「木村硝子店」プロが選ぶグラス専門店
大熊健郎の東京名店探訪
「CLASKA Gallery & Shop “DO”」の大熊健郎さんが東京にある名店を訪ねる《東京名店探訪》。今回は一流のプロたちに選ばれ続ける湯島のグラスメーカー「木村硝子店」を訪れました。
大熊健郎(おおくま・たけお)
「CLASKA Gallery&Shop “Do”」 ディレクター。国内外、有名無名問わずのもの好き、店好き、買い物好き。インテリアショップ「イデー」のバイヤー&商品企画、「翼の王国」編集部を経て現職。
www.claska.com
蛇の道は蛇、というけれど何事もその道に通じた人の言葉や感覚というものは説得力がある。どんな世界であれ、ひとつの世界に専心し、鍛錬を積んでいる人とそうでない人との間には、当然見えるもの、感じるものは質量ともに大きな差がある。
専門店の魅力はまさにそこにある。店主や店員の経験に裏打ちされた見識に触れることで、買う側も商品に対する見方が180度変わることもまれではない。知ることで商品に対する興味もより深まり、選ぶことの喜びが増すはずだ。
東京は湯島にある木村硝子店はレストランやバーといった業務用を中心にしたグラス全般を企画、製造、販売するメーカーである。以前は業務用卸専門だったが、ブランドとして広く知られるようになり、一般の人から商品を求める声が増えたことで本社に併設するかたちで店舗をオープンした。
生まれたときからガラスに囲まれて育ったという3代目社長の木村武史さんはとにかくグラスのことならこの人に聞け、というくらい多くのプロたち、ソムリエやバーテンダーのみならず小売店の店主からデザイナーまでが多大なる信頼を寄せる業界の有名人だ。
機械生産のグラスも手掛けるが、手作りグラスへのこだわりが強いのも木村硝子店の特徴だ。木村社長によれば父親の時代には東京だけでも50社近く存在したという手作りガラスの工場もいまや数社のみ。機械生産には機械生産のよさがあるが、手作りのグラスだけがもつ心地よいフィーリングが好きだと木村社長は言う。
いい工場があると聞けば海外へも積極的に出向き、よい工場だと判断すれば製造を依頼する。最近は東欧によく足を運ぶという。「ワイングラスなんかだとやっぱりヨーロッパの職人はうまいね。ステムも非常に細くエレガントに仕上げます。そういう部分は日本の職人もなかなかまねできない。それこそ文化的、歴史的背景の違いでしょうね」。
逆に日本人ならではの嗜好性や美意識を意識し、木村社長自らがデザインして生まれたのが上の写真のサヴァである。有機的で繊細なボウルの丸みはなんともエレガント。それでいてステムを短くすることでどこか気取り過ぎていない安心感がある。実は銀座にある某超有名フランス料理店で採用されているそうだ。
一流のプロが選ぶ道具、という言葉ほど信頼と説得力のあるフレーズがあるだろうか。納得のグラスを探しに湯島に出掛けてみてはいかがだろう。
木村硝子店
住所|東京都文京区湯島3-10-4
Tel|03-3834-1784
営業時間|12:00〜19:00
定休日|日〜水曜
photo:Atsushi Yamahira
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