「種子鋏」鍛冶職人の卓越した技術が生んだ日本初のハサミに、種子島最先端のルーツあり!
日本でふたつの刃が交わるX字形の鋏の起点は、種子鋏であるという。伝統を継承し、次の時代へつなぐため、職人はハサミをつくり続ける。《ロケットと鉄砲、時代の最先端をゆく種子島》の後編。
古来、種子島は良質な砂鉄の産地であった。西之表市の海岸が「鉄浜」と名づけられたことからも、それをうかがい知れる。はじめて目にする鉄砲の模造に取り組めるほど優秀な鍛冶職人が多く存在し、製造技術を開発できたのは、こうした背景があったからだろう。
1543年に難破した明国船に乗り合わせていた鍛冶師が「唐鋏」を伝え、それを改良したものが「種子鋏」だと伝わるが、確証する文献はなく、口承でしかない。
種子鋏は持ち手と刃の中間に支点が位置する日本で最初のハサミ。柄に和鋏の様式を取り入れ左右対称にしたもので、利き腕の区別なく使用できる。
「ミナジリ」と呼ばれる腕部分先端の丸い細工も種子鋏の特徴で、これは次工程の「腕曲げ」で型に固定するための突起となり、裁縫の際に布の食い込みを防ぐ役割を果たす。製作工程は30以上。刃は日本刀の技法によるもので、抜群の切れ味と精巧なつくりを実現するには、熟練した技術が必要とされる。
Tel:0997-23-1240
現在、種子鋏をつくるのは3軒のみ。「田畑刃物製作所」はそのひとつで、鍛冶師・田畑実さんと弟の俊郎さん、妻の久恵さんが、精魂込めて種子鋏を製造している。山田遊さんはその様子を真剣な眼差しで見つめ、感嘆すると同時に、種子鋏の未来を思った。
「卓越した技術はもちろん、田畑さんたちのつくる種子鋏には、彼らの真摯な思いが宿っています。後世に残すためにも、種子鋏が有する物語とともに価値を昇華させる必要がある。歴史と伝統を途絶えさせてはならない品ですから」。
文=大森菜央 写真=吉田素子
2017年7月号 特集「この夏、島へ行きたい理由。」