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写真家・浅田政志さんが切り取る、
三重の文化を伝える人々
|熊野古道 伊勢路編

2021.3.26 PR
写真家・浅田政志さんが切り取る、<br>三重の文化を伝える人々<br>|熊野古道 伊勢路編

2020年に公開された映画『浅田家!』の原案にもなった、心温まる家族写真で知られる三重県津市出身の写真家・浅田政志さん。そんな浅田さんが、伊勢神宮と熊野古道 伊勢路の文化を守り伝える方々を訪ね、想いをうかがって撮影しました。今回は伊勢神宮と熊野三山を結ぶ「祈りの道」、熊野古道 伊勢路編です。

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浅田政志(あさだ・まさし)
1979年、三重県津市生まれ。日本写真映像専門学校卒業後、写真家として独立。専門学校在学中から撮りためた家族写真をまとめた写真集『浅田家』(赤々舎)を発表し、第34回木村伊兵衛写真賞を受賞。国内外で個展を開催し、著書も多数。写真集『浅田写真局 まんねん』(青幻舎)も発売中

熊野古道 伊勢路・馬越(まごせ)峠
雨上がりの熊野古道 伊勢路・馬越峠。伊勢路の中でも随一といわれる美しい石畳が断続的に見られる。子どもの夜泣き封じを祈った「夜泣き地蔵」などの史跡も数多く残り、これぞ熊野古道という荘厳な雰囲気。石畳は一見無造作なようだが、雨水を側溝へと流す排水も計算されているというから、先人の知恵に唸らされる

歴史を伝え、地域を元気に

写真右から、「中井木工」の中井智章さん、「くまの体験企画」の内山裕紀子さん、「熊野語り部友の会」の川口有三さん、「海山(みやま)熊野古道の会」の玉津充さん。黒潮が近く、平地とさほど変わらない温暖な気候も熊野古道 伊勢路の魅力だという。「コロナ禍を機に、私たちのツアーも女性の一人旅のお客さんがさらに多くなりました。今後は、歩くことが困難な人にも熊野古道のよさを知ってもらえる方法を模索したいです」と意気込む内山さん

「伊勢へ七度、熊野へ三度」という言葉がある。信心の深さをたとえたもので、「伊勢」は伊勢神宮、そして「熊野」は熊野三山(熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社)を表している。伊勢神宮と熊野三山を結ぶのが、熊野古道 伊勢路。聖地を目指す人々が通った「祈りの道」に、浅田さんも足を踏み入れた。

今回訪れたのは、伊勢路に複数あるコースの中でも特に人気の高い馬越峠。紀北町と尾鷲(おわせ)市の境界に位置し、全長は5㎞ほど。うっそうと生い茂る尾鷲ヒノキやシダ、苔むした石畳が神秘的な景観をつくり上げている。「この石畳は、江戸時代には整備されていたと伝えられているんですよ」と語る「くまの体験企画」代表の内山裕紀子さん。生まれ育った尾鷲市にUターンし、熊野古道 伊勢路の魅力を伝えるべく個人向けツアーを実施している。美しい石畳が敷かれたのには、この地ならではの背景がある。日本有数の多雨地帯であるため、雨で道がぬかるむと参詣もままならない。実は1917(大正6)年までこの道は県道で、生活道路でもあったという。「大切な道を石畳で整えて安全に歩けるように、という昔の人の思いが伝わりますね」と、感じ入る浅田さん。

道や周辺の状態をチェック。檜(ひのき)や杉は適度に枝を間引くことで、下の植物に日光が行き渡る

熊野古道 伊勢路は「紀伊山地の霊場と参詣道」の一部として世界遺産に登録されている。世界でも珍しい「道」としての世界遺産を歩く楽しみを、よりいっそう深いものにしてくれるのが、現地を案内する語り部(ガイド)の存在だ。語り部キャリア25年の川口有三さんは話す。「峠をひとつ越えるたびに、新しい景色や文化に出合えるのが熊野古道 伊勢路の醍醐味です。歴史にまつわるエピソードもお伝えしながらご案内したい」。

常に快適に通行できるよう、人の手による道のメンテナンスも欠かせない。「雨で落ち葉が堆積したり、台風が来れば倒木があったり、時にはイノシシが掘り返したりしますからね。月に1回はパトロールしています」と、「海山熊野古道の会」の玉津充さん。石畳の形状を変えることなく修繕している。古道のすぐそばで生まれ育ち、ここが遊び場だったという玉津さん。「ご先祖さまが築いた石畳を守ることに、使命感と喜びを感じています」とほほ笑んだ。

熊野古道とは熊野本宮大社と熊野速玉大社、熊野那智大社からなる熊野三山に詣でるための道の総称。伊勢神宮から熊野三山へ向かう巡礼者が歩いた「伊勢路」、田辺から東に分岐する「中辺路(なかへち)」、高野山と熊野本宮大社を結ぶ「小辺路(こへち)」、田辺から海岸線沿いに続く「大辺路(おおへち)」、京都・大阪と熊野を結ぶ「紀伊路」のルートがある。2004年に「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界遺産に登録

熊野古道 伊勢路とその周辺の森の尾鷲ヒノキも、地域の文化と切っても切れない存在だ。多雨や急峻な地形で土地が痩せており、生育に時間がかかる分、緻密な年輪、強度のある良質の木材となるそう。「中井木工」の中井智章さんは、尾鷲ヒノキを生かした家具などの作品を製作。「くまの体験企画」ではツアー参加者へ、中井さんがつくった木札のストラップを記念にプレゼントしている。

「色んな人たちの営みで、この景観が守られているんですね」と話す浅田さんに、内山さんが答える。「地域固有の自然・歴史・文化をわかりやすく伝え、活用してこそ観光資源が守られるという "エコツーリズム"を目指しています。ただきれいな景色だな、で終わるのではなく、昔の巡礼の人々がどんな思いで、何を目指して歩いていたのかというストーリーをきちんと伝えていきたい。そんな"人間臭い"世界遺産であってほしいですね」。人々の想いが重なり、受け継がれる祈りの道・熊野古道 伊勢路へ、ぜひ出掛けたい。

「中井木工」の工房。作品はすべてカンナ仕上げ、無塗装で尾鷲ヒノキの自然なつやを生かす

撮影を終えて

熊野古道 伊勢路を支える方たちを撮影した浅田さん。撮影時の感想をうかがいました。

「撮影に入る直前まで大雨で心配していたんですが、いざ雨がやんで峠に入ると、しっとり濡れた石畳がすごくきれいで。雨が多いこの地域ならではの情景に出合えて、ある意味ラッキーだったかもしれませんね。熊野古道って、三重が地元の僕でも「ちょっと遠いな」とハードル高く感じてしまうんですが、ガイドの内山さんによると「JRでもアクセスできますよ!」とのことで、なんだか一気に身近になった気がします。馬越峠は道中の景色もよく、きつ過ぎずウォーキングにちょうどいいコース。ぜひ気軽に訪れてみてほしいです」

峠の入り口には「熊野古道 馬越峠」と大きな看板が出ている。迷うことなくスタートでき、道中にも随所に道標があるので安心だ

熊野古道 伊勢路とあわせて訪れたい
おすすめ周辺スポット

東紀州ならでは。地元の薬草を
使った郷土料理が味わえる

熊野古道「始神(はじかみ)峠」のほど近くにある茶屋。地元に自生する薬草をふんだんに使った、新感覚の郷土料理を提供する。ファンの多い「熊野古道薬草弁当」(1080円)は、海山特産のクキ漬けとカツオの生節のおにぎりや押し寿司、沖ギス揚げダンゴ、おさすり(サルトリイバラの葉を使った饅頭)など、東紀州ならではの品々がギュッと詰まった玉手箱のような一品(前日までに要予約)。沖ギスの蒲焼を、熊野古道の象徴・石畳に見立て、すべて地元の食材でつくられる「熊野古道石畳弁当」(735円)なども好評。素朴でいて深みを感じる味わいで食べ応えもあり、古道散策の際のお昼にぴったりだ。

始神茶屋 楢(はじかみちゃや なら)
住所|三重県北牟婁郡紀北町馬瀬16-2
Tel|0597-35-0771
営業時間|月・火・金曜17:00~20:00(L.O.)、土・日曜、祝日11:00~14:00(L.O.)、17:00~20:00(L.O.)
定休日|水・木曜

熊野古道観光の拠点にも便利な
魚介自慢の宿

東紀州の玄関口、紀北町の宿「紀伊の松島」。地元の美味を知り尽くす若女将がもてなし、若旦那が自ら熊野灘で水揚げされた新鮮な魚を吟味し、腕をふるって四季折々の料理に仕立てる。名物の豪勢な伊勢海老のしゃぶしゃぶ(10~4月の期間限定)をはじめ、季節の天然地魚をたっぷりと盛り込んだコースが登場。真心のこもった温かなもてなしもまた魅力で、全国からリピーターが絶えない。熊野古道 伊勢路からも徒歩圏内に位置しており、ツアー途中の宿にもふさわしい。2020年に全面リニューアルし、広々とした和室に加えてモダンな和洋室も。

四季活魚の宿 紀伊の松島
住所|三重県北牟婁郡紀北町古里1057
Tel|0597-49-3048
料金|1泊2食付1万1000円〜(サービス料込)

奇跡の透明度を誇る
「銚子川」のせせらぎに癒される

紀北町を流れる、全長13.76㎞の2級河川。全国でも有数の降雨量で知られる標高1470mの大台ケ原・堂倉山に源流を持ち、山間を通って熊野灘まで清流を保ったまま流れ込む。「銚子川ブルー」と呼ばれる美しい水の色、川底までくっきりと見えるほどの透明度の高さから「奇跡の川」の異名を持つ。アユやアマゴ、テナガエビなど数多くの水中生物が暮らすオアシス。巨岩が林立する「魚飛渓(うおとびけい)」は、夏場の川遊びスポットとしても人気。

銚子川
住所|三重県北牟婁郡紀北町
Tel|0597-46-3555(紀北町観光協会)

熊野古道 伊勢路への便利な行き方

熊野古道 伊勢路(馬越峠)へのアクセス
■電車の場合
JR相賀(あいが)駅から徒歩で約30分。またはJR尾鷲駅からバスで約13分、鷲毛(わしげ)バス停下車
■車の場合
【名古屋方面から】東名阪自動車道経由で紀勢自動車道海山ICから約5分
【大阪方面から】西名阪自動車道経由で
紀勢自動車道海山ICから約5分

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※記事内の価格はすべて税込表記です

text:Yukie Masumoto, Aya Honjo photo:Akane Yamakita
協力=みえ観光の産業化推進委員会(三重県観光魅力創造課)
2021年5月号「美味しいニッポントラベル(仮)」


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