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東京・日比谷《FOLKLORE》
土地のテロワールを楽しむ國酒ミクソロジー【前編】
|いま行きたい、ニッポンの酒を楽しむバー①

2024.1.27
東京・日比谷《FOLKLORE》<br><small>土地のテロワールを楽しむ國酒ミクソロジー【前編】<br>|いま行きたい、ニッポンの酒を楽しむバー①</small>

バーは未知の酒と出合える最前線の現場であり、バーテンダーとの会話を通して、酒の文化や歴史に触れられる場所でもある。近年多様化・進化する國酒の現在地をキャッチするべく、日本を代表する4軒のバーを訪れた。
 
今回訪れたのは日本随一のミクソロジスト・南雲主于三さんが生み出す、國酒のミクソロジーカクテルを堪能できるバー「FOLKLORE」。FOLKLORE(=民間伝承)の名を冠したバーは、革新的なミクソロジーのアプローチで、伝統的な國酒の文化に新しい扉を開く。

好奇心をくすぐるような
自由なお酒を楽しんでほしいです

南雲主于三(なぐも・しゅうぞう)さん
スピリッツ&シェアリング代表取締役。既成概念を覆す前衛的なカクテルを生み出し続ける日本のミクソロジーの第一人者。国内外で7軒のミクソロジーバーを経営するほか、コンサルティングや酒販事業、メニュー開発など多角的に事業を展開中

茶室を思わせるにじり口をくぐると、目の前に広がるのは数寄屋造の静謐なバー空間。都心の喧騒から隔離された日本建築の凛とした趣に包まれながら、日本酒カクテル「海」をいただいて驚いた。焼物のお碗に口を近づけるとふわっと広がる磯の香り。口に含めば米の旨みがふくよかに広がり、ドライな「播州一献 超辛 純米吟醸」のキレが、海苔を漬けたという自家製ウォッカの余韻を心地よく伸ばしている。口内で日本の海の情景が広がる新しいカクテル体験——。

「伝統を受け継ぎ、後世に残す」という想いは、國酒の文化だけでなく、約400年前の古木を使用した空間にも表れている。店内はカウンター7席とテーブルが2卓

「日比谷OKUROJI」に佇む「FOLKLORE」は、ミクソロジーのフィルターを通してつくる「日本ならではのカクテル」が楽しめるバーだ。
 
ミクソロジーとは、最新の技術を駆使して液体をハーブやスパイスなどの素材と合わせるカクテルづくりの手法で、近年、世界のバーシーンを席巻している。FOLKLOREのオーナー・南雲主于三さんは、その概念が日本に浸透していない頃から突き詰めてきたミクソロジーの第一人者。これまで、茶、カカオとボタニカルなどをテーマにしたミクソロジーバーをオープンし、既成概念を覆すカクテルを生み出してきた。FOLKLOREがフォーカスするのは、日本酒や焼酎、国産スピリッツなどの國酒だ。

カクテルは多彩なグラスで供される。メニューにないおまかせオーダーができるのもうれしい

「以前は、唯一苦手なお酒が焼酎と言っていた時代もありました」
 
そう笑う南雲さんが國酒に目を向けはじめたのは2018年。酒販店「IMADEYA GINZA」との縁で焼酎のイベントを手掛け、造り手たちとの交流がはじまった。そこから各地の焼酎、日本酒の蔵を訪れ、独自の技術や哲学に触れて、洋酒にはない魅力に引き込まれたという。

筒形の花入れは、南雲さんの故郷・岡山の備前焼。独特な文様があしらわれている

「世界一と言っても過言ではない精度の高い醪造りや、発酵にかかわる複雑な工程を経て生まれる多彩な味わいなど、日本酒と焼酎の世界を知れば知るほどのめり込みました」
 
そして、日本の歴史や各地の風土に根ざした國酒独自の文化に惹かれたと続ける。
 
「特に日本酒や焼酎は、風土や暮らしに寄り添い、発展してきたお酒です。その歴史を踏まえ、日本ならではのカクテルのローカライズを考えたとき、國酒でテロワールという土壌と文化を表現した新しい〝日本のカクテル〟にたどり着きました」

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《いま行きたい、ニッポンの酒を楽しむバー》
1|東京・日比谷「FOLKLORE」前編後編
2|東京・渋谷「The SG Club」
3|奈良・角振町「LAMP BAR」
4|熊本・南坪井町「夜香木」前編後編

text: Ryosuke Fujitani photo: Kenji Okazaki
Discover Japan 2024年1月号「ニッポンの酒 最前線 2024」

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