TRADITION

【漫画】香りの歴史〈鎌倉~戦国時代①〉
戦国武将の香木文化
一流の武将は香木収集家!?

2025.5.4
【漫画】香りの歴史<small>〈鎌倉~戦国時代①〉<br>戦国武将の香木文化<br>一流の武将は香木収集家!?</small>

日本は1400年以上の歴史をもつ香り大国。武家が権力を握った戦国の世は、香木を賞玩する時代へ。心を鎮めて意識を覚醒させる武家のお香は聞香の姿へと結ばれる。「香道」が花開いた、鎌倉〜戦国時代の香り文化とは?

監修=稲坂良弘(いなさか よしひろ)
「日本香堂ホールディングス」特別顧問、脚本家・演出家。
1575年に京都で創業の「香十」前代表。香の伝道師として知られ、『香と日本人』など著書や講演・講座も多数。

漫画で読み解く“香りの歴史”

生死を分かつ戦に向けて
香木を焚きしめた武家の覚悟

香りを兜に焚きしめて出陣した武将たち
大坂夏の陣にて、徳川家康家臣の井伊軍に討たれた豊臣軍の木村長門守(重成)の首実験の場。その際、重成が鎧兜に焚きしめていた馥郁たる香りが広がった。若武者の覚悟や潔さに家康は感服し落涙。後に、講談の演目として語り継がれている
月岡芳年『徳川十五代記略 神君大坂御勝利首実検之図』/東京都立図書館蔵

権力の中枢を武家が握った鎌倉から室町時代。権力者となった武家は、朝廷や貴族が愛好していた香り文化へ手を伸ばす。雅趣あふれた薫物文化を手中にしたが、彼らが惹かれたのは香木そのものだった。「天与の香木こそ至高」と、人がつくることができないものに価値があるとして、香木一片を切り取って炷くことを好んだ。

戦に生死を懸ける武家は、一片の香木の香りに精神を集中させて、鎮静と覚醒のひとときを愉しんだ。それが日本独自の聞香の姿へとつながっていく。また戦に向かう際は、お香を兜に焚きしめて覚悟を決めて出陣する者も。

大坂夏の陣で討ち死にした豊臣勢の木村重成を首実験する際、兜より漂う香りに徳川家康は感服したという。香木の香りの素晴らしさに武将の格や覚悟がたたえられたのだ。

挑んだ戦いに勝ち、財を得ると、武将はこぞって最高の香木を手に入れた。一流の武将は必然的に香木収集家になっていく。鎌倉・南北朝時代は、沈香の輸入が一気に増えていて、武将たちが頻繁に買い付けたことがわかっている。

香木好きの武将として有名なのは南北朝時代の型破りな婆娑羅ばさら大名・佐々木道誉どうよだ。無類の香木好きでありコレクターだった道誉は、大原野の花見会で、高価かつ貴重な香木を、ひと抱え篝火に投げ入れて燃やした豪胆な逸話が残っている。

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〈鎌倉~戦国時代②〉
織田信長はお香の力で名を知らしめた!?

 
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text: Yukiko Mori illustration: Takayuki Ino
2025年5月号「世界を魅了するニッポンの香り」

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