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熊本・神水
銭湯×住居「神水公衆浴場」
まちの備え、家族と地域の日常が重なり合う場所

2022.1.26
熊本・神水<br>銭湯×住居「神水公衆浴場」<br><small>まちの備え、家族と地域の日常が重なり合う場所</small>
Photo by Shigeo Ogawa

水資源が豊富な熊本・神水に誕生した「神水公衆浴場」。手がけたのは、オーナーであり、構造設計者の黒岩さん夫妻。この銭湯は1階が銭湯、2階には黒岩さん夫妻と4人の娘たちが暮らす災害支援住宅。銭湯は家のお風呂でもあり、番台は玄関となっている。そんな令和に誕生したユニークな銭湯「神水公衆浴場」の魅力とは・・・・・・。

銭湯はまちの「防災拠点」だった。

Photo by Shigeo Ogawa

ご主人の裕樹さんは神水で生まれ育った。銭湯を開業した背景には2016年に発生した熊本地震があった。神水のまちは大きな被害を受け、黒岩さんが暮らしていたマンションも大規模半壊し、引っ越しを余儀なくされた。

震災後、黒岩一家はもちろん、地元の人たちも、お風呂に入れず大変な苦労をしたことで、実は銭湯が地域の防災拠点であったことを再発見。

そうした経験から、裕樹さんは「家を再建するにあたって、家族のためだけでなく、何か地元に貢献したい」という気持ちから、自宅の1階をまちの人のための銭湯にすることに決めたそうだ。


Photo by Shigeo Ogawa

銭湯の名前は「神水(くわみず)公衆浴場」。「神水」は一帯の町名で、地下水に恵まれた熊本のなかでも、昔から湧水の多い場所だったことから由来。市街地には珍しい、広大な湖として知られる水前寺江津湖公園が近くにある。

構造設計一級建築士でもある黒岩さん夫妻が手がけたこの銭湯には、建築好きや、通る人の目を惹きつけるこだわりが詰まっている。

黒岩裕樹(くろいわ・ゆうき)
黒岩構造設計事ム所・代表取締役。1980年熊本県・神水生まれ。博士(工学)、構造設計一級建築士、九州大学非常勤講師。2003年〜06年鈴木啓/ASA勤務。2006年黒岩構造設計事ム所設立。2008年九州大学大学院博士前期課程修了。2013年熊本大学博士後期課程修了(岡部猛研究室)。主な作品に、福岡市水上公園SHIP’S GARDEN、仙厳園、御船町コミュニティスペース、合戦峰地区物販所。近作に平戸城懐柔櫓宿泊施設(2020)、盛岡バスセンター(2022)。主な論考に『建築技術No.827』(建築技術、2018 年)、『structure No.148』(JSCA 2018年 )、構造設計を仕事にする 思考と技術・独立と働き方(学芸出版社、2019年)

小さくても地域の備えとなる
「災害支援住宅」

Photo by Shigeo Ogawa

外観は銭湯というよりオシャレなカフェのようだが、暖簾に書かれた逆さクラゲをモチーフにしたロゴが銭湯としてのアイデンティティを感じさせる。建物の設計は建築だけでなく、まちづくりでも実績のあるワークヴィジョンズの西村浩さんに依頼。

裕樹さんは、熊本地震で2回激しく揺れたことから、この建物も2回耐えられるよう、1回目は合板の耐震壁が効き、2回目は天井の重ね透かし梁で耐えると語る。

建築家・クリエイティブディレクター
西村浩(にしむら・ひろし)
株式会社ワークヴィジョンズ 代表取締役。1967 年佐賀県生まれ。東京大学工学部土木工学科卒業、東京大学大学院工学系研究科修士課程修了後、1999年にワークヴィジョンズ一級建築士事務所を設立。土木出身ながら建築の世界で独立し、現在は都市再生戦略の立案からはじまり、建築・リノベーション・土木分野の企画・設計に加えて、まちづくりのディレクションからコワーキングスペースの運営までを意欲的に実践。日本建築学会賞、土木学会デザイン賞、BCS賞、ブルネル賞、アルカシア建築賞、公共建築賞 他多数受賞。2009 年に竣工した、北海道岩見沢市の「岩見沢複合駅舎」は、2009 年度グッドデザイン賞大賞を受賞。近年では、2021年度グッドデザイン賞4作品受賞、2021年度グッドデザイン賞・金賞(神水公衆浴場)、他。


Photo by Shigeo Ogawa

「重ね透かし梁」とは寺社などに用いられる伝統的な構法を応用し、細い部材を重ねることで構造を強くしている。木造構造を主とし、地上から2.5mの高さまでは鉄筋コンクリートで立ち上げている。これは近くの湖からの水害に備えている。また、裕樹さんが幼い頃に何度か氾濫を経験したことなどからきた工夫だ。

さらに、ゆるいカーブを描くカマボコ型の屋根は、CLT(Cross Laminated Timber=直交集成板)と呼ばれる木の板を重ねたパネルでつくったもの。簡単には曲がらないパネル同士を、銭湯の桶のようにかみ合わせてアールをつけている。

Photo by Shigeo Ogawa

木と木をつないでいるのは、家具などに用いられる、鼓のような形をした「千切り」で、これも構造家としての経験からきた工夫。内装はレトロな雰囲気の浴室、アーチ状に組まれた屋根など、温かみを感じる設計。また壁には八代出身のイラストレーター・yoneさんによる、神水のまちをイメージした絵が描かれている。

熊本へ観光で訪れた際にはぜひ、「神水公衆浴場」で入浴を楽しんでみてはいかが。

神水公衆浴場
住所|熊本市中央区神水2-2-18
営業時間|16:00〜20:00
定休日|火・木・金曜
料金|大人(中学生以上)350円、小学生100円、6歳以下無料
Tel|050-1258-1556
https://twitter.com/kuwamizu_sento

熊本県浴場組合
http://kuma1010.com

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