黒糖を進化させる仕掛け人たちが語り合う
サトウキビと黒糖に見る、沖縄の未来
|沖縄名産・黒糖を世界の「KOKUTO」に!⑤
約400年もの歴史がある沖縄の黒糖づくり。その価値を再構築してものづくりをする、仕掛け人たちの熱い取り組みで、黒糖はいま「KOKUTO」として世界に大きく羽ばたこうとしている。
今回は、それぞれの得意分野を生かして、沖縄のサトウキビや黒糖を盛り立て、価値を高めようとしている仲里彬さん、宮崎雄志さん、林正幸さんに、想いを語ってもらった。
「うまりん」を継承するために、何ができるのか
林 仲里くんとはじめて会ったときに、サトウキビや黒糖について、僕の考えを話したら、わーって両手で頭を抱えて「ずっと泡盛を研究している僕たちが、沖縄の基幹作物のサトウキビで、世界に名を馳せるようなラムを造らないと駄目だ!」って。そこからの快進撃はすごいですね。
仲里 林さんからカカオと黒糖だけで、さまざまなチョコレートを表現できることを教わり、衝撃でした。「僕はラムで結果を出します!」って思わず叫んでいました。
林 その後、仲里くんが試作で飲ませてくれたアグリコールラムは素晴らしかった。
宮崎 アグリコールラムは品種や土壌、栽培方法によるサトウキビの品質が100%出ますね。いいサトウキビを育てたいという農家さん自身がブランドになれるラムだと思います。
仲里 いまONERUMの取り組みに賛同してくれる農家さんが増えていて、従来のイメージにある「サトウキビは儲からない」じゃなくて、おもしろいって思ってもらえたら、将来サトウキビ農家を目指す人も現れるかもしれない。次の世代へ産業をつないでいくのも僕たち世代の仕事だと思うから。
南部に自社のサトウキビ畑「ONERUMファーム」 があるのですが、原料をつくる畑というよりは、僕たちの活動の名刺代わり的な存在。同じ思いをもつ人とのコミュニケーションの場でもあります。
宮崎 僕は目指していることが大きく3つあって、ひとつは製糖工場でその年につくった黒糖がきちんと消費されるような認知度アップにつながる活動。そのためには、ライフスタイルの中で黒糖に触れるシーンをどんどん発信していきたい。たとえば、“運動やサーフィンの後には黒糖”。“お酒と黒糖はセットで”とか。僕は飲む前に黒糖を食べると二日酔いしないんです。ふたつ目は畑で遊ぶこと。区画を小さく分けて、コーヒー屋さんやスイーツをつくる人、洋服屋さんとかが、サトウキビを育てて黒糖をつくれば、その人のオリジナル黒糖になりますから。畑にはこういう楽しみ方もあるかなと。3つ目は、渡久地 克さんのような、昔ながらの製法にこだわる黒糖を残していくこと。黒糖が出来上がることを、まるで赤子が誕生するように「うまりん(沖縄方言・うまれること)」って表現するんです。そこに込められた誇りや愛を大切にしたいですね。うまりんを継承していくために、自分に何ができるのか考えたいと思います。
黒糖カルチャーが生む沖縄ツーリズムの可能性
仲里 最近、福島から移住した人と話す機会がありまして。福島にいたときはお米はみんながつくっていて、いただけるから、買ったことがないっていうんです。青森の人は当たり前のようにリンゴの品種を言い当てられるとか。沖縄県民って、基幹作物とはいえサトウキビを全然知らない。全部黒糖になっていると思っています。お恥ずかしいことに、私もお二人に会うまでは何も知らなかったですし。サトウキビを知ることは沖縄を学ぶこと。教育の分野でもこの産業とちゃんと向き合ってほしいなと思います。
林 黒糖を追いかけて10年、より広く魅力を伝えるためには、どんな黒糖なら扱いやすいんだろう? と考え続けてたどり着いたのが、固形じゃなくて粉末状態であることです。いまのご時世、砂糖は悪みたいになっているけど、黒糖はミネラルやビタミンが豊富と証明されているし、粉末ならヨーグルトに入れたり、バタートーストにかけたりとか、暮らしに取り入れやすくなる。
さらに、これからの新しい黒糖の在り方も考えていて。たとえば、8島の黒糖にはそれぞれ個性と魅力があるけれど、すべてがチョコレートやコーヒーと合わせたり、調味料として優れているかというとちょっと違う。だったら、黒糖を再構築して新しい黒糖をつくったらいいと思うんだよね。
具体的には、自分たちみたいなチョコレートの専門家やパティシエ、ソムリエ、コーヒーを焙煎する人、現役のサトウキビ農家など、プロフェッショナルを集めて、黒糖をテイスティングして、最高のバランスでブレンドした黒糖を粉末状にする。今年はこんなメンバーのセレクションで、西表島50%・粟国島30%のブレンドになっていますとか。島のテロワールをイメージできるような、独創性をもたせたかっこいいパッケージにして。それを東京の有名なコーヒー店のラテのメニューとかに使ってもらい、商品も一緒に並べておく。粉末状ならこれまでとは違うフィールドで全然違うアプローチもできると思う。そこで、黒糖ってなんだ? って興味をもってもらえたら、離島の黒糖を試すとか、沖縄に足を運ぶとか、次の展開も考えられる。過去にはサブカルとか、いろんなムーブメントがあったと思うんだけど、いま時代を動かしているのは絶対的に食だと思う。そして、すべての食の原点である砂糖と塩があるこの島はすごい。
宮崎 そうですね。それに世界のフィールドで戦うときには、産地がオーガニックであることが大前提だから、沖縄もそろそろ本気で準備しないといけないなと思いますね。
林 そして、さっき雄志が言った洋服屋がサトウキビを育てるとか、クラブに黒糖を持っていくとか、そういうスタイルがひとつのカルチャーになってくれたらとってもかっこいいし、黒糖という食を軸に、ファッションや音楽、旅もどんどんつながっていける。これって、ツーリズムに広がっていくことにもなると思う。
仲里 僕たちが黒糖カルチャーを築いていかないとですね。
<世界のトップバーテンダーとのプロジェクト>
ここからは、瑞穂酒造のラムやリキュールを使った世界最高レベルのバーテンダー考案のカクテルと、TIMELESS CHOCOLATEの黒糖スイーツが味わえるバーを紹介しよう。
「ASIA’S 50 BEST BAR」にもランクインする那覇市のバー「El Lequio」。同バーを手掛けるSG Groupファウンダーの後閑信吾さんが生み出すカクテルは、世界各地にファンが多い。El Lequioが沖縄にできたことををきっかけに、瑞穂酒造の仲里さんとプロジェクトがスタート。「KOKUTO DE LEQUIO」シリーズを共同開発している。今後も黒糖をはじめ、沖縄のさまざまな資源を活用した持続可能な新しい酒を開発予定。沖縄の黒糖が「KOKUTO」として、世界進出するムーブメントの勢いは止まらない。
「THE OKINAWA ISLANDS RUM」→マブヤーのめーごーさー
沖縄の方言で魂(マブヤー)のめーごーさー(ゲンコツ)のようなニュアンスのカクテル。THE OKINAWA ISLANDS RUMにKOKUTO DE LEQUIO、リンゴ、オレンジワイン、ミルクの入った、さっぱりとしたリンゴの酸味がカラフルに変化して、味わいがどんどん深くなる
「KOKUTO DE LEQUIO」→黒糖でティラミス
マスカルポーネ、コーヒー、ミルク、ココアを本物のティラミスを思わせるデザインで演出するカクテル。黒糖の濃厚な甘い香りに引き寄せられ、ひと口含むとまるでティラミス。その奥で複雑な酒の旨みが追いかけてくる。極上のティラミスを食べたような満足感が残る
「KOKUTO DE LEQUIO Yambaru Spiced Rum」→Yambaru Mojito
酵素、ミントとライムのバランスが絶妙。緑の香りに包まれるような美味しさで、ラムに込められた沖縄ならではのボタニカル(シークヮーサー、月桃、ピパーチ)の余韻がすがすがしい
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El Lequio(エルレキオ)
住所|沖縄県那覇市安里1-3-3
Tel|098-975-9674
営業時間|19:00〜翌2:00
定休日|なし
01|黒糖を進化させる仕掛け人たちの挑戦
02|沖縄初のBean to Bar専門店《TIMELESS CHOCOLATE》
03|沖縄の老舗泡盛蔵《瑞穂酒造》が醸す島の個性を生かしたラム
04|《サトウキビ農家・宮崎雄志さん》のアート感覚で遊ぶサトウキビ栽培
05|黒糖を進化させる仕掛け人たちが語り合うサトウキビと黒糖に見る、沖縄の未来
text: Kiyomi Gon photo: Wataru Oshiro
取材協力=沖縄県黒砂糖協同組合、まるみつこうさく
Discover Japan 2024年7月号「沖縄」