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琉球の神話を知って
沖縄の心のルーツに触れる旅へ
Part 1|琉球歴史研究家・賀数仁然
《あの人に聞く、友人を連れて行きたい沖縄》

2022.7.25
琉球の神話を知って<br>沖縄の心のルーツに触れる旅へ<br><small>Part 1|琉球歴史研究家・賀数仁然<br>《あの人に聞く、友人を連れて行きたい沖縄》</small>
Photo:mtaira

ディープな沖縄を知るなら、実際に住んでいる人に聞くのが一番!好奇心旺盛な友人を連れて行くならどこへ行く?それぞれの人の得意分野で教えてもらいました!

教えてくれたのは……
賀数仁然(かかず・ひとさ)さん

1969年、那覇市生まれ。沖縄県内メディアにて琉球の歴史文化を楽しく発信。映画・ドラマの脚本・監修から旅行企画~ガイドまで手掛ける。新聞連載中のコラムをYouTube『さきがけ! 歴男塾』として配信。早稲田大学大学院人間科学研究科修了(生命科学)

沖縄といえば「琉球時代からの独特の文化」といわれます。挙げればきりがないのですが、知れば知るほど、かつては別の国であったことを感じます。文化の基底に見え隠れしているのが、その国の神話だと思います。沖縄が琉球という国であったことにもつながるのですが、現存する王国時代の最も古い史書、『中山世鑑(ちゅうざんせいかん)』には、「琉球国開闢神話(りゅうきゅうこくかいびゃくしんわ)」というものが最初に書かれています。日本史でいうところの『古事記』、『日本書紀』のようなものだと考えてください。今回は神話に沿った、スポット、現在に伝わる説話などを紹介したいと思います。

っと、その前に少し、御嶽(うたき)と、ニライカナイについて説明。現代の沖縄の人も、信仰の対象としている神聖な場所が、御嶽といわれる場所です。いまでも沖縄の至るところにあります。有名なところでは、世界遺産にもなっている「斎場御嶽(せーふぁうたき)」、「園比屋武御嶽 石門(そのひゃんうたき いしもん)」。あと、「首里城」の中には「首里森御嶽(すいむいうたき)」なるものがあります。ここは、ほとんどの方がチケットを買って素通りしますが。

御嶽は神が降りてくる神聖な場所でした。よく質問されるのですが、御嶽のどのあたりに、ご神体がありますか? 社殿や拝殿のようなものはないのですか? というもの。「ないです」私がそう答えると、皆さんビックリされます。はい、実はこういう仕組みです。御嶽は神さまを祀ってある場ではありません。琉球の神々はニライカナイという異世界にいると、信じられています。ニライカナイとは神々が御座すところ。人が呼び寄せると降りてくるのが、「御嶽」という聖なる場所……ということです。神の依り代となる樹木があるだけという場所がほとんどです。さて前置きが長くなりました。ようやく神話に入ります。

この世がまだ混沌としていた頃。創世神がアマミクという神さまに、「この下に神降りすべき霊地がある。いまだに島となっておらず、口惜しいことだ。そなたが神降りし土地をつくれ」と命じ、その場所が後の琉球となりました。アマミクがつくった土地、神話に登場する7カ所が、現在「琉球七御嶽」と呼ばれる場所です。先の斎場、首里森両御嶽も含まれています。一部を除いて、いまでも祈りの対象となっている場所です。アマミクが最初につくったのは、沖縄県最北の国頭村(くにがみそん)にある、「安須森御嶽(あすむいうたき)」。現在は「大石林山(だいせきりんざん)」という、観光施設が併設され、ガイドの方もいるので、訪れてみてはいかがでしょうか。

王国時代の祭祀の中心は、ノロと呼ばれる聖なる女性司祭がいて(なんと国家公務員です!)、彼女たちが、神々を呼び寄せ、祈りの儀式を取り仕切っていました。琉球では女性の方が神に近い存在とされていました。ちょうど古代倭国の卑弥呼のような存在でしょうか。17世紀中頃まで、国王と女性司祭は、神話に出てくる御嶽へ巡礼の旅がありました。それは国づくり神話に続く、神話の世界に基づいていました。土地をつくったアマミクは、今度はヒト、人類をつくり、穀物類の農耕を伝えたというもので、稲作発祥の地、「ヤハラヅカサ」、「浜川御嶽(はまがわうたき)」、「受水走水(うきんじゅはいんじゅ)」、そして麦づくり発祥の地である「久高島(くだかじま)」へも渡海しました。久高島が神の島であるといわれるゆえんのひとつです。神話に出てくるからです。神々より琉球の国を預かる、国王及び女性司祭の巡礼の旅で、最初に祈るのが園比屋武御嶽石門にて。首里城歓会門を出てすぐにあるこの場所で旅の安全祈願をしました。この石門を開けることはありません。やはり門の裏には森が広がっています。ハンタン山と呼ばれ、神々が降臨する森が広がっていました。

その後、いくつかの場所を経て、先ほど紹介した稲作発祥の地に向かいます。首里城から車でおよそ40分。「カフェやぶさち」の駐車場の奥に静かにあるのが、「藪薩御嶽(やぶさつうたき)」です。国王参詣の場所とはちょっと想像しにくい場所です。おすすめはその奥30m、やや薄暗い森を歩くと、右手に展望広場が広がります。晴れた日にここから見える海はなんともいえません。白い砂浜と、濃淡の青いグラデーションが広がる東方に、神の島・久高島を望みます。青い空と青い海の交わる水平線。この向こうにニライカナイがあると信じられていました。すべてのものはニライカナイからやってくると。明け方には、そこから太陽が生まれてくるように感じます。琉球の人々は太陽すら、毎日ニライカナイで生まれ変わると考えていたのです。展望台の崖下には、アマミクが上陸したとされるヤハラヅカサ、仮の住まいとした湧き水のある浜川御嶽。稲作発祥の田んぼ受水走水があります。琉球国王はここで、稲作儀礼をしていました。どこか日本の新嘗祭のようで、興味深いですね。わざわざ国を挙げて巡礼すること。これが、王が王たる由縁でもあり、天を味方につけるべく、神話の世界を旅するのでした。後に、一般の人までまねをするようになり、現在「東御廻(あがりうまー)い」として、根づいています。戦後、田んぼはサトウキビ畑になりましたが、3年に一度くらいのペースで、血縁関係のある親戚の行事としていまも生きています。

よきことも、悪しきことも、すべては海の向こうのニライカナイからやってくる。海を越えて異国の文化を取り入れ、自分たちに使いやすいようにカスタマイズするチャンプルー文化。琉球から日本へ、そして戦争という嵐がやってきて、アメリカの文化が押し寄せ、27年後には、また日本になり今年で50年。その深淵には、琉球古来の精神世界が流れていると思います。

斎場御嶽
住所|沖縄県南城市知念久手堅539
Tel|098-949-1899(緑の館・セーファ)
営業時間|9:00~18:00、11〜2月〜17:30
休息日|毎年6日間、旧暦5月1日~3日、旧暦10月1日~3日
※HP要確認
料金|300円
https://okinawa-nanjo.jp/sefa

園比屋武御嶽 石門
住所|沖縄県那覇市首里真和志1-7(首里城公園内)
Tel|098-886-2020(首里城公園管理センター)

首里森御嶽
住所|沖縄県那覇市首里当蔵町3-1 (首里城公園内)
Tel|098-886-2020(首里城公園管理センター)

大石林山(安須森御嶽)
住所|沖縄県国頭郡国頭村宜名真1241
Tel|0980-41-8117
営業時間|9:30〜17:30(最終受付16:30)
定休日|なし
料金|1200円

ヤハラヅカサ
住所|沖縄県南城市玉城百名
Tel|098-948-4611(南城市観光協会)

浜川御嶽
住所|沖縄県南城市玉城百名
Tel|098-948-4611(南城市観光協会)

受水走水
住所|沖縄県南城市玉城百名
Tel|098-948-4611(南城市観光協会)

久高島
住所|沖縄県南城市知念字久高
Tel|098-948-7803(久高島離島振興総合センター)、098-948-7785(久高海運)
※島へのフェリー運航状況は久高海運に要問合せ

カフェやぶさち(藪薩御嶽)
住所|沖縄県南城市玉城百名646-1
Tel|098-949-1410
営業時間|11:00~18:00
定休日|水曜(祝日の場合は営業)

 

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text: Aya Honjo illustration: Hitomi Iha
Discover Japan 2022年7月号「沖縄にときめく/約450年続いた琉球王国の秘密」

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