地域が誇れる酒を安定して供給する使命。
-八海醸造-
羽田未来総合研究所とともに羽田空港の未来を考える連載《HANEDAの未来》。第5回は「八海醸造」三代目蔵元・南雲二郎さんを迎え、酒の役割と本質をうかがった。
八海醸造
代表取締役 南雲二郎さん
1983年、八海醸造に入社。1997年に3代目蔵元に就任し、伝統の酒造技術を再構築しながら「気軽に飲める日本酒の高品質化」を使命に、多彩な活動に取り組む。
羽田未来総合研究所
創生事業戦略部 中橋辰也さん
結婚式プロデュース会社にてウェディングプロデューサー職などを経て、現職。地方の課題解決のために、羽田空港が果たす役割や新たな価値の創造に取り組む。
中橋 いま羽田空港は本当の〝いいモノ〟の価値を発信していこうと取り組んでいます。南雲代表はさまざまなところで「供給責任」という言葉を出されていますが、〝いいモノ〟の基準はどういったところにあるとお考えですか?
南雲 〝いいモノ〟というのは、つくり手がつくりたいものを一生懸命取り組んでできたもの。それが結果として多くの人に認められたときに大きな価値が生まれます。その中で我々に「供給責任」があるのは、日常消費財である〝レギュラー酒〟。
約100年前に「地域の人に日常的に楽しんでもらいたい」思いで酒蔵をはじめましたが、需要が増えてきたときに「商品がないから売れません」ということになったり、価格が高くなったりすると、〝日常消費財としての品質〟が落ちたことになるんです。だから我々は常に高品質かつ安定供給を追い求めています。
中橋 まず地域貢献があってこそ。運営されている複合施設「魚沼の里」も地域活性化という思いではじめられたのでしょうか。
南雲 日本酒造りは地域と密接に結び付いているので、貢献という思いはもちろんあります。ですが、それが第一義ではなく、まず何より自分たちが地域の人が誇れる存在になることで、結果として地域の人の役に立つと考えています。「魚沼の里」は、魚沼の素晴らしさを体感していただくことで、〝魚沼の地酒〟八海山の酒造りへの深い理解につながると思い、はじめました。
中橋 そういった発信を、いち早く世界に向けてされていますよね。素晴らしいことだと感じます。羽田空港では6月に、昨年20周年を迎えリニューアルされたクラフトビール「ライディーンビール」をはじめとした八海醸造さんの酒樽を展示させていただきましたが、日本ならではのお酒をご紹介する場として空港はどういった位置にあるとお考えですか?
南雲 海外からの大きな玄関という意味で、非常に高いポテンシャルを秘めていると思います。日本酒を未体験の方が、機内や空港で日本酒をはじめとしたニッポンの酒に触れ、母国に帰ってその魅力を伝えることで、よりニッポンの酒への認知度が高まる。そういった意味で空港には大いに期待していますね。
中橋 将来的に羽田空港を、さまざまなニッポンの酒に出合える玄関口にしていきたいですね。
文=藤谷良介 写真=林 和也 監修:羽田未来総合研究所ディレクター・石黒浩也
2019年7月号 特集「うまいビールはどこにある?」
《HANEDAの未来》
1|羽田空港の「場」を活用し、日本の魅力を発信
2|アートによる魅力づくり&環境づくり
3|職人の複製技術を活用し、文化財の魅力を世界へ
4|日本の豊かなものづくりを空港で魅せる
5|地域が誇れる酒を安定して供給する使命
6|瀬戸内国際芸術祭でアートの本質を再発見
7|伝統工芸の技法をファッションの世界へ
8|丹後本来の魅力は人々の暮らしの中に
9|発酵なくしてラーメンなし!
10|デザインとしての家紋が新しい価値をつくる