岡山デザイン探訪!地域に根付く美に出合う旅。
いま訪ねたい、プレミアムなせとうち

2020.10.14
岡山デザイン探訪!地域に根付く美に出合う旅。<br><small>いま訪ねたい、プレミアムなせとうち</small>
「林原美術館」の外観。軒先や館内で採用された打ち放しコンクリートには、建設時、板の型枠にコンクリートを流し込んでできた木目が残っている

いま、デザイン感度の高い人々が熱い視線を注いでいる岡山。建築、アート、地域が培ってきた職人技、さまざまな魅力がこの土地で輝きを放っている。岡山を訪れれば、必ずやその理由を実感できるだろう。

岡山の文化・芸術は、建築とともに育まれてきたといえるだろう。1945年、空襲に見舞われた岡山の市街地は一面焼け野原となった。しかし文化復興の動きは早く、1948年には総合美術展覧会である日展を誘致。1949年に戦争で焼失した岡山県庁舎の位置調査委員会が発足し、設計競技によって、前川國男が選定された。

前川國男といえば、ル・コルビュジエに師事し、日本の近代建築史に大きな功績を残した建築家である。スチールサッシのカーテンウォールで覆われた県庁舎本館は近代的かつ力強い外観を生み出し、戦後間もない岡山の街の希望の象徴となったはずだ。

前川國男は岡山県内で多数の建築を手掛けており、1962年に開館した「天神山文化プラザ(当初は岡山県総合文化センター)」や、1963年に竣工した「林原美術館(当初は岡山美術館)」がその代表といえる。彫刻のような存在感を放つ「天神山文化プラザ」は芸術文化活動と文化情報発信の拠点として運営されているが、当時より文化を求めた人々の集いの場であったという。「林原美術館」は刀剣や東洋古美術の研究と収集に勤しんだ実業家・林原一郎亡き後に設立されたもの。「岡山城」を彷彿とさせる石垣に沿った階段を上り、レンガが印象的な建物に入ると、空間は中庭を囲みクルリと一周できる前川建築の特徴のひとつ、一筆書きの動線で構成。収蔵品の展示はもちろん、建築的な要素も来場者を楽しませている。

岡山市内にはオリエントの美術品を展示する「岡山市立オリエント美術館」や、岡山藩2代目藩主・池田綱政が自らの憩いの場として築いた大名庭園「岡山後楽園」もあり、1日ではこれらの見どころをめぐりきれないほど。さらに「岡山城」・「岡山後楽園」周辺エリアでは、歴史文化施設を舞台に3年に1度開催される国際現代美術展「岡山芸術交流」が2016年より始動。街を回遊することで、この土地が培ってきた文化や芸術に触れられるのも、岡山散策の魅力といえよう。

岡山のおもしろさは市街地だけにとどまらない。市の中心部から車で30分から1時間ほど行くと、国産ジーンズ発祥の地として知られる児島や、備前焼の店が軒を連ねる備前、白壁の町並みが残る倉敷美観地区にたどりつく。それぞれの地域が誇る鮮やかな職人技を、肌で感じてほしい。

また、注目すべきは岡山県内でつくられるスイーツや調味料、飲料品の数々である。真摯な姿勢でつくられる、製品の味わいのよさは言わずもがな。加えて洗練されたパッケージデザインが目を引き、優れた美意識はあらゆるところに息づいているのだと驚かされる。岡山を訪れれば、ありとあらゆる美に出合えるはずだ。

前川國男建築をめぐる

中庭の左手側にはラウンジがある

「岡山城」周辺に立つ日本近代建築の巨匠・前川國男が手掛けた建築物。機能性と芸術性、そして手仕事の痕跡を感じさせる温もりが見事に調和している。

前川國男の初めての美術館建築
林原美術館

収蔵する重要文化財のひとつ「能装束 紅白締切菊桐文段替唐織」。「岡山芸術交流 2019」会期中は収蔵品の展示を行なっていない。

エントランスの先の中庭を囲むように、展示室をめぐりロビーに抜けるまで、来場者が1周できる一筆書きの動線。近代建築の特徴といえる鉄、ガラス、コンクリートといった工業製品を多用しつつ、外壁には“焼き過ぎ”レンガを使用。手仕事の味わいを残した材料を好んだという前川國男の個性が感じられる。故・林原一郎が収集した美術品や旧岡山藩主池田家から引き継いだ大名調度品を中心とする収蔵品の展示とともに、建築を堪能してほしい。

林原美術館
住所|岡山県岡山市北区丸の内2-7-15
Tel|086-223-1733
開館時間|10:00〜17:00(入館は16:30まで
休館日|月曜(祝日の場合は翌日)、展示替期間(不定期)、年末年始
www.hayashibara-museumofart.jp

コンクリート打ち放しの建造美
天神山文化プラザ

外階段のある外観の側面。彫刻作品のような美しさをもつ。
色に深いこだわりをもつ前川國男がつくった「成層圏ブルー」と呼ぶ星空のような天井

展示室、ホール、練習室、文化情報センターなどを備え、創作から発表まで利用できる芸術文化の拠点として親しまれている。打ち放しコンクリートの壁には木目跡が見られ、宙に突き出すような外階段は力強い構図が特徴。階段の手すり壁の切れ込みは行き交う人の動きを表しているという。黄色い天井部分の真下はピロティとなっており、柱だけで構成された師のル・コルビュジエゆずりの空間。展示室、ホール、2階、地階へつながり、さまざまな目的で訪れる人々が集う場所だ。

天神山文化プラザ
住所|岡山県岡山市北区天神町8-54
Tel|086-226-5005
開館時間|9:00〜18:00
休館日|月曜日、年末年始(12月28日〜1月4日)
www.tenplaza.info

シンボリックなカーテンウォール
岡山県庁

中庭には作家・古橋矢須秀の作品「環」が設置されている。
中庭に抜けるピロティと本庁舎本館。カーテンウォールは鉄とガラスでつくられている。

1957年の落成式で、三木行治知事(当時)が「県民の家」と表現した岡山県庁舎。建物を印象付けるのは鉄とガラスのカーテンウォールだ。敷地の中心に南北に抜ける軸線を設定し、これに直交してピロティでもち上げられた本庁舎本館を置き、その奥にわたり廊下でつながれた議会棟を配置する構成。正面玄関に車寄せはなく、歩車分離が行われていることからも、戦後民主主義の時代にふさわしい建築を目指した思いがうかがえる。

岡山県庁
住所|岡山県岡山市北区内山下2-4-6
Tel|086-224-2111
受付|8:30〜17:15
定休日|土・日曜、祝日、年末年始(12月29日〜1月3日)
www.pref.okayama.jp

芸術・文化に触れる

かつて母屋は醤油製造や市民銀行の窓口として、離れは住居として利用されていたという。

岡山市内には、芸術や文化に触れられるさまざまなスポットが点在。足を運べばきっと、感性を刺激してくれるはずだ。

 

現代アートギャラリーとして始動予定
福岡醤油ギャラリー

改装した地下空間。「岡山芸術交流」では会場のひとつとなっている。
建物内には小さな中庭もある。

明治から昭和初期の建物がギャラリーとして再び息を吹き返そうとしている。運営を行うのは石川文化振興財団。現在は2020年のオープンを目指し、建物の保存・再生・活用へ向けた調整の真っ最中だ。近隣には現代アーティストと日本人建築家がタッグを組み1棟貸しのホテルをつくる「A&A」プロジェクトの宿泊施設や、「CAFÉ KITSUNÉ ROASTERY」などもあり、近い将来、岡山市一帯はアートゾーンとしてより一層賑わうことだろう。

福岡醤油ギャラリー
住所|岡山県岡山市北区弓之町17-35
Tel|086-235-8020
開館時間|9:00〜17:00

オリエントの美術品を展示
岡山市立オリエント美術館

メソポタミア文明に源をもち、イスラム時代まで至るオリエント文化を紹介する、オリエント専門の美術館。西アジアの考古美術品を中心に約5000点を収蔵し、古代から近世に至る土器やガラス、金属器、陶器、モザイク、装身具類など多岐にわたる展示を行っている。設計は建築家の岡田新一が手掛け、西アジア各地の取材旅行で体感したオリエント建築の要素を取り入れたという。館内には喫茶室もあり、ここで鑑賞の余韻に浸るのも一興だ。

岡山市立オリエント美術館
住所|岡山県岡山市北区天神町9-31
Tel|086-232-3636
開館時間|9:00〜17:00(入館は16:30まで)
休館日|月曜(祝日の場合は翌日)、展示替期間(不定期)、年末年始
www.orientmuseum.jp

3年ごとに開催される国際現代美術展
岡山芸術交流

IF THE SNAKE, Okayama Art Summit, 2019 John Gerrard,X. laevis (Spacelab), 2017 Courtesy of the artist, Thomas Dane Gallery and Simon Preston Gallery Pamela Rosenkranz,Skin Pool (Oromom), 2019 Courtesy of the artist, Karma International, Miguel Abreu Gallery and Sprüth Magers Photo: Ola Rindal

芸術を通じて国境や文化、世代を超えた交流が生まれることを目指す国際現代美術展。岡山市内のさまざまな歴史文化施設を会場に、ピエール・ユイグをはじめ、数々の世界的アーティストの作品を街歩きとともに楽しめる。

岡山芸術交流
会期|3年ごと。次回は2022年

元禄文化を代表する日本三名園のひとつ
岡山後楽園

300年ほど前、岡山藩2代目藩主・池田綱政が、自らの安らぎの場としてつくらせた大庭園。四季折々の草花が楽しめる園内の中央には唯心山、そのふもとには水路がめぐり、沢の池と廉池軒の池を結ぶひょうたん池が掘られている。1952年には歴史的文化遺産として特別名勝に指定。1年を通じてさまざまな行事が催されているほか、年3回、園内をライトアップする夜間特別開園「幻想庭園」が開催されており、昼間とは異なる風情を醸す。

岡山後楽園
住所|岡山県岡山市北区後楽園1-5
Tel|086-272-1148
開園時間|3月20日〜9月30日7:30〜18:00(入園は17:45まで)、10月1日〜3月19日8:00〜17:00(入園は16:45まで)
※行事開催により開・閉園時間の変更あり
休園日|なし
https://okayama-korakuen.jp/

世界を魅了する職人技

2009年にスタートした「児島ジーンズストリート」は味野商店街にある。通りには何本ものジーンズが吊られている。
通りの入り口にある巨大なジーンズのモニュメント。

児島、備前、倉敷など、岡山には注目すべきエリアが多数存在している。それぞれの土地に息づく職人技を感じてほしい。

世界各国から多くの人々が訪れる国産ジーンズ発祥の地
児島ジーンズストリート

道路もジーンズカラー。
通りの中ほどにはベンチが置かれた休憩スペースも。

国内外のジーニストたちがこぞって訪れるのが、ここ「児島ジーンズストリート」だ。JR児島駅から徒歩15分、 旧野﨑家住宅から野﨑の記念碑まで約400mの通りに地元ジーンズメーカーのショップや飲食店など40店舗以上が軒を連ねている。「児島は『せんいのまち』とも呼ばれ、江戸時代にはじまった綿花栽培により栄えてきました。足袋や真田紐などをつくっていましたが、西洋文化の流入により学生服や作業服の生産にシフト。厚手織物製造で培った縫製技術を生かし、1965年にマルオ被服(現・ビッグジョン)が日本初の国産ジーンズの生産を開始したんです。その後、数々の事業者がジーンズ製造に転換し、発展を遂げてきたんですよ」と末佐さんは話す。ジーンズの縫製や加工に表れる高度な技術は「児島クオリティ」と称され、多くの人々に愛されている。

児島ジーンズストリート
住所|岡山県倉敷市児島味野2
Tel|086-472-4450(児島ジーンズストリート推進協議会事務局)
http://jeans-street.com/
※営業時間や定休日は各ショップによって異なる

ベンチ近くにはジーンズモチーフのトイレを設置。

ジーンズを学び、楽しみ、体験できる
ベティスミス ジーンズミュージアム&ヴィレッジ

美しいシルエットとディテールにこだわったワークテイストなデザインが、ベティスミスのジーンズの特徴。写真のBAW2135(1万3800円・税抜)は、部分的な生地の裏使いなど随所に遊び心がある

1962年にレディースジーンズメーカーとして児島の地に誕生したベティスミスが展開するアミューズメントプレイス。エリア内にはジーンズの歴史を紹介する「ジーンズミュージアム」やショップ「Betty’s Store」、ジーンズづくりの「体験工場」、製造風景を見学できる「縫製工場」など、さまざまな施設が点在。ジーンズ業界に新しい価値を提案し続けるベティスミスの魅力が詰まっている。

ベティスミス ジーンズミュージアム&ヴィレッジ
住所|岡山県倉敷市児島下の町5-2-70
Tel|086-473-4460
営業時間|9:00〜18:00
定休日|なし
https://betty.co.jp

ジーンズミュージアム1号館

日本初のジーンズの博物館。アメリカで誕生したジーンズの歴史やその時代背景をパネルと展示品で紹介している。児島のジーンズの歴史は「ジーンズミュージアム2号館」で展示。

Betty’s Store

ベティスミスの世界観を表現したショップ。定番商品や新商品を中心にセレクト雑貨も取り揃えている。エリア内にはアウトレットショップ「ファクトリーアウトレット」もある。

美しい景色をもつ焼き締めのうつわ
備前焼のお店 DAIKURA

日本六古窯のひとつに数えられる備前焼の店で、備前焼作家の小川秀蔵さんや小川弘蔵さんの作品を展示販売している。「ビアマグタンブラー」(右:緋襷 6540円・税抜、左:桟切7840円・税抜)にビールを注ぐと、より旨さを感じられるはず。

備前焼のお店 DAIKURA
住所|岡山県備前市伊部715
Tel|0869-64-2710
営業時間|10:00〜18:00
定休日|不定休
www.dai-kura.com

江戸時代の建物を改築した宿
旅館 くらしき

倉敷美観地区を流れる倉敷川のほとりに立つ「旅館 くらしき」。江戸時代に砂糖問屋として商いを営んだ屋敷と蔵を改築しており、外観や内観の随所で当時の大工たちの高度な技術力を間近に見ながら、心休まる快適な滞在をかなえてくれる。

旅館 くらしき
住所|岡山県倉敷市本町4-1
Tel|086-422-0730
www.ryokan-kurashiki.jp

味よし、デザインよしの逸品

岡山の「おいしい」を詰め込んだ個性豊かな品々が勢揃い。味はもちろんのこと、デザインにもこだわりが感じられる。

食べきりサイズの瀬戸内のおやつ
JR PREMIUM SELECT

豊かな自然に恵まれた瀬戸内エリアの魅力を伝える「せとうちのおいしいシリーズ」。岡山白桃のドライフルーツや瀬戸内海の藻塩を使ったアーモンドキャラメルサレなど、ラインアップも豊富。小さなお土産としても◎。

JR PREMIUM SELECT
おみやげ街道岡山、おみやげ街道晴れの国、おみやげ街道桃太郎、ふるさとキューブ、セブン-イレブンハートイン JR 岡山駅中央改札口、セブン-イレブンハートイン 、JR 岡山駅新幹線 改札内、おみやげ街道新幹線上りなど、岡山県内を中心に広島県備後エリアを含めて販売

皮付きの桃を1年中味わえる
果樂

倉敷市浅原で栽培された桃を独自製法で皮付きのまま瓶詰めし、長期保存を可能にした「三桃物語 KIN NO MOMO」(金の桃)(7740円・税抜/1セット)。ジューシーな風味を楽しめる。

果樂
住所|岡山県倉敷市浅原1862-2
Tel|086-527-8281
営業時間|9:00〜17:00
定休日|土・日曜、祝日、年末年始、シーズンオフは不定休
www.karakuinc.net
※現地での販売は6月〜9月中旬まで。オンラインショップにて常時販売。
10月以降の店頭販売は電話にて要問い合わせ。販売店舗については上記URLを参照。

大地と宇宙を感じさせる日本酒
丸本酒造

1867年の創業時より真摯な酒づくりを行う丸本酒造の有機純米吟醸原酒「EARTH SCIENCE」(2100円・税抜)。竹林寺山の天文台に東アジア最大の望遠鏡ができた記念につくられた。

丸本酒造
住所|岡山県浅口市鴨方町本庄2485
Tel|0865-44-3155
営業時間|8:00〜17:00
定休日|3月〜9月は土・日曜・祝日、10月〜2月は日曜・祝日
http://kamomidori.co.jp

 

唐辛子と柚子の無添加調味料
佐藤紅商店

高梁市吹屋地区で生産される柚子胡椒「吹屋の紅だるま」と柚子唐辛子「吹屋の紅てんぐ」(1500円・税抜/1セット)。高梁市内で栽培された唐辛子と柚子を原料に、シンプルな製法でつくられている。ファニーなデザインもポイントだ。

佐藤紅商店
住所|岡山県高梁市成羽町吹屋1108
Tel|080-1487-6077
https://satotakunejp.stores.jp
※現地での商品販売はなし。オンラインショップにて常時販売。販売店舗については上記URLを参照。

素朴な味わいの岡山名物きびだんご
山方永寿堂

伝統の味を守りながらつくる、柔らかくなめらかな舌触りの「きびだんご」。パッケージデザインは岡山在住のデザインユニット、コチャエが手掛けている。(2065円・税抜/1セット「きびだんご」2箱と「きなこきびだんご」1箱入り)。

山方永寿堂
住所|岡山県岡山市中区西川原53-8
Tel|086-270-0202
営業時間|9:00〜17:00
定休日|1月1日
https://eijudo.co.jp

自宅で楽しむスペシャリティコーヒー
ONSAYA COFFEE

岡山の人気カフェ「ONSAYA COFFEE」の「世界のスペシャルティコーヒー飲み比べ」(3340円・税抜/4種類入り)と『濃縮コーヒーカフェオレベース』(3240円・税抜/2本入り)。

ONSAYA COFFEE(奉還町本店)
住所|岡山県岡山市北区奉還町2-9-1
Tel|086-252-1103
営業時間|11:00〜18:00
定休日|なし
https://onsaya.com

text: Akiko Yamashita photo: Shintaro Miyawaki, Haruna Kawanishi
2019年12月号 増刊「プレミアムせとうち案内」


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