京都の老舗《細尾/HOSOO》
300年以上続く、西陣織元の不易流行【前編】
西陣織は約1200年前、京都・西陣で発祥した先染め紋織物だ。その老舗織元である細尾は、西陣織のテキスタイルブランド「HOSOO」を生み出し、伝統工芸をグローバルに切り拓いた。その不変の伝統とイノベーションが織りなすストーリーをひも解き、時代に左右されない進化の秘訣に迫る——。
細尾が、世界の「HOSOO」になるまで。
1688年に創業した「細尾」は、京都の西陣織を代表する老舗織元だ。当時より皇族や将軍家など高貴なお客の要望に応え続けてきたルーツをもつ。
「西陣織の上位概念にあるのは、〝究極の美〟です」とは12代目当主・細尾真孝さん。それを生み出しているのは、西陣織独自の協業システムだという。
「西陣織は、20以上の工程それぞれを、独立したマスタークラフトマンが担当し、卓越した技術を結集して織り上げます。それは効率化ではなく、究極の美を体現するためにバトンを受け渡す協業なのです」
そういった確固たる伝統は、若き日の真孝さんの目にはコンサバティブに映っていた。幼少期からクリエイティブ志向が強く、パンクバンドで音楽制作をしながら、大学卒業後はレーベルに所属。音楽、ファッション、アートが融合したブランドを上海で立ち上げるなど独自の仕事に打ち込んだ。その後、大手ジュエリーメーカーに就職し、ビジネスを学んでいた頃、細尾に転機が訪れる。
2006年、先代の細尾真生さんが海外展開事業をはじめた。
「伝統工芸の世界展開は、誰も成し遂げていなかったこと。西陣織の可能性を広げるイノベーションになると強く思いました」
そうして真孝さんは家業に戻り、海外事業を後押しすることに。当初は、ほかとの差別化を図るため、和柄こそ“日本らしい”と考えたが、思うような結果は出せずにいたという。その後、2009年にパリの展覧会で出品した一本の帯が、世界的建築家ピーター・マリノさんの目に留まり、意外なオファーが舞い込んだ。
「ディオールの店舗内装用に、西陣織を活用したコンテンポラリーなデザインのテキスタイルをつくりたい、と。西陣織の概念を壊す、“素材”としての可能性に気づかせてくれたのです。ただ、それを実現するには、伝統的な32㎝幅の織機では不可能でした」
そこで真孝さんは周りの反対を押し切り、1年かけて世界に1台の150㎝幅の織機を開発。前例のない挑戦は、世界各国のディオールのブティックを飾るテキスタイルとしてセンセーショナルに結実した。以来、国内外のラグジュアリーブランドの内装をはじめ、織物の固定観念を覆すコラボレーションで、世界の「HOSOO」としての地位を築いていった。
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常識を超え続けることが、
伝統をより強固にしていく。
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text: Ryosuke Fujitani
Discover Japan 2023年6月号「愛されるブランドのつくり方。」