VERTERE<バテレ>
奥多摩で、ビールと森林浴と!【中編】
次の休日は、ビールを目的に旅に出てはいかがですか?今回は、東京都奥多摩にあるビアバー「VERTERE(バテレ)」について、3記事でご紹介。
変化と進化を繰り返し
心に残るビール体験を創造するVERTERE
醸造所をはじめたとき、二人が決めたのは「誰と、どこで、どうやって飲むかを想像し、心に残るビール体験を創造する」こと。屋号の「VERTERE」は、「変える」という意味のconvertなどの語源であるラテン語から取った。
160ℓの寸胴鍋とドラム缶から醸造をスタートした当初は苦労の連続だったという。
「アメリカのポートランドに行くと原料の選択肢が遥かに多く、日本は制限があり、同じレベルのものを探すのは難しい。当時はまだ情報が少なかったので論文を読みあさったり、とにかくトライ&エラーの繰り返しでした」
そう話す辻野さんのビール造りは実にフレキシブルで多彩だ。使用する麦芽は、イギリスやドイツ、北米がメインで、シンプルに食べて美味しく使いやすいもの。香りや苦みをつくるホップはアメリカやニュージーランド、ヨーロッパなど制限はせず、出したい香りや味のベクトル、ビアタイプでメインホップを決める。そして、発酵の要となる酵母は約10種類。
「よく使うのは、イギリスのロンドンエールイーストやアメリカのバーモントエールイースト。酵母を選ぶときはアロマが出やすく、ホップや麦のフルーティな香りを際立たせてくれるタイプを重視しています」
そこに奥多摩の清らかな軟水を加え、酵母のよさが生きるように無ろ過、非加熱処理で醸すビールは週に3仕込み。多彩な素材を使いながらの小ロット醸造で大事にしているのは、固定しないことだと続ける。
「ビールは造り手も飲み手も自由なところが魅力。なので『うちの味はこれ』と定義はしていません。同じ名前のビールでもレシピを固定せず、素材や季節で変え、スタッフが意見を交換しながらアップデートを繰り返しています。何より組み合わせの変数の可能性がおもしろい。ホップと麦の掛け合わせや、酵母を入れる量、発酵温度など、その掛け算のパターンが無数にあって、たとえば発酵温度を少し変えるだけでガラっと変わったり、発見の連続。いまも勉強しながら日々仕込んでいます」。
一年を通して気温の低い奥多摩では発酵タンクの温度管理が大変だというが、「VERTERE」では、その地元との取り組みとして2017年に奥多摩でのホップ栽培も手掛けた。小河内エリアの過疎化が進んだ集落を盛り上げる若者たちの町おこし団体「Ogouchi Banban Campany(OBC)」と共同で、山梨との県境にある峰集落でビールの原料となるホップを栽培。少量ながらOBCとのコラボレーションビールをリリースした。
「そういった地のものだけで造るビールもおもしろいと思います。辺境地なので場所の制限はありますが、たとえば自分の知人がつくっている素材を使ったり、今後は人に根ざしたローカルな取り組みもできたらいいですね」
よりビールを身近に体験してもらえるよう、醸造併設で量り売り専門のグロウラーショップもオープンさせた。
うららかな日に太陽の光を浴びながら、その時季にしか味わえない奥多摩ビールを体感してはいかがだろうか。
Beer Cafe VERTERE
住所|東京都西多摩郡奥多摩町氷川212
Tel|0428-85-8590
営業時間|Beer Cafe/11:00〜19:00(L.O.)、Bottle Shop/13:00〜18:00
定休日|月〜金曜
奥多摩までのアクセス
◎電車の場合/JR新宿駅からJR立川・JR青梅を乗り継いでJR奥多摩駅まで約1時間25分
◎車の場合/練馬ICから関越自動車道〜圏央道を通り青梅ICまで約35分、青梅ICから青梅街道を通り奥多摩駅まで約55分。もしくは高井戸ICから中央自動車道〜圏央道を通りあきる野ICまで約40分、あきる野ICから吉野街道・青梅街道を通り奥多摩駅まで約55分
text: Ryosuke Fujitani photo: Kohei Omachi
Discover Japan 2021年6月号「ビールとアウトドア」