TRADITION

香りのキーワード
「六種の薫物」、「香十徳」とは?

2025.5.7
香りのキーワード<br>「六種の薫物」、「香十徳」とは?

貴族たちの雅な薫物文化に触れられる「六種むくさ薫物たきもの」、香りの作用を記した「香十徳こうじゅっとく」。香りの世界を嗜むならば、知っておくと理解が深まる。

《六種の薫物》

平安時代には「貝合わせ」という対の貝を探す遊びも流行した。金彩色を内側に施した二枚貝に薫物(練香)も入れた
写真提供=小宮広嗣

薫物とは、香原料を粉末にして調合し、ハチミツや梅の果肉で練り合わせた練香のこと。薫物の製法は、鑑真によって伝えられたともいわれていて、平安時代のお香は薫物が主流だ。当初は基本の調合方法に倣っていたが、少しずつ独自の工夫がなされて、香料を足し引きしてつくられるようになっていく。

丸めて粒にしたものを壺に入れて土に埋め、香りを馴染ませ熟成させるなど、手間暇をかけて自分好みの薫物に仕上げていった。さまざまな貴族が手掛けた薫物の中でも、後世に残る優れた薫物の代表が「六種の薫物」だ。梅花、荷葉、菊花、落葉、侍従、黒方の6種類となっていて、春夏秋冬に対応した季節の香りとなっている。黒方は通年の祝いや儀式には欠かせない香りだった。

《香十徳》

中国・北宋時代を代表する詩人・黄庭堅こうていけんが、お香の有用性や優れた特性を40文字で詠んだ「香十徳」。室町時代の僧・一休宗純の書が有名。学識の高さや諸芸道に通じながらも、世俗の権威に従わず反骨と風狂な生き方で知られた一休が書き広めた香十徳には、公家や武家の教養人も注目した。いまも実感できる香りの十徳が書かれている。

黄庭堅 (1045~1105年)
中国の北宋時代を代表する詩人であり政治家、文学者。書家としても有名。「香十徳」では、お香の効用を格調高く端的に詠んだ
『君臣圖像』/国文学研究資料館蔵
一休宗純 (1394~1481年)
室町時代の大徳寺の高僧。東山文化を代表する人物であり、お香にも造詣が深い。黄庭堅の「香十徳」を世に広めた 没倫紹等賛
『一休和尚像』/ColBase

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text: Yukiko Mori illustration: Takayuki Ino
2025年5月号「世界を魅了するニッポンの香り」

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