黒糖の魅力を引き算で表現する
沖縄初のBean to Bar専門店《TIMELESS CHOCOLATE》
|沖縄名産・黒糖を世界の「KOKUTO」に!②
約400年もの歴史がある沖縄の黒糖づくり。その価値を再構築してものづくりをする、仕掛け人たちの熱い取り組みで、黒糖はいま「KOKUTO」として世界に大きく羽ばたこうとしている。
今回は、林正幸さん率いる沖縄初のBean to Bar「TIMELESS CHOCOLATE」へ。黒糖のテロワールを最大限に生かすためのシンプルなチョコレートづくりに迫る。
沖縄本島中部に位置する北谷町にある「TIMELESS CHOCOLATE」は、2014年にオープンした沖縄初のBean to Bar(ビーントゥバー)専門店。
オーナーの林正幸さんは、オーストラリアのメルボルンに滞在中、エスプレッソの奥深さに惹かれる。まず濃縮したエスプレッソを飲み、次に砂糖を入れて味の変化を楽しみ、さらに好みの味に仕上げるおもしろさ。しかし皆、コーヒー豆のテロワールには熱心なのに砂糖を語る人はおらず、「砂糖にもテロワールはあるはずだ。サトウキビを基幹作物とする沖縄には黒糖文化がある。沖縄で砂糖の可能性を探ってみたい」と移住を決意。
黒糖を求めて離島をめぐるうちに、大きくふたつの分類(バニラや生クリーム、カスタードのようなタイプと、焦げたようなビター風味や塩味を感じるタイプ)があることに気がつき、テロワールによってここまで味が変わるのかと衝撃を受ける。2014年頃のことだ。当時、黒糖をそこまで深く掘り下げて、世に発信した人は沖縄にはいなかった。
TIMELESS CHOCOLATEの製法は至ってシンプル。世界中から厳選した高品質のカカオ豆を仕入れ、豆の個性に合わせて殻を付けたまま、コーヒー焙煎で学んだ知識と技術を生かし、産地ごとに異なる味わいをもつカカオ豆を自家焙煎。旨みを最大限に引き出したカカオ豆の殻(カカオハスク)を砕いて、殻とカカオニブ(胚乳部)に分け、カカオニブをペースト状にして、黒糖を加えて練り上げ、テンパリング後、成型する。
カカオと黒糖のみを原料とする、引き算のチョコレートだからこそ、味の表現に黒糖を用いるおもしろさがあると林さんは言う。
「海外の友人に黒糖を食べてもらったときに、“これはなんのスイーツだ?”と驚かれました。砂糖を食べる文化がない外国では、黒糖はまだ未知の存在ですが、そこに可能性があると思います。以前、焚き上げたばかりの黒糖をお客さんに振る舞っていたら、『やーがなんでこの味を知ってるばー。私にとって黒糖はこの味が本物。ヤマトンチュ(大和人)がなぜこの味を知っているのか? この美味しさは沖縄の人にとっての大切なヌチグスイ(命の薬)です。ぜひ、広めてくださいね』と涙しながら話してくださって。黒糖職人・渡久地克さんとともに焚き上げた純黒糖でした。私たちは沖縄の黒糖文化をチョコレートで後世につなぎ、世界に発信していきたいと思っています」
2020年に沖縄県の「県知事賞」を受賞
シングルオリジンチョコレート
自家焙煎で美味しさを最大限まで引き出したカカオ豆と、黒糖や島ざらめのみでつくるシンプルなチョコレート。酒との相性もいい
カカオ黒糖 CANDIED CACAO(写真右)
黒糖工房「上地屋」とのコラボ商品。深いコクと甘みのある西表島黒糖と、ピーナッツ風味のカカオを合わせた黒糖菓子
生黒糖ボンボンBOX(写真左)
あんのような口溶けの純度100%の黒糖を、砂糖を一切加えないガーナ産カカオ100%のチョコレートで包んだボンボンショコラ
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島の個性を生かしたラム
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TIMELESS CHOCOLATE
住所|沖縄県中頭郡北谷町宮城3-223
Tel|098-923-2880
営業時間|9:00〜18:00
定休日|なし
01|黒糖を進化させる仕掛け人たちの挑戦
02|沖縄初のBean to Bar専門店《TIMELESS CHOCOLATE》
03|沖縄の老舗泡盛蔵《瑞穂酒造》が醸す島の個性を生かしたラム
04|《サトウキビ農家・宮崎雄志さん》のアート感覚で遊ぶサトウキビ栽培
05|黒糖を進化させる仕掛け人たちが語り合うサトウキビと黒糖に見る、沖縄の未来
text: Kiyomi Gon photo: Wataru Oshiro
取材協力=沖縄県黒砂糖協同組合、まるみつこうさく
Discover Japan 2024年7月号「沖縄」