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丹後本来の魅力は人々の暮らしの中に。

2020.1.10
丹後本来の魅力は人々の暮らしの中に。
丹後半島の付け根に位置する与謝野町。大江山連峰をはじめとする山並みに抱かれる自然豊かな地は、江戸時代、京都西陣の撚糸技術がもたらされたことをきっかけに独自の発展を遂げ、いまも日本最大級の絹織物産地として知られる

羽田未来総合研究所とともに羽田空港の未来を考える連載《HANEDAの未来》。第8回は丹後ちりめんの聖地・与謝野町の山添町長に、海側の京都の魅力をうかがった。

与謝野町長 山添藤真さん
与謝野町出身。江戸時代から続く丹後ちりめん織元の長男として生まれる。パリで建築を学び、帰国後はトップ当選で与謝野町議会議員に。2014年より現職。

羽田未来総合研究所 
アート&カルチャー事業推進部
ディレクター 石黒 浩也さん
百貨店でのマネージャー・バイヤー職を経て、現職。羽田空港のさらなる価値向上のため、日本の地方風土や文化芸術を羽田から発信すべく活動中。

石黒 私がはじめて与謝野町を訪れた際にご案内いただいた、加悦谷平野を望む高台から町全体を見下ろす風景は、想像していた「丹後の美しさ」そのもので、とても印象に残っています。さて、町長・山添さんが思うこの町の魅力って何でしょうか?

山添 与謝野町には、古くから「ものづくり」が息づいています。その代表は織物業で、2020年度は「丹後ちりめん創業300年」を迎えます。丹後ちりめんとは丹後地方特有の撚糸技術を用いた後染め絹織物のことで、与謝野町を含む丹後地域は和装生地の日本最大の絹織物産地です。

また、農業も行政と農家が一体となり「自然循環農業」に取り組むほか、ホップなど新規作物の栽培に挑戦しています。そんな「ものづくり」の風土が自然環境とともに人々の暮らしの中にあることが、与謝野町の大きな魅力ではないでしょうか。

石黒 与謝野で織られたと伝わる織物が奈良の正倉院に納められている、という伝承に、この地の歴史の深さを感じずにはいられませんが、昔から「ものづくり」を育む素地があったのでしょうか。

山添 大陸との交易が盛んだった約1300年前の古代丹後王国の時代、ここは交流地点のひとつとして発展し、この地を通じてさまざまな文化や技術が全国へ広がったのではないかと考えられています。

土地が育んできた産業や人々の営みをベースにしながら、大陸からもたらされたものを吸収し、さらなる発展がなされた。これがいまのものづくりの町のベースになっているのかもしれませんね。

石黒 「日本海側から大陸の文化が入ってきた」という視点は、日本の歴史・文化を考える意味でとても重要です。

山添 いまの「ものづくり」の風土、独自の生活観はその頃から受け継いでいると思います。

石黒 以前、与謝野町のものづくりに携わる職人の方々にお目にかかりましたが、とても気持ちのいい方ばかりでした。

約300年の歴史をもつ丹後ちりめんの世界観でつくられた製品

山添 昨今は合理的で効率的な生き方が推奨されがちですが、職人や「ものづくり」に携わる方々はまったく違う尺度で生きている感じがします。一見非合理的かもしれないその生き方こそが時代を超えていく。そして、そんな「格好いい」気質をもつ担い手が多数いてくれることが、この町の原動力になっていると思います。

石黒 農業分野においても同じでしょうか。たとえば与謝野町は全国初のフリーランスホップの生産販売に成功していますが、ホップ畑でも炎天下でもキラキラと作業されていましたよね。

山添 農家の皆さんは、「農地をどのように未来に継承していくのか」ということに大変研究熱心です。いまは米づくりや施設園芸中心ですが、この町の農業にもっと新しい可能性を見出し、先を見据えた挑戦が必要ではないかと考え、取り組みはじめたのがホップ栽培です。

これも3年や5年ではどうにもならないかもしれない。しかし、次世代のためには「いま」はじめなければならないと一歩踏み出す、自分の利益を超えた生き方には、頭が下がります。

石黒 これから与謝野町に来られる方に、おすすめの楽しみ方や場所はありますか?

山添 場所はまず、町長室でしょうか(笑)。

石黒 (笑)。

山添 晩夏から秋にかけて加悦谷平野を一望すると、稲穂が黄金色に実って米の香りが漂い、「実りの秋」を実感していただけます。また、丹後の本当の魅力は「住民の暮らしの中」にあるんです。

現在も、実際に人が暮らしている「ちりめん街道」はもちろん、気軽に織元を訪ねてください。着物だけでなくスーツ生地を織る織元もありますので、ぜひお仕立てに挑戦して「装いの秋」を愉しんでいただけたらと思います。


文= 松本美子 写真=マツダナオキ
2019年10月号 特集「京都 令和の古都を上ル下ル」

《HANEDAの未来》
1|羽田空港の「場」を活用し、日本の魅力を発信
2|アートによる魅力づくり&環境づくり
3|職人の複製技術を活用し、文化財の魅力を世界へ
4|日本の豊かなものづくりを空港で魅せる
5|地域が誇れる酒を安定して供給する使命
6|瀬戸内国際芸術祭でアートの本質を再発見
7|伝統工芸の技法をファッションの世界へ
8|丹後本来の魅力は人々の暮らしの中に
9|発酵なくしてラーメンなし!
10|デザインとしての家紋が新しい価値をつくる

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