【漫画】香りの歴史〈江戸時代①〉
香りに込められた忠義
1本の香木をめぐった逸話「一木四銘」とは?

日本は1400年以上の歴史をもつ香り大国。貨幣経済を握った町人が香文化を手にした江戸時代。吉原遊廓や歌舞伎で話題の伽羅は、長屋暮らしの庶民も憧れる香りだった。最高級品の香木をめぐった逸話もご紹介!
監修=稲坂良弘
「日本香堂ホールディングス」特別顧問、脚本家・演出家。
1575年に京都で創業の「香十」前代表。香の伝道師として知られ、『香と日本人』など著書や講演・講座も多数。
漫画で読み解く“香りの歴史”





伽羅にまつわる「一木四銘」の逸話

伽羅といえば、仙台藩の伊達政宗と小倉藩の細川忠興が一本の伽羅争奪を繰り広げた「一木四銘(または一本三銘)」の逸話も有名だ。同輩を殺してまでして主命の香木を入手した侍の忠孝と忠興の温情は、江戸の随筆『翁草』で描かれ、伽羅の価値とともに、その武士道の世界観に江戸市民はいたく感動したという。
ちなみに香木は一木一銘が一般的。一木四(三)銘は、同じ一本の伽羅に、4つ(3つ)の香銘がつけられたという珍しさもある。諸説あるものの、後水尾天皇、伊達政宗、細川忠興、小堀遠州(三銘の場合は除く)がそれぞれ名づけたといわれ、そのことで唯一無二の伽羅になったといえるだろう。
line
伊達政宗(生1567~没1636年)
仙台藩の初代藩主。茶道とともに香道にも造詣が深く、京の公家と香席をともにした政宗の名前がある記録が残る。名香を所有し、現存する一木四銘の伽羅に「柴舟」と香銘をつけた。
細川忠興(生1563~没1646年)
小倉藩の初代藩主。芸道に秀でた父・幽斎に負けず教養人として知られる。細川三斎の名をもつ利休七哲の一人。茶道や和歌、香道に精通。一木四銘の逸話の伽羅に「白菊」と命名。
後水尾天皇(在位1611~1629年)
第108代天皇。徳川秀忠の娘和子を皇后に。諸芸道に通じ、特に書は有名。皇后と文芸復興のため尽力する。一木四銘では「藤袴」を名づけたとも。多くの勅名香を残した。
和子皇后(生1607~没1678年)
志野流に端を発する米川常伯に香を学び、組香の「五月雨香」や人形を使った「盤もの」と呼ばれる組香を手掛けた。源三位頼政由来の蘭奢待を持っていたとも伝えられる。
庶民にも広がった世俗の香り
≫次の記事を読む
01|飛鳥~奈良時代①
02|飛鳥~奈良時代②
03|平安時代①
04|平安時代②
05|鎌倉~戦国時代①
06|鎌倉~戦国時代②
07|江戸時代①
08|江戸時代②
09|明治時代~現代
10|香りのキーワード
text: Yukiko Mori illustration: Takayuki Ino
2025年5月号「世界を魅了するニッポンの香り」