ART

彫刻家 棚田康司「日本の木材に宿る、ゾッとするような美の奇跡」
『古典×現代2020時空を超える日本のアート』

2020.7.15
彫刻家 棚田康司「日本の木材に宿る、ゾッとするような美の奇跡」<br><small>『古典×現代2020時空を超える日本のアート』</small>

姿かたちや色彩など見た目に始まり、所作や言葉など身から出るもの、果ては考え方や心の動きなど精神的なものまで、美はあらゆるものに宿る。それらをまとめ合わせ、目に見えるかたちで表現するとアートになる。つまり、日本のアートをひも解けば、日本ならではの美が見えるはずです。
6月24日(水)から8月24日(月)まで国立新美術館で開催される、「古典×現代2020—時空を超える日本のアート—」の見どころとともに、アートの中に光るニッポンの美の魅力を現代作家さんに聞いた。今回は彫刻家 棚田康司さんにお話をうかがいました。

棚田康司(たなだ・こうじ)
彫刻家。1968年、兵庫県生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。2001年に文化庁芸術家在外研究員としてドイツ・ベルリンへ留学。帰国後、一木造に取り組み、神秘的な表情の少年少女像で注目を集める。第8回岡本太郎記念現代芸術大賞特別賞などを受賞

『善財童子立像 (自刻像)』/円空 江戸時代・17世紀 岐阜・神明神社

アトリエの奥の壁には制作途中の自刻像。「客体化し難いので自分を彫るのは嫌なんです。けれど円空さんは善財童子立像でそれをなさっている。ならば僕もと……」
少年少女や成人女性をモチーフに、たゆたうような輪郭の奥に潜む確かな生命力を感じさせるのが棚田康司さんの作品の特徴だ。そこに至る潮流と、さらに生涯12万体を彫ったとされる江戸時代前期の仏師・円空との邂逅を果たした起源は、19年前のドイツ留学にあるという。

「あなたの国の文化で彫刻せよと彼の地の人々に言われました。海外まで出向いて気づかされたのは自分の足元だったんです。それ以前の、木をぶった切ることで閉塞感を表現した作風から脱却したい思いもあり、そこから自然と内なる方向、言い替えれば自分の中にも根づいている日本の美しいものの考え方に視線が向かっていきました」

7カ月の留学から戻った棚田さんは、円空も得意とした一木造(文字通り1本の木から彫り出す手法)が中心になった。その取り組み自体は円空とは無関係だったものの、やがて古の仏師との距離を縮めていくことになる。
「手に取ってみた円空仏には、薪になるような木の中にも生命が存在するというさまを可視化する力に満ちていました。技も精緻で、槌をミリ単位で運ぶ独特のリズムがはっきり見えます。一瞬を永遠につなげるのは凄まじい技術というほかにありません」。それを目の当たりにしてから円空を敬称なくして呼べなくなったそうだ。

『つづら折りの少女』 /棚田康司 2019年 個人蔵 撮影:宮島径
© TANADA Koji, Courtesy of Mizuma Art Gallery

「彫刻家の立場で日本の美を語るなら、この国の材にそれが宿っているということになります。1000年を優に超える木造建築の中に木から生まれた仏像が置かれる。それはゾッとするような奇跡です。だから僕の場合、木を支配するなんてできない。負けて当然だと思ってやっています。円空さんがそうであったように、出合った木に向き合い、その中にあるものを可視化させていくのが彫刻家としての僕の意識です。そこには、あらゆる自然物に神が宿るという日本古来の考え方がおのずと反映されるのではないでしょうか」

「古典×現代2020—時空を超える日本のアート」の見どころは?
「形式的には対立構図ですが、円空さんと自分は1本の木の年輪の内と外にいるという、時空を超えたつながりを感じてくれたらうれしいです」

棚田さんにとっての美とは?
Q.1古典アートのどんな部分に美を感じる?
A.材に潜む生命の可視化

Q.2美しいと思われる作家、作品は?
A.円空なら三位一体の善女龍王立像

Q.3 ニッポンの美とは?
A.自然物に神が宿るという日本古来のものの考え方

 

古典×現代2020ー時空を超える日本のアート
会期|2020年6月24日(水)〜 8月24日(月)
休館日|毎週火曜日休館
開館時間|10:00〜18:00 ※当面の間、夜間開館は行いません。入場は閉館の30分前まで
会場|国立新美術館 企画展示室2E
住所|東京都港区六本木7-22-2
Tel|03-5777-8600(ハローダイヤル)
kotengendai.exhibit.jp

※観覧にはオンラインでの「日時指定観覧券」もしくは「日時指定券(無料)」の予約が必要です。

photo:Kei Miyajima @TANADA Koji, Courtesy of Mizuma Art Gallery
2020年4月号 特集「いまあらためて知りたいニッポンの美」


≫木工の里・飛騨高山の匠の技【前編】

≫円空仏に導かれクラフトの里を訪ねる。

≫日本文化を身体で感じる場。杉本博司さんが手掛けた「江之浦測候所」(前編)

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