「翠松園」箱根の三井財閥別荘を改装した湯宿で、大正ロマンな滞在を。
緑の深い箱根小涌谷の地に約1万㎡の敷地を誇る神奈川県の「箱根・翠松園(すいしょうえん)」。大正時代の香りをまといつつ、居心地のよさを備えたラグジュアリーな空間が広がります。
グラスを片手に大正時代へタイムトラベル
1925(大正14)年、三井財閥の別荘として建てられた「三井 翠松園」。木造2階建、瓦葺きの和風別荘は、同じく箱根の名建築として知られる富士屋ホテルを手掛けた河原徳次郎の施工と伝えられる。国登録有形文化財にも指定されるこの建築を料亭としてよみがえらせ、約1万㎡の敷地に源泉かけ流しの露天風呂を備えた客室23室を贅沢に点在させたのが「箱根・翠松園」だ。
中庭をぐるりと囲むように建つ「料亭 紅葉」には、庭園ビューのテーブル席、プライベートを重視した個室、鉄板を前にライブ感を楽しめるカウンター席があり、建具の意匠やゆらめきのあるガラス窓から、日本近代建築の全盛期といえる大正当時の技術の美しさを堪能することができる。
そんな大正ロマンに浸ることができる空間では、地産のものを中心に全国から取り寄せた旬の食材を仕上げた日本懐石料理や洋食鉄板料理がいただける。日本料理の名店で修業を積んだ、若き料理長・森田正弘さんが手掛けるのは、五感が満たされる新感覚の懐石。夕食の献立には「玉蜀黍かすてら」、「蕃茄飛鳥鍋」、「揚鱧釜炊き御飯」など、一般的な懐石メニューからは想像できない品々が連なる。
一品一品に丁寧な仕事を施しつつも素材の味を大切にしたシンプルな味わい。酸味や塩味がまろやかで、食べ飽きないのも特徴だ。メニューによってはディルやクレソン、オリーブ油なども利用することから、日本酒だけでなくワインにも合うと定評がある。
森田さんは、「旅館のお料理を召し上がる方なら懐石の流れもよくご存じだと思いますが、献立を見ただけでは想像できない料理を提供し、ワクワクしていただける構成を考えています。それは斬新なものや奇をてらった料理をつくりたいということではなく、和食の王道だけに逃げず、美味しさのためなら洋のエッセンスを取り入れつつ和食を成立させたいという思いからです。美味しかったし、楽しかったという印象を持ち帰っていただけたら幸いです」と語る。
レストランにはクラシカルなバーも併設。アペリティフや食後酒の習慣をもつ方には、グラス片手に大正時代へのタイムトラベルを楽しんでいただきたい。
源泉かけ流しの客室露天風呂を全室に備える
23室ある客室はすべてに露天風呂を併設したスイートタイプ。部屋によって間取りやデザインがすべて異なり、リビングと寝室が一体になったワンルーム、別々のセパレートルーム、メゾネットタイプなど、好みの過ごし方に合わせてセレクトできる。寝室はシーリーあるいはシモンズ製のベッド仕様で、現代の居心地のよさと旅館のもてなしを兼ね備えたラグジュアリーステイを約束してくれる。
客室露天風呂は、弱アルカリ性、無色の単純温泉で、自家源泉から湧き出す源泉かけ流し。熱めであれば、湯もみの棒でならすか、加水することで好みの温度に調節もできる。檜、石づくりなど部屋によってデザインが異なるが、湯量も豊富で、どの部屋も足を伸ばしてゆったり入浴するのに申し分ないサイズだ。
有数の温泉地として知られる箱根だが、源泉かけ流しの客室露天風呂を備える宿は多くない。滞在中は、湯船と、テラスに用意されたハンモックやロッキングチェアを何度も行き来し、肌にやさしく湯あたりの少ない湯を、時間を気にせず味わいたい。館内にはドライサウナを併設した大浴場もある。
都内から約1時間半とアクセスのいい箱根。言わずと知れた人気観光地だが、箱根・翠松園なら本物の湯、料理、空間を知ることができる。ワンランク上の癒しを求め、旅に出てはいかがだろう。
全国から厳選した食材を使った日本料理
シスレーのスパで心身を整える
箱根・翠松園
住所|神奈川県足柄下郡箱根町小涌谷519-9
Tel|0460-86-0852
客室数|23室
料金|1泊2食付3万8000円〜(税別・サ込)
カード|AMEX、DINERS、JCB、MASTER、UC、VISAほか
IN|15:00 OUT|11:00
夕食|日本料理、鉄板焼き(レストラン)
朝食|日本料理(レストラン)
アクセス|車/東名高速道路厚木ICから約50分 電車/箱根登山鉄道小涌谷駅から無料送迎車(要予約)で約5分
施設|レストラン、バー、スパ、大浴場、スーベニアコーナー
www.hakonesuishoen.jp
text:Akiko Yamamoto photo:Maiko Fukui
2020年 Discover Japan_TRAVEL「ニッポンの一流ホテル&名旅館2020-2021」