自然や食、建築……。
多様性が息づく最新の沖縄をめぐる
Part 2|編集者・黒川祐子
《あの人に聞く、友人を連れて行きたい沖縄》
ディープな沖縄を知るなら、実際に住んでいる人に聞くのが一番!好奇心旺盛な友人を連れて行くならどこへ行く?それぞれの人の得意分野で教えてもらいました!
教えてくれたのは……
黒川祐子(くろかわ・ゆうこ)さん
聴く・考える・伝える仕事。パンフレットやパッケージの企画制作、編集、執筆などを承る事務所「アイデアにんべん」を二人で運営しています。共著に『沖縄島建築』(トゥーヴァージンズ)。
http://idea-ninben.com
副編集長の今さんから「この1年の間にオープンしたお店」というお題をいただいた時、まず街の中のことに想像をめぐらせてしまいましたが、私たちの事務所「アイデアにんべん」のつながりといえば、土や海に近いところにいる人たちだということに気づき……。
「on the farm」は、山原(やんばる)と呼ばれる沖縄本島北部で、年間70品目ほどの野菜やスパイス、ハーブ、コーヒー豆などを育てている畑人(はるさー)・芳野幸雄さんがオープンした、12席の小さなお店です。会ごとに料理人は沖縄県外からも招き、そのとき限りの料理でもてなしてくれます。やんばるの食材にたどり着いた料理人と、生産者仲間を結び付けるプラットフォームにしたい、という発想から動いた畑人! 私が自慢することでもありませんが、こんな人は、そうそういるものではないでしょう。
芳野さんはこれまでにも畑人と料理人、加工所をつなげ、食のアクションを続けてきています。
「沖縄本島で最も山あいの地域“やんばる”には、美味しい島野菜や豚肉、海産物、塩も砂糖もある。これに香辛料が加われば、オールやんばる産でおもてなしができる」
「やんばる畑人プロジェクト」はこんなひと言からはじまっていますが、沖縄がスパイス栽培の北限地、日本のスパイスの最前線であることを意識して旅をすると、より沖縄を味わえるのではと思います。
今帰仁(なきじん)村ではスリランカカリーの店「Haamine’S(ハーミネース)」がオープンしています。流暢な茨城弁を話すスリランカ人の店主も味です。
さて、名護市の久志(くし)といういわゆる限界集落で土地を借り、自給自足型の実践モデルで、地域の構造的問題を世の中に投げ掛けたいと「ワカゲノイタリ村」という場をつくった学生(当時)たちがいます。その村長だった具志堅秀明さんが、名護市の診療所跡をリノベーションしたコミュニティスペース「coconova(ココノバ)」の館長になりました。建築家が代表を務める運営会社のもと、こつこつと空間づくりをしてきたそう。ぱっと見ただけではいまどきな印象に映るかもしれませんが、細部に触れ、そこに佇んでいる人たちを眺めていると、いま社会からどんどん排除されている多様性というものがここでは生き生きとしそうだなぁと思えてきます。子どもから猫までふらっと寄ることができる「公園」であるほか、コーヒーとお総菜の店(曲げわっぱ弁当箱に詰めたランチも)が併設され、イベントやワークショップなども催されています。
「友人を連れて行きたい沖縄」=やんばるを補足しておくと、名護市よりもさらに北に位置する、大宜味村(おおぎみそん)、東村(ひがしそん)、国頭村(くにがみそん)が、世界自然遺産に登録された地域になります。大宜味村観光協会からの依頼で制作し、刷り上がったばかりの「山原3村マップ」は、自然遺産の多様性は森の奥へと行かずとも、暮らしのすぐそばで感じることができることを伝えるためのイラストマップです。「共同売店」(集落の人が共同で出資・運営する沖縄生まれのしくみ)の店長や自然ガイド、博物館の学芸員から話を聞いたコラム付き。3村の観光協会などで配布しています。
やんばるから南下というと、多くの旅行者は西海岸を進むと思いますが、東海岸中部のうるま市は島しょ地域の存在もあってか、土地の磁力に吸い寄せられてくる人が増え、「うるまワタクシプロジェクト」のようなユニークな起業サポートが後押ししています。5つある有人島(4島は車で渡ることができる)のうち、宮城島だけでも「海畑食堂 てぃあんだ」、「あごーりば食堂」が、浜比嘉島(はまひがしま)には「波風コーヒー(波と風と)」が誕生し、先日会った島民は「気がついたらしばらく島を出ずに暮らせていた」とうれしそうに話していました。
うるま市の島しょ地域に宿泊するなら、宮城島の食材や、“おばぁ”たちが昔から食べてきたもの、市場には出回らないような野草を用いて、植物中心のオーダーケータリングやオードブル、ランチボックス、加工品をつくっている「Plantasy」にも着目しておいてください。
最後に街も。「那覇文化芸術劇場なはーと」はできるまでのひと悶着から一転、大小の劇場、展示室、スタジオで催される公演や展示会などの評判は上々です。私自身は、沖縄の現代演劇界にこんなにも力のある役者や脚本家、演出家がいたのか! と目を見開き、演劇好きの方はもちろん、テレビドラマでは沖縄に親しめなかったという人にも足を運んでほしいと思います。
「花ブロックをめぐる旅」もおすすめしたい私には、花ブロックをふんだんにあしらったなはーとの建築からすでに好感がもてます。花ブロックとはさまざまなかたちの穴が開けられたコンクリートブロックのこと。本土では透かしブロック、装飾ブロックなどと呼ばれ、諸外国にもそれぞれの国柄を反映するように存在します。地上戦を経て、沖縄全体の約84%にあたる約10万戸の住宅が失われた後、コンクリートブロックは米軍からもたらされました。沖縄建築の極端なコンクリート化がはじまった、屈折といえる歴史のなかで、沖縄の一人の建築家が発案したのが花ブロックでした。
「裂け目や断層や傷や孔のまわりで、ひとは夢みたり考えたりする」。沖縄の街じゅうにおびただしく配された花ブロックの前で、いつもわたしはジルベール・ラスコーさんの言葉を心に浮かべ、沖縄の歴史を想っています。
on the farm
住所|沖縄県名護市源河53
Tel|0980-43-7753
営業時間|月に数日のポップアップ営業のため、公式Instagramをチェック
定休日|不定休
Instagram|@on_the_farm_yanbaru
Haamine’S
住所|沖縄県国頭郡今帰仁村湧川1031
Tel|080-6022-0083
営業時間|11:00〜17:00(L.O.16:30)
定休日|月・火曜
Instagram|@haamines.okinawa
coconova
住所|沖縄県名護市宮里1004
Tel|090-6859-4861
営業時間|10:00〜20:00
定休日|月曜
https://social-design.town/coconova
海畑食堂 てぃあんだ
住所|沖縄県うるま市与那城桃原196
Tel|090-9562-3910
営業時間|11:00〜15:00(L.O.)
定休日|月〜木曜
Instagram|@umihata_tianda
あごーりば食堂
住所|沖縄県うるま市与那城上原21
Tel|090-3437-9675
営業時間|11:00〜14:00 土・日曜、祝日〜16:00
定休日|水・木曜、第1日曜
Instagram|@ago_riba
波風コーヒー(波と風と)
住所|沖縄県うるま市与那城勝連比嘉1629-1
Mail|info@namikaze.okinawa
営業時間|11:00〜16:00(L.O.)
定休日|不定休
https://namikaze.okinawa/
Plantasy
Mail|sichimentennyo@gmail.com
営業時間|8:00〜18:00(ケータリング、オンラインショップ)
定休日|不定休
※ケータリングは宮城島周辺の提携別荘や宿泊施設のみ。その他への配送は要相談
https://plantasy.theshop.jp/
那覇文化芸術劇場なはーと
住所|沖縄県那覇市久茂地3-26-27
Tel|098-861-7810
営業時間|9:00〜22:00
定休日|第1・3月曜(祝日の場合は翌営業日)
※慰霊の日は開館
https://www.nahart.jp/
沖縄の手仕事にときめ
《あの人に聞く、友人を連れて行きたい沖縄》
1|琉球の神話を知って沖縄の心のルーツに触れる旅へ
2|自然や食、建築……。多様性が息づく最新の沖縄をめぐる
3|知るほどに奥深い沖縄の手仕事にときめく
4|名店は路地裏にあり!那覇でハシゴ酒
5|無農薬島野菜やヴィーガンカルチャー
6|沖縄に来たらまた行きたくなる美味しい記憶づくり
text: Aya Honjo illustration: Hitomi Iha
Discover Japan 2022年7月号「沖縄にときめく/約450年続いた琉球王国の秘密」