TRADITION

京都の老舗《細尾/HOSOO》
300年以上続く、西陣織元の不易流行【前編】

2023.7.14
京都の老舗《細尾/HOSOO》<br><small>300年以上続く、西陣織元の不易流行【前編】</small>

西陣織は約1200年前、京都・西陣で発祥した先染め紋織物だ。その老舗織元である細尾は、西陣織のテキスタイルブランド「HOSOO」を生み出し、伝統工芸をグローバルに切り拓いた。その不変の伝統とイノベーションが織りなすストーリーをひも解き、時代に左右されない進化の秘訣に迫る——。

細尾が手掛けるテキスタイルブランド「HOSOO」は「日本の美意識」の極北として世界中で支持され、国内外のラグジュアリーブランドや五つ星ホテルなどに起用されている

細尾が、世界の「HOSOO」になるまで。

はじまりは1688年
元禄元年、本願寺より「細尾」の名字を受け、京都・西陣にて創業。西陣の織元としての歴史を重ねながら1923年、9代目・細尾徳次郎によって帯・きものの卸売業をはじめ、織屋と問屋の両輪で事業を営むようになった

1688年に創業した「細尾」は、京都の西陣織を代表する老舗織元だ。当時より皇族や将軍家など高貴なお客の要望に応え続けてきたルーツをもつ。
 
「西陣織の上位概念にあるのは、〝究極の美〟です」とは12代目当主・細尾真孝さん。それを生み出しているのは、西陣織独自の協業システムだという。

20以上の協業
京都御所西側5㎞圏内を指す西陣では、分業の体制が取られている。その地で西陣織は、 染め、箔貼り、裁断といった20にも及ぶそれぞれの工程を、専門の職人が仕事を請け負い、対等に渡り合いながら協業して生み出される

「西陣織は、20以上の工程それぞれを、独立したマスタークラフトマンが担当し、卓越した技術を結集して織り上げます。それは効率化ではなく、究極の美を体現するためにバトンを受け渡す協業なのです」
 
そういった確固たる伝統は、若き日の真孝さんの目にはコンサバティブに映っていた。幼少期からクリエイティブ志向が強く、パンクバンドで音楽制作をしながら、大学卒業後はレーベルに所属。音楽、ファッション、アートが融合したブランドを上海で立ち上げるなど独自の仕事に打ち込んだ。その後、大手ジュエリーメーカーに就職し、ビジネスを学んでいた頃、細尾に転機が訪れる。

2006年 先代による世界への挑戦
西陣織の新たな可能性を求めて海外展開をスタート。その挑戦に真孝さん(写真)が共鳴し、フィレンツェ留学を経て家業に戻った。「西陣織に新たな1ページをつくることが、今後の大きな力になると思いました」

2006年、先代の細尾真生さんが海外展開事業をはじめた。
 
「伝統工芸の世界展開は、誰も成し遂げていなかったこと。西陣織の可能性を広げるイノベーションになると強く思いました」
 
そうして真孝さんは家業に戻り、海外事業を後押しすることに。当初は、ほかとの差別化を図るため、和柄こそ“日本らしい”と考えたが、思うような結果は出せずにいたという。その後、2009年にパリの展覧会で出品した一本の帯が、世界的建築家ピーター・マリノさんの目に留まり、意外なオファーが舞い込んだ。

32cm→150cm
西陣織を織り上げる織機は32㎝幅だったが、2010年にテキスタイルの標準幅である150㎝に対応する織機を、世界ではじめて開発。世界のマーケットに向けて革新的なテキスタイルを提供し、新たな価値を創造し続けている

「ディオールの店舗内装用に、西陣織を活用したコンテンポラリーなデザインのテキスタイルをつくりたい、と。西陣織の概念を壊す、“素材”としての可能性に気づかせてくれたのです。ただ、それを実現するには、伝統的な32㎝幅の織機では不可能でした」
 
そこで真孝さんは周りの反対を押し切り、1年かけて世界に1台の150㎝幅の織機を開発。前例のない挑戦は、世界各国のディオールのブティックを飾るテキスタイルとしてセンセーショナルに結実した。以来、国内外のラグジュアリーブランドの内装をはじめ、織物の固定観念を覆すコラボレーションで、世界の「HOSOO」としての地位を築いていった。

読了ライン

常識を超え続けることが、
伝統をより強固にしていく。

HOSOO×GUCCI
究極の美を追究するHOSOOのコレクションに、グッチを象徴するモチーフが織り込まれた特別なテキスタイルを制作。両者のシグネチャーが融合した唯一無二のハンドバッグ「Gucci Nishijin」が生まれた
LEXUS「LS」
月明かりに照らされた波の揺らぎを表現したテキスタイルを車内に搭載。開発に4年の歳月をかけて美と機能を両立させた生地は、LEXUSの品格と日本の美意識が表現されている
Leica Q2 “Dawn” by Seal
2022年秋発売の、シンガーソングライターSealさんの世界限定500台のモデル。木漏れ日から着想を得たHOSOOのテキスタイル「Collage Transparent」がライカQ2のボディを彩る
DAVID LYNCH meets HOSOO
鬼才の映画監督デヴィッド・リンチさんとのコラボ展で、複雑なテキスタイルで螺旋を描く全長約70mの織物を構築。リンチさんの世界観を表現した特別なインスタレーションを実現
Nishijin Sky
現代美術アーティスト、テレジータ・フェルナンデスさんとのコラボ作品。高さ1.9m、幅6mのタペストリーは、表は半透明、裏は金色の反射面で、空間の概念と体験を美しく表現した

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text: Ryosuke Fujitani
Discover Japan 2023年6月号「愛されるブランドのつくり方。」

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