瀬戸内国際芸術祭でアートの本質を再発見。
羽田未来総合研究所とともに羽田空港の未来を考える連載《HANEDAの未来》。第6回は、「瀬戸内国際芸術祭2019」を主題に、アートの本質について掘り下げる。
香川県 瀬戸内国際芸術祭
推進課 副主幹 常金志信さん
香川県出身。県庁職員として、高松空港の民間委託事業等に携わる。「瀬戸内国際芸術祭2019」の開催にあたり、瀬戸内国際芸術祭推進課に異動。魅力発信を行う。
羽田未来総合研究所
アート&カルチャー事業推進部
ディレクター 石黒 浩也さん
百貨店でのマネージャー・バイヤー職を経て、現職。羽田空港のさらなる価値向上のため、日本の地方風土や文化芸術を羽田から発信すべく活動中。
羽田未来総合研究所
アート&カルチャー事業推進部
シニアマネージャー 倉富 裕さん
日本空港ビルデングにて店舗開発やロボット事業の企画運営を経て現職。中国での留学及び駐在の経験を生かし、訪日外国人目線から羽田の価値向上に従事。
倉富 実は常金さんとはご縁が深くて、過去に同時期に北京に駐在していたり、常金さんが高松空港運営の民間委託に取り組まれている関係で偶然再会したことがありました。今回はアートという新しい領域で、またまた再会を果たすことができて、運命を感じます。
常金 空港関係者の皆さんのご協力もあって、民間委託に至りました。LCCの便数も増え、以前より海外のお客さまも増えています。
石黒 4回目となる瀬戸内国際芸術祭ですが、春会期の盛り上がりはいかがでしたか。
常金 来場者は、比率でいうと前回の約1・5倍です。
石黒 素晴らしいことですね。2018年7月に羽田未来総合研究所が立ち上がり、地方創生と並行して、文化芸術を空港を軸として盛り上げる動きが本格化しました。空港の土壌が成熟してきた中で、瀬戸芸にはとても注目しています。
倉富 羽田と高松は航空ネットワークの面でも密接な関係にあり、高松空港の国内線の年間旅客数の約174万人のうち、約136万人は羽田便とのデータがあります。その中には多くのインバウンドのお客さまも含まれていることから、羽田には、日本に到着されたお客さまに日本のアートを高松とともにしっかりと伝えていく役割があると思っています。
常金 実際、瀬戸芸は首都圏からのお客さまをはじめ、リピーターも多く、来場者の3〜4割はリピーターです。
倉富 政府が観光先進国を打ち出し、2030年にはインバウンド客6000万人を目指している中で、リピーターづくりはとても大切。アートによる経済循環を生み出し、航空インフラと結び付けて日本の地方の隅々までしっかりと循環させていくことが必要であり、羽田未来総研が取り組む重要なミッションのひとつと考えています。
常金 リピーターでいうと、今回、石黒さんと倉富さんをご案内した『小豆島の恋』の作者・王文志さんは、初回から継続して瀬戸芸に参加いただいています。
石黒 『小豆島の恋』は、まさに小豆島の空気感そのものでした。もともと日本は風土が豊かな国なので、表現を変えるだけでものすごく伝わりますよね。
倉富 日本人のリアルな生活の中に、外国のクリエイターが入り込んで感覚がミックスされたときに生まれる表現や共感、価値がありますよね。新たな切り口やアイデアの掛け合わせが、グローバルな視点からも瀬戸芸が成功している要素のひとつだと思います。羽田の場においても、今後、日本のプレゼンテーションを考える中で参考にしたいポイントです。
石黒 外側からの視点で素質を引き出していくことの、地域としてのすごく大きな規模での話が瀬戸芸ですよね。
常金 外からアーティストが来てくださることで、地元では気づけなかったことが浮き彫りになってくる。島の日常を体験して、それをおもしろいと思ってくれる。そうして作品も生まれていきます。
倉富 アートのイメージも、昔より広がりましたよね。
常金 観る側からすると、いま、アートといわれていることは、食事だったり、人の表情だったり、環境だったりと、人間の営みや生業所作そのものであることが多いです。極端にいえば、瀬戸内に来るために、羽田空港に立ったところからがアートの体験ともいえます。そのおもしろさ、すばらしさに、あらためて人々が気づきはじめているのではないでしょうか。
石黒 瀬戸芸は、アートを通して、そうした気づきや考えるきっかけを与えてくれるわけですね。
常金 7月19日からは、いよいよ夏会期がはじまります。ぜひ多くの方に、瀬戸内の魅力を体感していただきたいですね。
石黒 羽田空港としても、瀬戸芸の発展の一助を担いたいです。
text:Discover Japan photo:Masahide Nakamura
2019年8月号 特集「120%夏旅。」
《HANEDAの未来》
1|羽田空港の「場」を活用し、日本の魅力を発信
2|アートによる魅力づくり&環境づくり
3|職人の複製技術を活用し、文化財の魅力を世界へ
4|日本の豊かなものづくりを空港で魅せる
5|地域が誇れる酒を安定して供給する使命
6|瀬戸内国際芸術祭でアートの本質を再発見
7|伝統工芸の技法をファッションの世界へ
8|丹後本来の魅力は人々の暮らしの中に
9|発酵なくしてラーメンなし!
10|デザインとしての家紋が新しい価値をつくる