海の復権《瀬戸内国際芸術祭 2022》
粟島のアートが地域を元気にする
今年で通算5回目の開催を迎える瀬戸内国際芸術祭。2010年から3年に一度開かれている、日本最大規模のアートイベントだ。人々の営みや島の風土と共鳴した作品は、ここにしかない感動を呼び起こし「海の復権」というテーマをめぐる気づきを与えてくれる。
《粟島》
海洋から見た気候変動と環境破壊を知る
1897年、日本初の国立海員学校が開かれた島。3つの島が砂州でつながってできたといわれ、スクリューのようなかたちをしている。船乗りの島らしく、船や海にまつわる作品が目白押し。秋会期のみ。
面積3.67㎢/人口154人
粟島では、秋会期を中心に作品を展示。日本の海運を担ってきた島で展開されるアートは、海の視点から見る地球の未来がキーワード。2010年から日比野克彦さんが手掛ける「瀬戸内海底探査船美術館プロジェクト」も継続。海底遺物をゴミではなくアートの文脈でとらえ直す試みは、過疎の島が前を向く転機を与える。参加型の『種は船 TARA JAMBIOアートプロジェクト』もこの秋、粟島の浜へ。
2019年の芸術祭で粟島に活動拠点が置かれた科学探査船「タラ号」にも引き続き注目。気候変動や海洋汚染が生態系に及ぼす影響を調査するべく、世界の海を航海。科学者が科学の力で調査・分析するように、アーティストはアートの力で海の現状を広く伝えている。
【2022秋の新作】
日比野克彦『種は船 TARA JAMBIO アートプロジェクト』/秋
アデル・アブデスメッド『「い・ま・こ・こ」』/秋
マッシモ・バルトリーニ『スティルライフ』/秋
佐藤 悠、森 ナナ『粟島芸術家村』/秋
そのほかの会場もチェック!
《女木島》
島の暮らしがより快適にパワーアップ
男木島の南に浮かび、鬼ヶ島大洞窟や海水浴場でも知られる。2019年の「島の中の小さなお店」プロジェクトから発展した「女木島名店街」に、新たな作家と店舗が加わり、アートとショッピングの楽しさがアップ。
面積2.62㎢/人口125人
《直島》
海外からの移住者も。多様化する元祖アートの島
その昔、応神天皇が立ち寄り、崇徳上皇が過ごしたとされる島。100年続く北部の製錬所、香川県下最大級の養殖漁業、南部の文化的な観光開発が産業の柱。『杉本博司ギャラリー 時の回廊』などの話題作が続々と登場する。
面積7.82㎢/人口3103人
《沙弥島》
いまは陸続き、瀬戸内50年の変化を知る
香川県坂出市に属し、瀬戸大橋を間近に望むことができる。かつては坂出港の沖合4㎞に浮かぶ塩飽諸島の小島で、塩田での塩づくりが盛んだったが、約半世紀前に埋め立てにより陸続きに。春会期のみ。
面積0.28㎢(1967年まで)
《本島》
日本遺産に選定された「石」の産地
大小28の島々からなる塩飽諸島の中心で、香川県丸亀市に属する。国の伝統的建造物群保存地区に選定された笠島集落で、日本家屋と作品が共存する展示に心奪われる。秋会期のみ(一部の作品を除く)。
面積6.75㎢/人口281人
《高見島》
除虫菊栽培で知られた人口20人余りの島
約80年前までは除虫菊の一大産地で、最盛期には島中が白く染まったという。現在では人口減少が著しく、元住民や芸術祭の作家らが空き家保全に尽力。京都精華大学有志による高見島プロジェクトは4回目に。秋会期のみ。
面積2.35㎢/人口25人
《伊吹島》
日本で唯一平安時代のアクセントが残るイリコの島
観音寺港の沖合、燧灘に浮かぶ島。バッチ網漁で捕るいりこは「伊吹いりこ」としてブランド化され、島を支えている。島の言葉は独特で、日本で唯一平安時代のアクセントが残っているとも。秋会期のみ。
面積1.01㎢/人口323人
《宇野港》
本州側の拠点
岡山県の南端・玉野市の中心部に位置し、高松港に次ぐ島々への玄関口。港周辺エリアは、造船業や鉄鋼業、製塩業を中心に発展した街の往時をしのばせる。港と駅からの徒歩圏内に充実する新作をチェックしたい。
《高松港》
四国側の拠点
1988年に瀬戸大橋が開通するまで、四国の玄関口として旅客が行き交った港。島々への船が発着する、芸術祭のマザーポートだ。恒久展示作品が目を引く港周辺から少し足を延ばして、新作ラッシュの屋島もぜひ訪れよう。
<作品観賞をお得に、より楽しく!>
「作品鑑賞パスポート」
瀬戸内国際芸術祭2022を見て回るなら、お得な「作品鑑賞パスポート」がおすすめ。「3シーズンパスポート」5000円または「会期限定パスポート」4200円。オンラインで購入できて、マップやクーポンなども使えて便利な「瀬戸芸デジパス」アプリもある。
「芸術祭をめぐるツアー」
芸術祭をより深く知ることができるツアーに参加するのもおすすめ。チャーター船利用でガイドとともに作品をめぐることができる定期開催の「ベーシックツアー」に加え、アート、建築、食、歴史、文化などのテーマや、芸術祭の公式イベントへ参加する「スペシャルツアー」がある。
瀬戸内国際芸術祭2022
https://setouchi-artfest.jp/
text: Aya Honjo photo: Kenta Yoshizawa
Discover Japan 2022年9月号「ワクワクさせるミュージアム!/完全保存版ミュージアムガイド55」