FOOD

「蕪木」蔵前で出逢う珈琲とチョコレートの喫茶室
大熊健郎の東京名店探訪

2021.1.7
「蕪木」蔵前で出逢う珈琲とチョコレートの喫茶室<br><small>大熊健郎の東京名店探訪</small>
一枚板のカウンター越しに蕪木さんがコーヒーを淹れるさまを眺める

「CLASKA Gallery & Shop “DO”」の大熊健郎さんが東京にある名店を訪ねる《東京名店探訪》。今回は、コーヒーの焙煎所とチョコレート工房を併設する喫茶室「蕪木」を訪れました。

 

大熊健郎(おおくま・たけお)
「CLASKA Gallery&Shop “Do”」ディレクター。国内外、有名無名問わずのもの好き、店好き、買い物好き。インテリアショップ「イデー」のバイヤー&商品企画、「翼の王国」編集部を経て現職
www.claska.com

蕪木祐介さん
盛岡での学生時代に珈琲文化に触れ、焙煎の仕事をはじめる。卒業後チョコレートメーカー勤務。その後独立し、「蕪木」を立ち上げ、現在に至る

誰にでもお気に入りの喫茶店がひとつやふたつあるだろう。コーヒーが美味しい、内装や店の雰囲気が好みで落ち着く、店主がおもしろい。好きな理由は人それぞれでも、多くの喫茶店好きに共通する思いはおそらくひとつ。そこが自分の「居場所」として感じられるかどうかということ。 

自身も喫茶店に「居場所」を見出すことで、救われる思いをしたことが少なくなかったという店主が、心を込めて営む店が台東区三筋にある。コーヒーの焙煎所とチョコレート工房を併設する喫茶室「蕪木」だ。

小さなオフィスビルや商店、町工場や住宅などが混在する東東京らしい町並みに、静かに溶け込むようにその店はある。趣のある落ち着いたエントランスにはじめは少し尻込みする人もいるかもしれない。でも思い切って扉を開ければ大丈夫。大きな焙煎機とスタッフが明るく出迎えてくれ、階段を上がった2階にある喫茶室を案内してくれる。2階に上がるとさらに喫茶室に入るドアがある。それはまるでどこか違う世界へつながる扉のようであり実際そうなのだ。

扱っているコーヒー豆は8種類ほど。選ぶ豆はコーヒーの原産地であるエチオピアが半数以上。ブレンドは奥行きのある滋味深い味わいだ。「ネルドリップはコーヒーにわずかなとろみがつき、油脂分に含まれる香りもカップに落としてくれます」と蕪木さん。チョコレートは繊細なフレーバーが心地よく、カカオそのものを楽しめる

店主の蕪木祐介さんは学生時代、盛岡の大学で動物科学を専攻していたという経歴の持ち主。その盛岡での生活が蕪木さんにコーヒーや喫茶店の魅力に開眼するきっかけを与えることになる。盛岡はいまも生きた喫茶店文化が残る街。そこで過ごした時間こそが蕪木さんのいまにつながっている。

それにしても端正な店である。絶妙な室内の光量、まっすぐに伸びる一枚板の長いカウンター、それを受け止めるように並ぶ重量感のある少し大ぶりな椅子。店のしつらえ、家具、選ばれた道具やうつわの一つひとつから店主の心配りが伝わってくる。そこには単に趣味で選んだだけでは生まれない心地よさがある。重い椅子には人を落ち着かせる効果があり、カップならつまみやすい美しい取っ手と口当たりの薄さ、そして手間はかかるがネルドリップで淹れたコーヒーがやっぱり美味しい。それぞれの「役割」を踏まえて考え、整えていくこと。蕪木さんが大切にしている思いである。

店全体を通して、つまり美味しいコーヒーやチョコレート、店内のしつらえやサービスの在り方などすべてを通じて蕪木さんがお客さんに精一杯提供しようとしているのは「いい時間」である。それはかつて蕪木さんが喫茶店から与えられたものでもあり、店を運営する理念でもある。蕪木さんは「時間」の職人なのである。

町工場の廃墟を改装した店舗。「蕪木」の小さな看板が目印

蕪木
住所|東京都台東区三筋1-12-12
Tel|03-5809-3918
営業時間|11:00〜20:00
定休日|火曜(祝日の場合は営業)
http://kabukiyusuke.com
 

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photo: Atsushi Yamahira
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