浮気者のお殿さまを待つ修羅場
「身替座禅」山蔭右京と奥方玉の井
おくだ健太郎の歌舞伎キャラクター名鑑

2020.9.23
浮気者のお殿さまを待つ修羅場<br>「身替座禅」山蔭右京と奥方玉の井<br><small>おくだ健太郎の歌舞伎キャラクター名鑑</small>
浮気者の右京は玉の井を言いくるめて逢瀬へと出かけるが…

名作歌舞伎を彩る個性豊かなキャラクターを、歌舞伎ソムリエのおくだ健太郎さんが紹介。今回取り上げるのは、恐妻家のお殿さまと情が深い奥方が繰り広げる舞踊劇「身替座禅」に登場する山蔭右京と奥方玉の井です。

おくだ健太郎
歌舞伎ソムリエ。著書『歌舞伎鑑賞ガイド』(小学館)、『中村吉右衛門の歌舞伎ワールド』(小学館)ほか、TVなどで活躍。http://okken.jp

「花子」という狂言を基につくられた、明るく楽しい舞踊劇。恐妻家のくせして家の外にちゃっかりかわいい相手を確保しているお殿さまと、旦那さまのことがだぁ〜い好きで、好き過ぎて束縛しまくる、それはそれは恐ろし……失礼、おやさしい奥方さま。絶妙の配役で展開します。

京都の北白川の宿から「会いたいわ」と、花子の便りが届いたので、飛び立つ思いの右京ですが……さて問題は、奥方・玉の井の目を、どうやってくぐり抜けるか。

「近頃夢見が悪いので、心を清めに参詣の旅に出たいのだよ」とほのめかしますが、案の定難色を示す玉の井。諦めきれず交渉を続けて、屋敷の庭のお堂にこもって、一夜限定の座禅を組むことは、やっとこさ許してもらえました。

たったひと晩か……いやいや、贅沢を言っている場合じゃありません。右京は、嫌がる家来の太郎冠者に「ワシの代わりに座禅をしていろ」と無理矢理押しつけて、いそいそと出掛けていきます。

うんざり顔の太郎冠者が、それでも命じられた通りに座禅を組んでいると……。

「旦那さまは、どうお過ごしだろう?」と、玉の井が様子をうかがいに、庭にやって来るではありませんか! 身の危険に震えおののく太郎冠者。玉の井は「きゅうくつそう……お気の毒だわ」とご休息を勧め、揚げ句の果てには「お姿が見たいわ♥」と、座禅を組む太郎冠者が被っているかつぎ(上等の布)をめくり取ってしまう……と、そこには右京はいませんから、舞台は大パニックです。

裏切りを知った玉の井はある仕掛けで右京を待ち受ける

平身低頭、けんめいのおわびが何とか功を奏して、太郎冠者、おとがめなし、となります。ところが玉の井、その代わりお前に頼みがある、と、こんな提案をするのです。

「いままでお前がしてきたように、わらわに、身替りの座禅をさせてくれ」

夜が白みはじめたころ、花子とたっぷり愉しんだ右京、酒の香りをぷ〜んと漂わせ、美しいしだれ桜の花子の着物をふんわりと羽織って、うっとりと余韻に浸りながら帰ってきます。

「ワシが命じた通り、ちゃんと座禅をしているな。感心〜。お前のおかげで、花子との逢瀬を存分に味わってこれたぞ。一部始終を聞いてくれるか?」

ふすまを被ったまま、うん、とうなずく奥方……。

デレデレの口調で浮気のあらましを語りはじめる右京。あとには、とんでもない修羅場が、待ち受けているのでした……!

text=Kentaro Okuda illustration=Akane Uritani
2019年11月号 特集『すごいぜ!発酵』


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