編集長 高橋俊宏
9月のエッセイ 「新しい旅スタイルは妄想から。」

2020.9.13
編集長 高橋俊宏<br><small>9月のエッセイ</small> 「新しい旅スタイルは妄想から。」

もともと仕事柄出張が多いので、これまでもいろいろな場所や移動中、移動の合間で仕事をすることが多かった。京都のホテルのロビーで校正をしたり、出張先の温泉旅館で深夜と早朝に原稿を書いたり、空港で校了作業をしたり。そんなときはメールの最後に一筆、「少し涼しくなってきた京都より」なんて格好をつけて忙しさをアピールしたこともあったっけ。

最近は休日、仕事を持ち帰るときは公園に出かける。この状況下で外出や遠出が難しくなったこともあり、少しでも旅気分と閉塞感から逃れるために家(世田谷の端っこ)から徒歩数分にある大きな公園に行く。木陰に囲まれたベンチがちょうど気持ちのいいデスクになる。木漏れ日の中、風を感じて、公園で楽しそうに寛ぐ人たちを眺めながら仕事をしていると気分がいい。あまりにも気持ちがいいので、そのベンチからzoom会議に出席したり(リアルと気づかず背景と勘違いされたことも)、zoom飲み会も挑戦したことがある。うん、アウトドアオフィスだ、なんて。

 

近所の公園。休日のオフィスだ。
外で仕事をしていると心地よい夏のフィンランドを思い出す。

 
妄想力。たまに僕は日常の生活の中で、もしここがはじめて訪れた国だったら、と妄想するときがある。毎日通勤で使う駅を降りたとき、「ここがパリだったら」と思うと、目に入るポスター、行き交う人々、KIOSK、階段の床、いろんなものが新鮮に見えてくる。ほら、海外に行くと見るものすべてが新鮮に見えるあの感じを、無理やりアンテナを付け替えるイメージで「ここは初めて見る土地だよー」と脳みそに言い聞かせると、ちょっとおもしろい気づきが生まれる。目に入るものの情報量が一気に増え、思わぬ再発見があるものだ。

話が少し横に逸れた。しかし、地方であればそんな妄想プレイは必要ないだろう。海でも山でも川でも本物の自然があるから。本物のリゾートになりうるから。例えばもし僕が岡山に住んでいたら、瀬戸内海の無数に浮かぶ島にシーカヤックで上陸してキャンプしながら仕事をするだろう。もし僕が高山に住んでいたら冬は朝一スキーをして仕事に行くだろう。もし僕が嬉野に住んでいたら仕事の合間に何度も温泉に入って気分転換をするだろう(許されるかな?)。ああ、結局妄想してしまうのだが……。

実はそんなライフスタイルがこれからいろんな地域で生まれていくのではなかろうか、と期待を込めて思っている。今号の特集はそれを予感させる内容になっている。近場でのリゾートステイ、旅と仕事を組み合わせたワーケーションなど、いま旅と滞在の新しいサービスがたくさん生まれている。ユーザーとしては旅のスタイルの選択肢が増えたということはありがたいことだ。ぜひチェックしていただき次の旅の仕方、仕事と暮らしの参考にしてみてほしい。

今号は創刊11周年の記念号。あらためて皆様にご愛読の感謝をお伝えいたします。さあ次の1年はどんな年になるのか。1年前はこんなことになるなんて予想もできなかったけど、ニューノーマルという言葉に象徴されるように確実に生き方の価値観が変化することは間違いない。移住や他拠点居住などこれからの新しいライフスタイルが地方から生まれる予感がしてならない。

 

≫「新しい旅スタイルはじまる。」
 

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