柴咲コウさん、伊勢神宮へ
これまで何度となく伊勢神宮に足を運び、2018年には環境省の環境特別広報大使として、内宮の参集殿で歌の奉納をした柴咲コウさん。特別な思い入れのあるこの地に、いま再び戻ってきました。
柴咲コウ(しばさき・こう)
女優・アーティスト。2017年NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』、2020年TVドラマ『35歳の少女』で主役を演じる。2016年、レトロワグラースを設立。美しく生きるをテーマに発信するYouTube「レトロワチャンネル」も好評
1500年以上、欠かさず続けられてきた祈り
日本人の「心のふるさと」と慕われる伊勢神宮(正式には神宮)。日本人の総氏神で、皇室の祖先神である天照大御神(あまてらすおおみかみ)を祀る「内宮(ないくう)」、豊受大御神(とようけのおおみかみ)を祀る「外宮(げくう)」を中心とした125社の総称である。伊勢神宮には、秋の収穫を祝う大祭から神様に毎日お食事を差し上げる祭りまで、一年間に1500もの祭りがある。
それらは天皇陛下が皇居で行う儀式に合わせて執り行われるものも多く、その由緒をたどると古代の神話に行き着く。
『古事記』によると、邇邇芸命(ににぎのみこと)が神々と地上に降り立つ際、三種の神器(剣、勾玉、鏡)を携えていた。三種の神器は、ひ孫にあたる神武天皇から第2代、第3代と継承され、現在の天皇陛下、第126代のお手元にあるのだが、天照大御神が邇邇芸命に神器を託す際、「この鏡を私だと思って拝みなさい」と命を出した。ゆえに歴代の天皇は鏡を拝み続けてきた。
ところが2000年ほど前に疫病が流行し、世の中が荒れたときのこと。天照大御神の御神体である鏡を宮中から出すことになる(宮中には神様の御霊を移した鏡の形代(かたしろ)を残した)。天照大御神の永遠の鎮座地を探し求めて伊勢の地にたどり着き、お宮を立てたのが伊勢神宮のはじまりだ。
すがすがしい朝。外宮では「日別朝夕大御饌祭」が行われていた。神様の台所である忌火屋殿(いみびやでん)で調えたお食事(神饌・しんせん)を御饌殿に運んで神様に奉り、「国安かれ、民安かれ」との祈りと感謝を捧げる儀式で、毎日朝夕の2回、1500年以上一度も欠かすことなく続けられている。神様のお食事は、お米を中心に塩、水、酒、鰹節、そして季節の海の幸や野菜、果物が並ぶ。
朝9時。神域の奥のほうからギィィっと扉が開く音がした。神前に上げられたお食事は、祈りを捧げた後、奉仕した神職がお下がりとしていただく。この「神人共食(しんじんきょうしょく)」が祭りの原点。神の息吹を体内に取り込み、元気となって次の祭りに奉仕する。これを繰り返すことで天照大御神の力を広く日本に渡らせることができる。同様にして夕方のお食事を差し上げ、日が暮れると、そこからは神様の時間だと古代の人たちは考えた。人間は身体を休め、朝が来たら生活する時間をいただく。そのような一日をくり返す。
祭りの中には、夜に行う大祭もある。夜の10時と明け方2時に最高のごちそうを用意し、神様をもてなすのだが、この特別な祭りには天照大御神の大好物であるアワビが上がると聞けば、神様がとても身近な存在に思えてくる。
日本人の精神の原点
伊勢神宮とは?
この先行きの見えない不安な時代だからこそ知っておきたい、伊勢神宮に参拝することとは?
柴咲 伊勢神宮には何度か来させてもらっていますが、そもそもなぜ伊勢神宮は伊勢にあるのでしょう?
音羽 伊勢神宮の神様である天照大御神は、皇室の祖先神です。もともと大和の国にある宮中にお祀りされていたのですが、2000年以上前、第10代崇神(すじん)天皇の御代(みよ)に疫病が流行し、国民が疲弊しました。政治の生臭い世界で神祀りをするのは恐れ多いということで、宮中の外でお祀りすることに。その任を託された倭姫命(やまとひめのみこと)が大和を出てたどり着いたのが、「美(うま)し国(くに)」といわれた伊勢の地です。
柴咲 祖先神とは、つまり……。
音羽 自分の祖先をたどれば、その神様にいきつくという。
柴咲 では神様は人間ということなのでしょうか?
音羽 いい質問ですね。神様は人間的な存在と思えばいいでしょう。多くの宗教は唯一絶対神を崇拝しますが、日本の神様はいろんなところにおられます。村や里でお祀りしている神様もおられれば、巨岩や滝といった自然物に神を感じて祀ることもあります。「神気」という言葉があって、神様というのは気を感じるものなのです。
柴咲 伊勢神宮を訪れるたびに感じ方が違うのはそのためですね。伊勢神宮に内宮と外宮があるのはなぜですか?
音羽 もともとは天照大御神がお一人で内宮にご鎮座されました。ところが、一人の食事は寂しく、内容も乏しい。それで「私のために食事をつくってくれる神を呼んでほしい」と、第21代雄略天皇の夢枕に現れたのです。それで丹波の国(現在の京都・丹後地方)から豊受大御神をお迎えし、外宮が造営されました。ところで「祭り」とは何かわかりますか?
柴咲 祭り、ですか。
音羽 これは「奉・たてまつる」から来ています。神様に何かを差し上げる。それはお食事や着物であったりします。日本人の祭りは多彩です。たとえば御神輿(おみこし)。神様が地域一帯を見て回られるようにと御神体を神輿の中に移し練り歩く。ですから神様は動かれる存在なのです。
柴咲 式年遷宮(※)もそうですね。神様に移動していただき、新たなお宮をつくることで文化をつないでいく。まさにサステイナブルですね。ではあらためて「祈り」とはなんでしょうか?
※式年遷宮とは、1300年にわたり繰り返されてきた伊勢神宮最大の祭り。20年に一度、社殿と神宝を新調して天照大御神にお遷(うつ)り願う
音羽 祈りとは、もとを正せば「国安かれ、民安かれ」という陛下の祈りが国民の祈りにつながっていると思うのですが、わかりやすく言うと、日々の感謝ということになるかもしれません。毎日の単調な生活を繰り返していく。これが人間の営みにとって大切なのではないでしょうか。
柴咲 2020年は特に感じました。
音羽 伊勢神宮に参拝に来られた若い男女が、なんだか気持ちよかったねと宇治橋を渡っていく。その何かが神社にはあるのでしょう。
柴咲 五感で感じる。
音羽 五感、つまり直感を大事にするというのは神道の教えです。自然の中であるがままに生き、その中で何か感じたら神様への祈りを捧げる。
柴咲 神様にお参りすると、ふたつの気づきがあると思います。まず神様や空間などに畏怖の念を感じるということ。もうひとつは自身を見つめ直す機会を与えられるということです。
音羽 見つめ直すとは、まさに五感を研ぎ澄ますということですね。
柴咲 日常では、他人の言葉に左右されてしまうこともあります。特にいまのような得体の知れない事象が起こると迷いますし、何かにすがりたくなる。でも自分というものを忘れてはいけない。どう思い、生きるかというのを見つめ直さないといけないですね。
音羽 歴史の中で、疫病の流行は何度も起こっています。そんなときは陛下が伊勢神宮に勅使を派遣され祈ったのです。ですからいま、伊勢神宮に足を運ぶことには意味があるのです。来て、見て、感じていただければと思います。
伊勢神宮 内宮(皇大神宮)
住所|三重県伊勢市宇治館町1
Tel|0596-24-1111(神宮司庁 平日9:00〜16:00)
参拝時間|1〜4・9月 5:00〜18:00、5〜8月 5:00〜19:00、10〜12月 5:00〜17:00
伊勢神宮 外宮(豊受大神宮)
住所|三重県伊勢市豊川町279
Tel|0596-24-1111(神宮司庁 平日9:00〜16:00)
参拝時間|1〜4・9月 5:00〜18:00、5〜8月 5:00〜19:00、10〜12月 5:00〜17:00
せんぐう館
住所|三重県伊勢市豊川町前野126-1(外宮まがたま池)
Tel|0596-22-6263
入館時間|9:00〜16:00
休館日|第2・4火曜(祝日の場合は翌日休)
入館料|300円
伊勢神宮とあわせて訪れたい
伊勢志摩の見どころ
古くから美しい風景と海・山の幸に恵まれた伊勢志摩。伊勢神宮への参拝から足を延ばして訪ねたいスポットをご紹介。
伊勢神宮の神饌をイメージした朝食も楽しみ
「志摩観光ホテル」
美しい英虞湾を望む地に1951年に開業したリゾート。伝統を受け継ぎながら常に進化を続けている。G7伊勢志摩サミットの会場としても知られ、総料理長・樋口宏江さんの料理に各国首脳が感嘆の声を上げたのも記憶に新しい。シェフたちは地元の生産者との交流を通じて食材が生まれる現場を知り、新しい料理を生み出している。伊勢神宮に参拝する方に、神饌のお下がりをいただいた気持ちになってもらえれば、との思いでつくったのが「神饌朝食」。古より御食国(みけつくに)と呼ばれるこの地の豊かさを感じる時間だ。
志摩観光ホテル
住所|三重県志摩市阿児町神明731
Tel|0599-43-1211
料金|1泊1室5万990円〜
朝のお参りの行き帰りに、身体が温まる朝粥を
「あそらの茶屋」
外宮の表参道に佇む「伊勢せきや 本店」。伊勢神宮の神饌に上がるアワビをはじめ酒肴珍味を取り揃えた名店だ。2階の茶屋では、イセヒカリを炊いたお粥と厳選した珍味などが並ぶ「御饌(みけ)の朝かゆ」(1230円)をぜひ。
あそらの茶屋
住所|三重県伊勢市本町13-7 伊勢せきや 本店2F
Tel|0596-65-6111
営業時間|朝かゆ7:30〜10:00、昼げ11:30〜14:30
定休日|水曜
削りたてのおかかご飯も
「かつおの天ぱく 鰹いぶし小屋」
一流シェフが支持する鰹節の工房。いぶし小屋ではウバメガシの森の間伐材で煮鰹をいぶしている。森を手入れすることで海が元気になり、元気な海で育った鰹で食文化を支えると天白さん。見学会では古式製法でつくる鰹節の味や、波切(なきり)の鰹節文化を伝える。
かつおの天ぱく 鰹いぶし小屋
住所|三重県志摩市大王町波切393
Tel|080-2612-3801(平日9:00〜17:00)
定休日|水・日曜
料金|2000円 ※見学は要予約
美しい海に抱かれたリゾート名物のチーズケーキを
「鳥羽国際ホテル」
1964年開業の格式あるホテル。カフェラウンジやテイクアウトで味わえる人気のチーズケーキ(セットで1056円)は、創業の頃から変わらぬ懐かしい味わい。
鳥羽国際ホテル
住所|三重県鳥羽市鳥羽1-23-1
Tel|0599-26-4121
営業時間|カフェラウンジ10:00〜18:30(L.O.18:00)
地元の美味しい酒をとことん味わえる店
「酒蔵 森下」
三重県産の名酒を揃える鳥羽の酒販店直営。トロさわらなど旬魚のお造り(盛り合わせ2145円)を前に、酒が進む。自由に選べる「日本酒3種呑み比べセット」は1200円。他に、三重県産の「松阪豚」の料理もおすすめ。
酒蔵 森下
住所|三重県伊勢市本町2-3
Tel|0596-64-8080
営業時間|17:30〜23:00(L.O.22:30)
定休日|日曜
伊勢志摩へのアクセス
【名古屋方面から】
名古屋駅から伊勢市駅まで近鉄特急で約1時間20分
【大阪方面から】
大阪難波駅から伊勢市駅まで近鉄特急で約1時間45分
※伊勢志摩エリアを効率よく回るにはレンタカーがおすすめ!
photo: Hiroshi Abe text: Yukie Masumoto hair & make: SHIGE Styling: Kei Shibata 協力=みえ観光の産業化推進委員会(三重県観光魅力創造課) 衣装協力=AKIRANAKA/BVLGARI/JIMMY CHOO/Mame Kurogouchi/Manolo Blahnik/MES VACANCES/MURRAL/SIRI SIRI
Discover Japan 2021年2月号「最先端のホテルへ」