《松之山温泉 酒の宿 玉城屋》
里山×フレンチで海・山の幸を味わう
名湯・松之山温泉街で、全国の美食家から注目を集める「酒の宿 玉城屋」。若き4代目によって美酒と美食の宿に刷新され、ミシュランガイドで一つ星も獲得。芸術祭とともに旅の目的にしたい。
新潟食材のフレンチと
地酒のマリアージュを
山深い温泉宿で、これほど洗練されたフレンチと美酒が味わえるとは──。松之山温泉「酒の宿 玉城屋」は明治 44年創業の老舗旅館だが、4代目・山岸裕一さんが、新潟の酒と食に特化した宿として2018年にリニューアル。ミシュラン二つ星のフレンチ「リューズ」などで腕を磨いた栗山昭シェフのフレンチと、ソムリエで酒匠(唎酒師の上位資格)の山岸さんが選ぶ酒のペアリングは驚くほどの完成度だ。
大学から地元を離れていた山岸さんが宿を継いだのは2016年。板前修業経験もあり、以前は自ら調理も手掛けていたが、現在は接客と経営に集中。「第5回世界唎酒師コンクール」で世界7人のファイナリストにもなった山岸さんだけに、フレンチと日本酒のペアリングを独自の強みとする。地元限定酒を中心に約100種の地酒を揃えるほか、苗場酒造と提携し自ら開発に携わった「kamosu mori」などのオリジナル酒や、お茶やハーブを漬け込んだアレンジ酒も登場する。日本酒のみならず、近年注目の新潟ワインも豊富なラインアップ。まさに「酒の宿」の名にふさわしい充実ぶりだ。
若き当主とシェフの奮闘する姿にも感動
「玉城屋」を食の面で担うのが料理長の栗山さんだ。修業していた「リューズ」のシェフ・飯塚隆太さんが十日町出身という縁でここを紹介され、移住を決意。出身地の東京で店をもつ選択肢もあったが、「自分の料理の方向性が定まらなくて。でもここならコンセプトは自ずと定まる。世界中から食材が集まる東京とは異なり、ここで手に入るのは地元食材だけですから」と栗山さん。美しい水で育ち、風味も濃い雪国の食材。その短い旬を逃すまいと、自ら柏崎漁港や道の駅へ赴き食材を調達。山に入り山菜や果実を収穫することも。「昨年狩猟免許も取得済みです」と笑うが、新しい地で食材調達から孤軍奮闘する努力は並大抵ではない。料理もパンも、すべて一人でつくる。だからこそ、その料理は紛れもなく彼独自の“里山キュイジーヌ”といえる。
一方、山岸さんは全8室の客室の居心地を高めることにも注力。すでに一部を現代的に改装し、アートをテーマとした客室も3部屋設けた。「大地の芸術祭は、私がここを継ぐきっかけでもあります」と山岸さん。宿を継ぐ前には大手企業の財務で活躍し、一時はそのまま東京や海外で働くことも考えた。そんな中「大地の芸術祭」を訪れ、松之山の廃校作品を鑑賞。「地元の小学校が廃校になった姿が衝撃で。過疎の状況を目の当たりにし、“地元を元気にしよう”と実感しました」。「玉城屋」の改革に加え、2018年にはカジュアルな姉妹宿「バル&ホステル 醸す森」もオープン。今夏には「玉城屋」近くにスイーツと酒の店を開く予定だ。「酒を軸に松之山温泉を盛り上げたい」と意気込む山岸さん。この宿では、変わりゆく温泉街の前向きなエネルギーも感じられるだろう。
酒の宿ならではのペアリングフルコース
宿泊は一室ごとに異なる
アートに囲まれた部屋へ
“アートとお酒”がテーマの客室「椿」
客室でも酒が楽しめるよう広々とした間取り。里山の風景を絵画のように切り取るよう、窓はあえて小さめに
5種類のジュースからはじまる朝食
地元産野菜や果物のジュースや甘酒など5種の飲み物でのどが潤う。美雪ますや山菜、唐芋など季節の食材を、いしざか農園の魚沼産コシヒカリとともに
酒の宿 玉城屋
住所|新潟県十日町市松之山湯本13
Tel|025-596-2057
客室数|8室
料金|1泊2食付2万4200円~(税・サ込、入湯税別)
カード|AMEX、Master、VISAなど
IN|15:00
OUT|10:00
夕食|フレンチ(ダイニング)
朝食|和食(ダイニング)
アクセス|電車/北越急行まつだい駅からバスで約25分
車/関越自動車道塩沢石打ICから約45分、六日町ICから約60分
施設|露天風呂、大浴場、ダイニングルーム
Wi-Fi|あり
www.tamakiya.com
text: Miyo Yoshinaga photo: Yuko Chiba
Discover Japan 2022年6月号「アートでめぐる里山。/新潟・越後妻有”大地の芸術祭”をまるごと楽しむ!」