TRADITION

職人の複製技術を活用し、
文化財の魅力を世界へ − 便利堂 −

2020.1.10
職人の複製技術を活用し、<br>文化財の魅力を世界へ − 便利堂 −
羽田空港で展示した、空海の『風信帖』のコロタイプ複製

羽田未来総合研究所とともに羽田空港の未来を考える連載《HANEDAの未来》。第3回は空港×日本美術について、美術印刷を手掛ける便利堂の鈴木社長と語り合う。

便利堂
代表取締役社長 鈴木巧さん
1990年入社、2012年より現職。19世紀の写真印画技法「コロタイプ」を次代に継承するため、国際写真コンペ、印刷ワークショップにも積極的に取り組む。

羽田未来総合研究所 
ディレクター  石黒浩也さん
百貨店でのマネージャー・バイヤー職を経て、2018年より現職。羽田空港のさらなる価値向上のため、日本の地方風土や文化芸術を羽田から発信すべく活動中。

石黒 近年は空前の日本美術ブームです。琳派や伊藤若冲が火つけ役となり、新しい展覧会が開催されるたび、国内外の注目がどんどん高まっています。この機運を活用し、日本の美術品や文化財の発信、保護をしてきたいもの。日本の空の玄関である羽田空港としても、さまざまなアプローチをしていきたいと考えています。

鈴木 便利堂は明治20年創業の美術印刷・出版会社です。長年、日本各地の寺社が所有する文化財・美術品の写真記録や複製に携わってきました。空港のようなパブリック空間で、ぜひ当社の技術をご活用いただきたいですね。

石黒 便利堂さんといえば、法隆寺金堂壁画の複製プロジェクトで有名です。昭和10年に当時の文部省(現・文部科学省)の委嘱で記録撮影をされ、その後に火事で壁画が焼損しましたが、無事に複製できたそうですね。

鈴木 複製には「コロタイプ印刷」という、約150年前にフランスで生まれた写真印刷技法を用いました。もとは単色刷の手法ですが、当社には独自開発した多色刷技術があったのです。工程はすべて手作業になりますが、オフセット印刷をしのぐ色彩や細部の鮮明さ、インクの耐久性があるのが特徴です。

つまり、この技法で文化財を複製すれば、誰でも身近に気軽に素晴らしい芸術に触れることができる。また、2014年から国際写真コンペティション「HARIBAN AWARD」を主催し、グランプリ作品をコロタイプで印刷し、展覧会を開催しています。コロタイプの原点回帰として「現代写真表現のメディア」としての魅力を発信していきたいです。

石黒 明治期に輸入された最新技術が、本家のヨーロッパで途絶えた後も、便利堂さんが守り続けてきたことで伝統技術となった。そしていま、先端の写真表現に挑まれている。素晴らしいことですね。

「国宝 東寺—空海と仏像曼荼羅」(東京国立博物館)と本誌特集号の発売を記念し、羽田空港内でDiscover Japanと便利堂のコラボレート展を実施した

鈴木 最近はコロタイプ印刷のワークショップも開講し、次世代の職人育成も考えていますよ。

石黒 羽田空港ではDiscover Japanの空海特集と連動し、便利堂さんの協力を得て『風信帖』のコロタイプ複製版の展示を行いました。

鈴木 実は京都で私が一番好きな寺院は東寺です。立体曼荼羅を見ると、空海さんの大きな教えを体感できる気がします。空港での展示をご覧いただいた方が、実際に現地に足を運ぶきっかけになるとうれしいですね。

※風信帖=空海が最澄に宛てた3通の手紙。国宝に指定されている。


文=山口紀子 写真=安河内 聡
2019年5月号 特集「はじめての空海と曼荼羅」

 

《HANEDAの未来》
1|羽田空港の「場」を活用し、日本の魅力を発信
2|アートによる魅力づくり&環境づくり
3|職人の複製技術を活用し、文化財の魅力を世界へ
4|日本の豊かなものづくりを空港で魅せる
5|地域が誇れる酒を安定して供給する使命
6|瀬戸内国際芸術祭でアートの本質を再発見
7|伝統工芸の技法をファッションの世界へ
8|丹後本来の魅力は人々の暮らしの中に
9|発酵なくしてラーメンなし!
10|デザインとしての家紋が新しい価値をつくる

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