Mauvaise herbe / モヴェズ エルブ
沖縄の食の可能性を開拓する
小島圭史シェフの挑戦【前編】

県外や海外にもファンが多い、フレンチの出張料理「名前のない料理店」。シェフの小島圭史さんは、2年前に立ち上げたレストラン「Mauvaise herbe(モヴェズ エルブ)」を拠点に素材を調理するという料理の枠を越えた、さまざまな取り組みを行っていた。資源とは?食材の価値とは?小島さんの想いをうかがった。

サイフォンで6種類(チコリ、カーリーレタス、コリアンダー、イタリアンパセリなど)の根から抽出したエキスにルートチコリの風味をプラス。乾燥させた桑の葉っぱをのせた
本島中部にある完全予約制のレストラン「Mauvaise herbe(モヴェズ エルブ)」は、オーナーシェフの小島圭史さんが一人で営むカウンター5席の小さな店。メニューはおまかせコースのみで、調味料の一部を除き、すべて沖縄の素材を使用している。
本日のメニューは「根」、「マガキ貝 琉球猪」、「島山羊」、「琉球ハシブトガラス シロガシラ キジバト」、「マべ 豆」、「台湾カマス」、「あやはし牛」、「草 土」、「フロマージュブラン パッションフルーツ」、「苦菜」。
1品目の根は、とう立ち(花芽がつき、茎が伸びた状態)した野菜やハーブ6種の根をサイフォンで抽出したスープ。ほどよい野生味がじんわり染み、すっと身体が整うような気がする。

沖縄で有害鳥獣に指定されている野鳥類を下ごしらえして、パテ・アン・クルートに。シロガシラは骨ごとたたいてミンチに。イチゴの乳酸発酵ソース、白菜の酢でマリネしたナスタチウムの実、野鳥のコンソメジュレを添えて
写真の料理は、フランスの伝統料理パテ・アン・クルートで、沖縄で有害鳥獣に指定されている琉球ハシブトガラスやシロガシラなどを使用している。フザンタージュ(熟成)で風味を上げポルト酒でマリネしたカラスは、濃厚でまろやかで深い味わい。白ワインを少し加えたシロガシラとキジバトは口当たりのよいコリコリ感が楽しい。添えられた3種のソースと合わせると、旨みや塩味、爽やかな酸味が交互にやってきて、これがパテの美味しさなのだと合点がいった。
小島さんはひと皿ずつ、素材を手に入れるところから、調理して一枚の皿になるまでを丁寧に話してくれる。そのたびに、なんと途方もない手間暇をかけた贅沢なひと皿なのだろうと、気持ちが引き締まる。
そうだ、私たちがいただいているのは、すべてがいのちなのだということを、あらためて教えてくれる。
ひと口ごとに身体に染み渡る
小島シェフの料理

マガキ貝(沖縄ではティラジャーと呼ばれる)は琉球猪の出汁をかけて蒸し煮にした。その“ジュ”をソースとして添えて。スライスした自家製琉球猪の生ハムとサラミと

沖縄在来種の山羊。生のもも肉の芯と首の皮をタルタル仕立てに。小麦・島米酵母・アオリイカの墨を合わせて焼いた“コカ”にのせ、カラシナの種、ヨモギの繊維などをあしらう

通常は市場には出回らない、近海の岩と砂場に刺さるように群れでいる大きな二枚貝のマべを蒸し焼きにした。えんどう豆のソースと花、うずら豆の豆乳の泡をのせて

神経締めから離水をしたフィレに、キビナゴの稚魚のガルム(魚醤)を塗り、くるっと巻いて炭火で焼き、カマスのアラから取ったスープを煮詰めたソースと島ニンニクのルイユを合わせた。レモンバームを散らして

数回のお産経験のある母牛(経産牛)を1年半かけて再肥育。イチボを炭火で転がしながら焼き、仕上げに島米の稲藁で燻す。1週間乳酸発酵させたビーツがソース代わり。生コショウは塩漬けから塩抜きしキャベツの酢に漬けた

ツボクサ、チドメグサ、オオバコ、スミレの花など7種の草を白菜の酢とメランジェ。ミルクから乳清を軽く抜いたものと合わせた。島ゴボウ畑の土・小麦・泥水でつくる「土」

沖縄の牛乳を使った自家製のフロマージュブラン。ハチミツとパッションフルーツの果肉・果汁・種、伊江島の落花生、読谷の紅芋を軽く発酵・乾燥させたパウダーをかけて

苦菜のエキスと、沖縄の海藻・イバラノリの抽出水に焦がし黒糖を合わせて凍らせ、練り上げた〆のデザート。やんばるのスパイスを加えて焼成したパンデピスを粉砕して添えた

ノンアルコールドリンク。左はい草の蒸留水に生のい草の穂先を加えて水出しした。中央はカモミールとレモンバームの蒸留水に生葉とレモングラス。右は発酵~焙煎したタンポポの根の抽出水

text: Kiyomi Gon photo: Tsunetaka Shimabukuro
Discover Japan 2022年7月号「沖縄にときめく/約450年続いた琉球王国の秘密」