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小山乃文彦のうつわ
「普遍なる暮らしが導くかたち」

2021.11.3
小山乃文彦のうつわ<br>「普遍なる暮らしが導くかたち」

暮らしに溶け込み、食事の風景を穏やかに彩る小山乃文彦さんの粉引。愛知県の常滑で25年にわたり作陶を続ける小山さんは、どのような視点でうつわと向き合っているだろう。
記事内で紹介した商品は、渋谷パルコのDiscover Japan Lab.および公式オンラインショップにて数量限定で販売中。

小山乃文彦(おやま のぶひこ)
1967年、熊本県生まれ。’92年、常滑市立陶芸研究所修了。’96年に常滑に自身の工房を構える。土の風合いがしっかりと感じられる粉引を中心に、灰粉引、刷毛目の作品を手掛ける。丸みを帯びた胴が印象的なポット、食材を引き立たせる柔らかな風合いの平鉢などが人気だ。

ありのままの自分をうつわに映す

知多木綿を扱っていた元呉服屋の大きな家屋を借り受けた工房と住居

「僕がつくっているのは普段使いのうつわなので、どうしても自分の暮らしの態度がそのままうつわに出てしまう。だからこそ無理をしてすごいものをつくろうとせず、与えられた環境の中で最大の工夫を重ねて新しい道を探っていくようにしています」

暮らしの中にある自然な時間な流れを大切にしているという小山乃文彦さん。元呉服屋の古い民家を借り入れ、工房を開設。庭先では循環型の家庭菜園をつくるほか、コンポストトイレや無煙薪ストーブなども自作する。

「仕事と趣味とは切り分けなければいけないと思っていた頃もあったんですが、そう考えるとどことなく無理をしているような息苦しさがあった。自分の中でやりたいことは全部やってみようと思った頃から気持ちが楽になり、うつわづくりも安定してきたように思います」

作家として世の中の評価を気にするよりも、まずは自分とまっすぐ向き合う意識を高めてきたことで、何をすべきかが明確に見えてきたとも語る。

「自然に触れながら暮らし、仕事をしていると、自分が関わることでどのように状況が変わるのか。何ができるかだけでなく、できないこともはっきり見えてきます。だからこそ直面した状況を受け入れるしかないと、割り切るようになったのかもしれないですね」

工房前の庭にある循環型の家庭菜園。ここで収穫したものが日々の食卓に並ぶ
住居部分の土間に自作した無煙薪ストーブ。冬には暖房の役割も果たす生活の必需品

小山さんが生まれ育ったのは、近隣に一軒も商店がないような熊本の田舎町。子どもの頃に、友達と遊びに出かけるのはいつも集落を取り囲む山の中だったという。

「気軽におもちゃが買えるような環境ではなかったので、僕らがやることといえば山で竹を拾ってきて、自分たちで削って遊び道具をつくることでした。いま思えば、あれこそがものづくりを目指すきっかけだったのかもしれませんね」

 漠然とイラストレーターや漫画家に憧れて美術大学へ進学を考えたこともあったが、入学した東京の大学で陶芸サークルに所属したことをきっかけに、一気に焼物の世界にのめり込んでいく。一念発起した小山さんは大学を中退し、常滑市立陶芸研究所に入所。卒業後は東京に戻り、陶芸教室に勤務しながら、創作活動をはじめる。しかし、その後の人生を大きく変える出来事に直面する。

「ある日、東京・西麻布のギャラリー『桃居』で、美しい無地の粉引や焼締めのうつわ作品に出合ったのです。とても新鮮な驚きでしたね。何も意匠をまとわない無地のうつわこそ、ろくろや焼きの技術をきちんと身に付けていないと表現できない領域。こんなことができたらどんなに気持ちいいだろうと思ったのです」

再び常滑に戻り、心を入れ替えて粉引を軸としてた無地のうつわと取り組む。その出合いから25年。静かな面持ちながらしっかりとした存在感を示すうつわをつくるために、小山さんはひたすら修練を重ねてきた。

静かな空気が流れる、小山さんの工房
工房のガス窯には、次回の個展ために準備中の素焼きがずらりと並ぶ
玄関先には、庭先で手折ったシュウメイギクを自身の一輪挿しに

年を重ねるほどに、うつわをつくることが心地よく、幸せに感じるようになったと話す小山さん。

「明確に日課が決まっているわけではありませんが、朝起きたらまずは土を整える作業をして、その流れで畑仕事。昼食を挟んで、午後はろくろに向かう。夕方になったら薪ストーブを家族で囲んで夕食の準備。仕事も趣味も生活も一連の流れの中にあり、うつわづくりはこうした普遍的な暮らしの一部になっています。人生をぐるりと見回せば、結局のところ同じ場所をめぐっているだけなのかもしれませんが、そんな中でも日々の少しの変化に気づき楽しむことが、十分に幸せだと思うんです」

微細な変化に心が移ろう様子は、人間だけが持ち合わせる特殊な才能だとも語る。

「人の顔のパーツが同じでもすべて違って見えるように、人の目の感覚はとても敏感ですし、そこに好き嫌いの感情さえも生まれるもの。うつわも同じで、つくり手の気持ちが少しでも浮ついていたり、作為的になると、どこかしら違和感を覚えてしまう。ディテールを大切にしているからこそ、手先に頼らずにありのままの自分をうつわに映していきたいと思います」

左から、粉引汲み出し茶碗鎬そば猪口面取りカップ。誰もが生活の中で手にする日常使いのうつわだから、手に包まれ、あたたかみのある土味のある粉引にこだわる
季節の深まりとともに、炊きたてのご飯の美味しさが恋しくなる季節、土物のめし碗は暮らしの必需品となる。粉引めし碗は経年の変化で味わいを増して育っていく
シンプルなかたちの中に、手取りの確かさがある粉引小皿。和菓子や取皿として日々活躍する定番のうつわ。作家性を主張するのではなく、周囲に溶け込む優しさや度量の深さが小山さんのうつわの魅力のひとつとなっている

小山乃文彦さんのうつわを
オンラインで購入いただけます!

渋谷パルコのDiscover Japan Lab.および公式オンラインショップにて、小山乃文彦さんの作品を販売中! ぜひ実際に手に取ってお楽しみください。

 

 

 


 

小山乃文彦の作品一覧
 

「うつわ祥見」が選ぶ注目作家
1|小野象平 – 1
2|境 道一
3|荒川真吾
4|岩崎龍二
5|小野哲平
6|八田亨-1
7|尾形アツシ
8|山田隆太郎
9|芳賀龍一
10|田宮亜紀
11|鶴見宗次
12|小野象平 – 2
13|吉田直嗣
14|八田亨-2
15|小山乃文彦

Text: Hisashi Ikai photo: Yuko Okoso special thanks: utsuwa-shoken


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