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熊本の銘酒「産土」を起点に。
橘ケンチが巡る
“地酒”探しの旅【前編】

2022.2.12
<small>熊本の銘酒「産土」を起点に。</small><br>橘ケンチが巡る<br>“地酒”探しの旅【前編】

独自の食文化と歴史が古くより根づいた熊本県。県北の菊池川流域にあり、丘陵地に囲まれた豊かな大自然の中で、1902年より酒造りをしている「花の香酒造」は、伝統に独自の哲学を取り入れた〝原点進化〟の酒造りで注目を集めている。橘ケンチさんがその酒蔵を起点に、地域のテロワールを探りに巡ります。

橘ケンチ(たちばな・けんち)さん
EXILEパフォーマー/EXILE THE SECONDリーダー兼パフォーマー。2018年、日本酒の伝道師「酒サムライ」就任。ライフワークとして日本酒及び日本文化の魅力を発信しながら、秋田新政酒造、奈良・油長酒造(P105)など全国の実力派酒蔵とのコラボレーション酒を手掛ける。Discover Japan連載企画「橘ケンチの今宵のSAKE」も担当

“原点進化”する酒造りを、五感で味わう。

阿蘇くまもと空港から車で約50分、緑豊かな自然が広がる和水町の美しい風景を眺めながら、ケンチさんが胸を高鳴らせている。蔵の裏手にある自社田を訪ねると現れたのは勇壮な白馬。

「馬耕栽培の仲間、菊之進です。菊池川流域の未来とともに進んでいく、という想いを込めて名づけました」と話すのは、花の香酒造6代目当主・神田清隆さん。2011年に経営難の蔵を受け継いだ神田さんが一からはじめた酒造りは、烈々としてドラスティックだ。当時面識のなかった「獺祭」を醸す旭酒造会長・桜井博志さんに直談判して修業を積み、「本当のテロワールとは何か」を学びに単身渡仏。ワイナリーをめぐり、批判もリスクもいとわず猪突猛進で我が道を貫いた。再建に向けて5年目を迎える蔵は、いまでは県内外から訪れる観光名所になった。

そして、その酒造りは「産土」という哲学の下、次のフェーズに入った。

「産土とは、大地の恩恵やものを生み出す母体を意味する日本の古語。テロワールとも似ていますが、弊蔵では自然への敬意、菌や微生物との共存、そして意志をもった人が導くという考えを取り入れ、より日本古来の文化に根づいた、土着の生産風土で醸すお酒を提案していきたいと思っています」

世界有数のカルデラ、阿蘇山からの恩恵を受けた石清水を仕込み水に使用し、酒米は全量を菊池川流域で栽培。自然農法も取り入れ、江戸時代の製法で醸す。一見時代と逆行しているが、ただの懐古主義ではない。米のたんぱく質含有量を測るケルダール窒素分解装置など、数々の分析装置を徹底的に取り入れた〝原点進化〟という挑戦だ。

名写真家が活写した造りの工程を展示しているギャラリー「花回廊」や醸造の現場で、目を輝かせながら語る神田さんの話にケンチさんが共鳴する。

「情熱的な反面、理論的で、超自然的な酒造りと現代技術を組み合わせているバランス感覚がすごい。貪欲に学び、突き進む姿勢に刺激を受けました」

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“原点進化”の酒造り

自然農法
手植えから手刈り、はざかけまで、手作業の自然農法で生命力あふれる穂増や山田錦を栽培。かつて熊本で盛んだった馬耕栽培も導入。時期によっては菊之進の勇姿が見られるかも。

熊本酵母
吟醸酒ブームの火つけ役となった「9号酵母」のルーツは、100年以上前に熊本県酒造研究所で分離・培養されたもの。日本酒「産土」は「熊本9号酵母」のみを使用。

木桶
木桶仕込みは、微生物が木の隙間に存在し、絶えず自然のメカニズムが循環する環境となる。自然の恩恵や菌、微生物が導く生酛造りの導入は当然の成り行きだったという。


“水の都”熊本県の和水町は、古代の阿蘇山大噴火によって形成された岩盤の上にある地。わずかなとろみを感じる清らかな地下水の仕込み水は花回廊で触れられる。

共創
花回廊では写真家のハービー・山口さんが写した和水町や酒造りの情景写真や書家・中塚翠涛さんの書、陶芸家・辻村隗さんの花器を展示。美術館のようにクリエイターの作品が楽しめる。

花の香のはじまり
「花の香」は、春に梅花の香りが蔵内に漂うことから名づけられた。酒を販売する花香粋人では、樹齢180年の梅の古木が立つ趣深い庭園を眺めながら、限定酒の有料試飲もできる。

花香粋人では、地元食材を使用した季節料理とのペアリングも提案(3000円)。写真は稀少な山太郎ガニ(モクズガニ)の内子仕立て

花香粋人(はなのかすいじん)テイスティングバー
住所|熊本県玉名郡和水町西吉地2226-2
Tel|0968-34-3333
営業時間|10:00〜17:00
(売店、テイスティングバー)
定休日|年末年始

 

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text: Ryosuke Fujitani photo: Norihito Suzuki
Discover Japan 2022年1月号「酒旅と冬旅へ。」

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