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北海道《モンガク谷ワイナリー》
フィールドブレンドで余市の風土を凝縮!

2023.12.21
北海道《モンガク谷ワイナリー》<br>フィールドブレンドで余市の風土を凝縮!

人と自然が共存する循環型農業の実践を目指し北海道・余市にあるモンガクの地に移住した木原さん一家。複数の品種をひとつのタンクで仕込み、土地と品種の個性が一体化したワインづくりとは?

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緑豊かなモンガク谷で、循環型農業を目指す

藤色をしたピノ・グリ、黄色く熟したゲヴュルツトラミネールなど4品種を同時に醸す。ステンレスタンクの中をのぞくとブドウのパッチワークが現れた

登川右岸の丘を越えた先にひっそりと広がるモンガクの谷を訪ねた木原茂明さん。畑が放棄され原野に戻った丘を上ると、余市湾が眼前に広がり、柔らかな海風が吹いてきた。「ここだ」と感じた。木原さんが目指す、人と自然が永続的に共生できる循環型農業を、この地で実践すると決めた。いまから12年前、2011年のことだ。

放棄された畑の東向き斜面をあらためて開墾し、2012年より3年かけて1500本のブドウ苗を植えた。開墾と農作業のかたわら、北海道・岩見沢市のカスタムクラッシュワイナリー(受託醸造所)の「10Rワイナリー」のブルース・ガットラヴさんに師事し、栽培醸造を学び、余市に移り住んで6年目にワイナリーを起こした。

循環型農業を目指し、敷地内には羊がのんびりと草をはむ放牧地や林を確保している。ブドウ畑は総面積11haのうち2.2ha

風格ある醸造蔵は、浦臼で呉服店として使われていた札幌軟石の石蔵を移築し再生させたものだ。断熱性に優れるが、さらに一部を半地下にして内壁との間に新聞紙などを刻みパックした断熱材を入れ、断熱性を高めた。タンクは半地下に、プレス機は地上に設置し重力で果汁やワインを移動させるグラヴィティフローを取り入れ、醸造シーンでも省エネを実現させた。

畑には余市湾で捕れるウニ殻をまきミネラル分を補い、赤品種2種と白品種5種を植えた。農薬はボルドー液など、原則オーガニック認定農薬を使っており、環境に負荷をかけない低投入、不耕起草生栽培を実践する。

収穫が数週間に及ぶこともあるが、発酵初期までに同じ畑で育った複数の品種をひとつのタンクに入れて醸造するフィールドブレンドで、香りの膨らみ、味わいの複雑さを醸し出す。

移築改造した札幌軟石のワイナリーを背景に、木原夫妻と香港生まれでコーネル大学と京都大学の大学院で学んだ日本語堪能な研修生のトニーさん(左)、そして愛猫

ワインは中核となる品種が異なり、白3種にはモンガク谷に自生する木の名をつけた。ワインは清涼感のある心地よい酸味とバランスのよさを共通項にそれぞれの個性をもつ。フラッグシップワインの「栃」はピノ・ノワール主体に栽培する全7品種が含まれている。ラベルの題材となった童話『モチモチの木』とは杤のことで別名「七葉樹」。フレッシュなシトラス風味と桃や洋梨のコンポートといったコントラストのある風味がひとつに集約され、ナッツのようなまろやかさをもつ。「楢」は南アフリカ原産でサンソーとピノ・ノワールの交配種ピノタージュ主体で、トロピカルフルーツやハチミツを感じさせる。 日本でピノ・タージュからワインを造るのは数社と数少ない。「栢」はシャルドネ主体でキリリと引き締まり柑橘の繊細な風味をもつ。ピノタージュ主体のロゼは、日本を代表する木から「桧」とした。

醸造蔵のある西向き斜面は羊の放牧地となっている。近々、自生するドングリの実やワインの搾り粕を餌に念願だった放牧養豚もはじめる。「ムーミン谷」のようだと呼ぶ人もいる、静謐で緑豊かなモンガク谷で、木原さんは目指す循環型農業を着実に実現している。

読了ライン

ステンレスタンクで醸し期間を終えたブドウを手作業でかき出してプレス機へ
ゲヴュルツトラミネール以外は全房の状態で醸しており、かなりの重労働な作業だ。妻から夫へ、夫からトニーさんへと息の合ったバケツリレーで、タンクからプレス機に移す作業が進む
童話『モチモチの木』に着想を得て長女が描いた生命力あふれるラベル、モチモチの木は杤の木のこと

 

イタリアの名醸造家×余市のワイナリー
 
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モンガク谷ワイナリー
創業年|2018年
自社畑面積|2.2ha
自社畑主要栽培品種|ピノ・ノワール、ピノ・タージュ、シャルドネ
ワイン生産量|1万2000本
住所|北海道余市郡余市町登町1982−1
Tel|0135-22-1533
https://mongakuwinery.com

photo: Kenta Yoshizawa
2024年1月号「ニッポンの酒最前線2024」

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