっていくかもしれません。寿司である前に、限りある自然の水産資源、さらには限りある生き物であり、命だということを一人一人が改めて気づくだけで、この先も美味しいお寿司を食べ続けていけるということにもつながっていくと思います」。
Q4:持続可能というテーマを、普段の酢飯屋のお客さんの大人ではなく、子ども向けの本にしたのではなぜですか?
岡田「未来は若者のものであり、子どもたちのものですよね。もちろん大人にもそれに比べると短めの未来はありますが(笑)。これからの時代を生きる子どもたちが、幼少期から、命の尊さを通じた環境意識を持っているとなったら、きっと未来の海は豊かだし、当然、お寿司屋さんにも、たくさんの天然の魚種がならぶだろうと思います」。
「おすしやさんにいらっしゃい」のサブタイトル”生きものが食べものになるまで”を象徴する一コマ。一見、ぎょっとしそうなカットだが、重々しくならず軽快に読むことができる
Q5:すごい大事なテーマですよね。でも今回出版される本は、そんな社会的テーマとギャップのあるデザインですね?
岡田「確信犯です(笑)。大切な課題だからこそ、おもしろく、美味しそうに、自然に学びがあるように作りました。お魚が好き!お寿司っておいしい!釣りに興味がある!生き物大好き!好きも興味も美味しいも、実はそれ、すべてが一つに繋がっている。まあ、僕も子どものころ、勉強というものが好きではなかったので(笑)、生きものが食べものになるまでを、一人でも多くの子どもが楽しく読んでくれたらうれしいなと思っています」。
持続可能な社会が叫ばれる昨今、ひょっとすると本著は、大人が一番読むべき本なのかもしれません。
【目次】
プロローグ 魚はどうやって手に入るのか?
第1章 金目鯛がお寿司になるまで
第2章 アナゴがお寿司になるまで
第3章 イカがお寿司になるまで
エピローグ いただきます、ごちそうさまでした
おすしやさんにいらっしゃい!
-生きものが食べものになるまで-
刊行日|2021年2月12日
価格|1760円(税込)
ページ数|40ページ
著者名|文・監修:岡田大介/写真:遠藤 宏
発行元|岩崎書店
ISBN| ISBN 978-4-265-83083-1
≫購入はこちら
酢飯屋 (すめしや)
住所|東京都文京区水道2-6-8
営業時間|17:00~20:00まで
定休日|不定休
価格帯|酢飯屋コース 12,000円(税・ドリンク別)
www.sumeshiya.com/sushi/