琵琶湖の歴史をめぐる。
かくれ里 菅浦の伝説/観音の里 長浜
滋賀県 秘密の琵琶湖
随筆家・白洲正子が「かくれ里」と称した“奥琵琶湖”の最北部、菅浦集落。そして、「観音の里」として祈りの文化が根付く十一面観音パラダイス・長浜市。いま、琵琶湖の歴史をめぐる旅へ出掛けよう。
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隠れ里・菅浦の伝説とは?
琵琶湖の最北部「奥琵琶湖」は北欧のフィヨルドのように湖岸まで山がせり出す美しい景観が広がる。湖に突き出した岬状の葛籠尾崎(つづらおざき)の西岸に位置するのが神秘の隠れ里・菅浦集落だ。
静寂に包まれた湖岸を歩くと目に入るのは、湖に映る山々の木々と静かに打ち寄せる波模様。中世から存在し、村の内外を隔てる茅葺きの四足門をくぐると郷愁を誘う入り江ののどかな風景が広がる。
この地には中世の時代、村の規則である村掟の制定や大浦庄との150年にわたる境界争いなどから外部の支配に屈しない独自の高度な自治組織「惣村」がつくられた。その伝統と自立の精神は現在も継承されている。
奈良時代には恵美押勝の乱で敗れ、廃位になった淳仁天皇が、759(天平宝字3)年、当地に保良宮を営んだという伝説があり、地域の氏神である須賀神社の裏山に淳仁天皇の舟形御陵という遺構が残る。
こうした菅浦に伝わる話と地域の深い信仰心は、近江を愛する随筆家・白洲正子の心を惹きつけ、『かくれ里』で敬意をもって紹介されている。かつて域外に出る方法が山を越えるか湖を船で渡るしかなかった秘境を散策する。往時の面影を色濃く残す光景は、古きよき原風景そのものだ。
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十一面観音パラダイス・長浜へ
菅浦のある長浜市では、平安時代頃より仏教文化が花開いたが、戦国の動乱期で大きく変容し、村々にあった多くの寺院は無住・廃寺化。高月町を中心に残された多くの観音像は村の守り本尊として地域に迎えられ、全国でも珍しく民衆が献身的に守り継いできた生活文化がいまも息づくことから「観音の里」と呼ばれている。
その中で白洲正子が「近江で一番美しい」と評した渡岸寺観音堂(どうがんじかんのんどう)、向源寺(こうげんじ)の国宝・木造十一面観音立像をはじめ、130体を超えるといわれる市内の観音像をめぐれば、宗派の枠を超越し「すべてを受け入れる」多様性に満ちた、祈りの精神文化を目の当たりにできる。
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琵琶湖の景色と共に味わう美食
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菅浦郷土史料館(菅浦集落)
住所|滋賀県長浜市西浅井町菅浦
Tel|0749-53-2650(長浜観光協会)
開館時間|10:00~16:00
開館日|日曜(4~11月)※開館日以外は2名以上、3日前までに要予約。夏季(7月20日~8月)は休館
料金|大人300円、小学生以下100円
渡岸寺観音堂(向源寺)
住所|滋賀県長浜市高月町渡岸寺50
Tel|0749-85-2632(渡岸寺観音堂国宝維持保存協賛会)
拝観時間|9:00~17:00(冬季~16:00)
拝観料|仏像拝観500円、小学生以下無料
https://douganji-kannon.sakura.ne.jp
text: Ryosuke Fujitani photo: Sadaho Naito, Robert Ippei
2024年10月号「自然とアートの旅。/九州」