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東京・四谷《スタンディングルーム鈴傳》
江戸時代から続く角打ちの聖地【前編】
|新しい酒に出合える角打ちの名店①

2024.1.31
東京・四谷《スタンディングルーム鈴傳》<br><small>江戸時代から続く角打ちの聖地【前編】<br>|新しい酒に出合える角打ちの名店①</small>

店主や酒ラヴァーとの会話を通して、気軽に酒の見識を深め、さまざまな酒と出合える角打ち。選りすぐりの名酒と多種多彩なつまみで多くのファンを魅了している名店3軒を訪ね、人気の理由を探った。
 
今回紹介するのは、老舗酒販店「鈴傳」に併設された「スタンディングルーム鈴傳」。日本酒の聖地と呼ばれる裏には、徹底した品質管理と先見の明があった。
 
角打ちとは?
酒販店の一角で購入した酒を楽むこと。もともとは酒とともに、酒販店で販売されている缶詰や乾き物などを味わえるだけの営業スタイルが多かったが、現在では種類豊富な料理が味わえる店舗も増えつつある

受け継がれる酒への審美眼と
ほっとする家庭の味

櫻正宗や白鷹など酒造メーカーの特約店であることを示す、外壁の看板。大きく立派なつくりで、鈴傳の歴史を感じさせる

1850年、町人文化が花開いた江戸の街で、“日本酒の聖地”として名高い酒販店「鈴傳」は開業した。店を構えるのは、当時から変わらない東京・四谷の地。幕末・明治の激動、関東大震災、東京大空襲、コロナ禍など、数々の歴史の荒波をくぐり抜け、いまもなお多くの人に親しまれている。
 
創業者は下野国(現・栃木県)の烏山に生まれた磯野家の三男、傳兵衛さん。次男の兄とともに江戸で薬種商をはじめ、貯めた資金で独立し、鈴傳を開いたという。明治時代に入ると宮内庁御用達として皇居に出入りするなど、酒販店としての基盤を築いていった。

皇室への納入を許可する「宮内庁御用達」の商標。明治初期から宮内庁御用達制度が廃止されるまで、納品を行っていたという

転機が訪れたのは、現在7代目当主を務める磯野真也さんの父・元昭さんの代のとき。元昭さんは1989年からはじまった酒類販売業免許の規制緩和を先駆けて予測し、「このままでは生き残れない」と1970年代に鈴傳を地酒専門店へ転換する。さらに同時期、流通の視察のために赴いたヨーロッパでワインの品質管理に感化され、帰国早々「地下に冷蔵貯蔵室をつくるぞ!」と、10℃、5℃、マイナス3℃の温度帯に区分けした貯蔵室を設置した。
 
「当時は日本酒を常温で管理していた時代。つまり劣化によって本来の美味しさを発揮できていない日本酒が当たり前だったため、当店が地酒専門店へかじを切ったとき、反対の声が多かったのです。しかし冷蔵貯蔵室により、日本酒の鮮度や風味を損なうことなく、最適な状態でご提供できるようになりました。日本酒の品質管理を徹底したのは、鈴傳が最初だと思います」と真也さんは当時を振り返る。

地下の冷蔵貯蔵室では、3つの温度帯に分けて日本酒を保管。「最高の状態でお届けしたい」という想いからつくられたもの

貯蔵室で品質管理が行えるようになったことで、全国各地の日本酒を導入。これが「淡麗辛口」を主流とする第一次地酒ブームの契機にもなった。そして元昭さんは現在まで続く第二次地酒ブーム、「芳醇旨口」を象徴する高木酒造の銘柄「十四代」にもいち早く注目する。「約30年前、若き日の蔵元杜氏15代目・高木辰五郎さんが、完成したばかりの十四代を持って鈴傳にいらしたんです。試飲した父は『こういう酒を待っていた』と。先見の明があったのでしょうね」と真也さんは懐かしそうに語り、元昭さんの娘・陽子さんは「父は『地酒の伝道師』といわれていたんです。見出した日本酒はすべてヒットしましたから」とほほ笑む。

鈴傳では常時180種ほどの酒を扱っている。売り場で購入した酒を、スタンディングルーム鈴傳で飲むことも可(持ち込み料別途)

鈴傳が〝日本酒の聖地〟と呼ばれるゆえん。それは積み重ねてきた歴史や元昭さんの革新的な取り組みに加え、元昭さんの妻・万里子さんが一人で切り盛りしていた「スタンディングルーム鈴傳」の存在も大きい。ここは酒販店の一角で立ち飲みできる「角打ち」を原型とする酒場。鈴傳では明治時代から角打ちを行っており、戦前は職人が、戦後は官庁の役人が、主なお客として酒を楽しんでいたという。

スタンディングルーム鈴傳に掲げられた先代の磯野元昭さんの名言。陽子さんは「とても粋な父でした」と語り、人柄が伝わってくる

「店先や庭まで立ち飲みのお客さまであふれ返っていました。スタンディングルーム鈴傳をつくったのは、業態を地酒に特化したタイミングです。日替わりの料理も、丁寧につくっているんですよ。お酒に合うよう、味は少し濃いめに仕上げてね。鈴傳は酒好きが集まる場所。自由に飲んで、自由に食べて、会話を楽しみながら過ごしていただきたいんです」と陽子さんは明るい。今宵も鈴傳には酒を愛する人々が集い、笑い声を響かせている。

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日本酒が進む呑兵衛好みの味つけ
 
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《新しい酒に出合える角打ちの名店》
1|東京・四谷「スタンディングルーム鈴傳」前編後編
2|兵庫・明石「立呑み 田中」前編中編後編
3|福岡・大名「小谷酒舗」

text: Nao Ohmori photo: Atsushi Yamahira
Discover Japan 2024年1月号「ニッポンの酒 最前線 2024」

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