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熊本の銘酒「産土」を起点に。
橘ケンチが巡る
“地酒”探しの旅【中編】

2022.2.12
<small>熊本の銘酒「産土」を起点に。</small><br>橘ケンチが巡る<br>“地酒”探しの旅【中編】

独自の食文化と歴史が古くより根づいた熊本県。県北の菊池川流域にあり、丘陵地に囲まれた豊かな大自然の中で、1902年より酒造りをしている「花の香酒造」は、伝統に独自の哲学を取り入れた〝原点進化〟の酒造りで注目を集めている。橘ケンチさんがその酒蔵を起点に、地域のテロワールを探りに巡ります。

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和水町の営み、風土を守ることが、
無二の日本酒「産土」を生み出す。

蔵を出て、周辺を散策するケンチさんが澄み切った晩秋の空気を吸い込み、目を細めながら大きく伸びをする。日本マラソンの父・金栗四三さんを生んだこの地は、突き抜けるような蒼穹の中に、菊池川水系の清らかな和仁川と長閑な田園が織りなす日本の原風景が広がる。花の香酒造は、2000年にわたる稲作文化が根づいた和水町の風土と佳景を守る活動も行っている。

「大自然に囲まれた蔵だからこそ、持続可能な米づくりと酒造りは使命」という想いで地域の農家と手を取り合うだけでなく、自社に農業部を設立。栽培から収穫まですべて行い、何千という微生物がいる田んぼの生態系を守るために農薬不使用の自然栽培も行う。さらに、江戸時代に天下第一と評された肥後米のひとつであり、明治期に途絶えた幻の米「穂増」を、熊本・菊池の農家が40粒の種籾から復活させ、日々、日本酒の可能性を追求している。

「自然栽培は果てしなく労力を費やしますが、この産土の取り組みで成功し、追従する人を増やすことが地球を守ることにもつながると思っています。その産土米で世界を魅了できるまで、追究はやめません」と神田さん。

その口火を切るのが、美味しさを追求し、日本の原点を見つめ直し生まれたブランド「産土」だ。第1弾の3種を味わったケンチさんが唸る。

「それぞれひと筋縄ではいかない個性があり、微生物の活力を感じる。現地で飲んだからこそ、土地の魅力が凝縮した妙味が実感できました。今後の進化が楽しみです」

日本遺産の構成文化財のひとつに認定された花の香酒造の酒造りは、古の神事や「どんどや(写真上)」、「もぐらたたき(写真下)」といった土地の歳時記も取り入れている。今後は日本酒の素晴らしさと産土を発信するイベントも計画中。

産土 エフェルヴェセント 2018(写真右)
本来酒造りには適さない菌が奇跡的に生み出したロマンを感じる酒。口に含んだ瞬間、従来の日本酒にはない柑橘を思わせる旨みと甘み、ナッティな香りが広がる。魚介類との相性抜群。

価格|5940円/720㎖
原料米|熊本県菊池川流域和水地区山田錦100%
日本酒度|非公開
酸度|非公開
アルコール度数|13度

産土 山田錦(写真中央)
熊本9号酵母の香り、酒米本来の甘みを、仕込み水のとろみのあるテクスチャーとバランスよく合わせて和水町の自然を表現。生酒のフレッシュ感によって口内で未体験の旨みが弾ける。

価格|1970円/720㎖
原料米|熊本県菊池川流域和水地区山田錦100%
日本酒度|非公開
酸度|非公開
アルコール度数|13度

産土 穂増(写真左)
自然栽培でつくる江戸時代の熊本在来種・穂増を使用。熊本9号酵母が生み出す、爽やかなバナナのような風味と微生物の多様性を感じる複雑味、そして奥深い旨みは、まさに唯一無二。

価格|2530円/720㎖
原料米|熊本県菊池川流域和水地区穂増100%
日本酒度|非公開
酸度|非公開
アルコール度数|13度

花の香酒造
住所|熊本県玉名郡和水町西吉地 2226-2
Tel|0968-34-2055
営業時間|9:00〜17:00(土・日曜、祝日除く)

 

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text: Ryosuke Fujitani photo: Norihito Suzuki
Discover Japan 2022年1月号「酒旅と冬旅へ。」

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