料理人《三浦真央子》
“シェフ・イン・レジデンスSAGA”で
出合った佐賀の食文化とは?
前編|食の源流を訪ねる旅へ


ガストロノミーが盛んな佐賀に、気鋭の料理人が数日間滞在する「シェフ・イン・レジデンス SAGA」が、徐々に注目を集めはじめている。シェフの滞在に密着してみると、佐賀が食の先進地である理由が見えてきた。今回は、料理人・三浦真央子さんが農園や醸造元、窯元、飲食店などさまざまな場所に足を運び、地域に息づく文化や生業の魅力を知る。
三浦真央子(みうら まおこ)
早稲田大学教育学部卒業、飲食表彰論専攻。薪火料理レストラン「Maruta」から料理の世界へ。世界最高峰のレストラン「noma」による限定ポップアップ「noma kyoto」にも参加。
line
佐賀との縁をつないでいく、11日間。

源流とは、文字通り川の水の流れがはじまる源を意味し、物事の起こりの意にも用いられる言葉。その土地の源を知ることで、それらがなぜよいのかという本質がわかってくる。これはおそらくどんな事柄にも通じること。
料理人・三浦真央子さんが佐賀に滞在した11日間は、まさに多様な物事の源流に触れる旅だった。農園や醸造元、窯元、飲食店などさまざまな場所に足を運んだ三浦さんが語ったのは「多くの方々と心からの会話ができ、今後の自分が進むべき方向性が見えた」という言葉。

気鋭の茶師として名を広める松尾俊一さんの元ではこんな一幕があった。九州では珍しく早朝から雪が降り、茶畑が広がる嬉野市不動山地区は一面雪景色に包まれた。松尾さんは「冬野菜と同じく、茶葉も寒さで甘みが増す。人間には少々こたえますがね」と笑い、茶小屋に迎え入れた。
囲炉裏で暖を取りながら、薪火を熱源とした伝統的な釜炒り茶をつくる理由のほか、土地の個性や未来のために考えねばならない植生のことなど、話題は多岐にわたった。ただ一貫していたのは、すべてこの地に受け継がれる文化の原点に通じていたこと。

「土地の成り立ちから一杯のお茶まで、根底でつながっていることを学びました」と三浦さん。そんな実感が得られたのは、食やうつわなどを通して料理人と佐賀をつなぎ、本質の対話を願う県の交流事業「シェフ・イン・レジデンスSAGA」だからこそだ。

レンコン農家の黒木啓喜さんが営む「黒木農園」では収穫を体験。三浦さんは以前も白石町のレンコンを食べたことがあり、焼くだけでも非常に美味しかったと回想。
収穫を経て「泥に足が取られて想像以上に重労働。収穫の大変さを知った上で、料理人としてこの美味しさをどう伝えることができるか。貴重な経験でした」とさらに知見を深めた。

黒木さんは「レンコンとひと口に言っても品種は相当あり、連なっている根ごとに食感や味わいが異なります」と話し、それを熱心にノートに書き残す三浦さん。生産者にとっては当たり前の情報を消費者にどう伝えるかも料理人としての腕の見せどころになっていくかもしれない。

九州でも珍しい天然醸造にこだわった製法で、料理人からの支持も厚い「丸秀醤油」もまた、三浦さんが来訪を熱望していた醤油蔵だ。
発酵への造詣が深い三浦さんは、キヌア、アワ、ヒエなどの麹について代表・秀島健介さんに質問。天然醸造醤油「自然一醤油」の搾る前、火入れ前後をはじめ、麦味噌、キヌア味噌、十穀味噌を食べ比べながら麹や発酵の世界の奥深さを体感した。
「丸秀さんの醤油や味噌には実直さが表れているよう。伝統製法を一貫する醤油蔵そのものを味わっていると感じました」

line
佐賀の食とうつわを料理人によって
磨き上げ、新たな価値を創造する
「サガマリアージュ」を知っていますか?

食材とうつわは佐賀が誇る有益な資源のひとつ。それらを料理人の感性で磨き上げながら表現・発信していくことで、新たな価値を創造する取り組みが、サガマリアージュ。有田焼創業400年事業のレガシーを受け継ぎ、レストランイベントやセミナー、産地ツアーなどさまざまな企画を展開してきた。
〈サガマリアージュの歩み〉
2015 DINING OUT ARITA
2016 “世界料理学会 in ARITA”
“DINING OUT ARITA&”
2018 “USEUM SAGA”
2020 アジアベストレストラン50
2021 サガマリアージュプロジェクト始動
2024 シェフ・イン・レジデンスSAGA



サガマリアージュに関する問い合わせはこちら
問|サガマリアージュ推進協議会事務局(佐賀県流通・貿易課内)
Tel|0952-25-7252
line
≫公式サイトはこちら
料理の可能性とは?
≫次の記事を読む
今回、三浦さんが訪れた場所
《あはひの》

気鋭の茶師による新たな挑戦
2024年8月、立ち上げ。いままで松尾さんが手掛けてきた伝統的な釜炒り茶をはじめ、人の営みと自然の調和が取れたプロダクトを発信していく。嬉野温泉駅前のショップ「UPLIFT SHIMOJYUKU」で茶葉の販売も行っている。
Instagram|@awaino_ureshino
《黒木農園》

土の個性を感じるレンコンづくり
干拓地特有のミネラルを多く含んだ重粘土質でレンコンを育てて約100年。農園を切り盛りするのは3代目・黒木さん夫妻。夏はシャキシャキ、秋以降はもっちりとした食感のレンコンは、素材そのままの味を楽しみたい。
住所|佐賀県杵島郡白石町遠江4290
Tel|0952-84-4052
営業時間|7:00~23:00
定休日|なし
www.kuroki-nouen.com
《丸秀醤油》

九州でも稀有な天然醸造醤油
1901(明治34)年創業。佐賀県で唯一、伝統的な天然醸造によって醤油を製造。天然醸造2年熟成の自然一醤油、大豆・小麦不使用のキヌア醤油、10種の雑穀麹を使う十穀味噌など、独自性のある発酵調味料を手掛け続けている。
住所|佐賀県佐賀市高木瀬西6-11-9
Tel|0952-30-1141
営業時間|9:00〜17:00
定休日|土・日曜、祝日
https://shizen1.com
line
text: Tsutomu Isayama photo: Kenji Okazaki
2025年4月号「ローカルの最先端へ。」