ART

海の復権《瀬戸内国際芸術祭 2022》
豊島のアートが地域を元気にする

2022.9.24
海の復権《瀬戸内国際芸術祭 2022》<br><small>豊島のアートが地域を元気にする</small>
建築家・西沢立衛さんが設計を手掛け、『母型』を展示するためだけに建てられた豊島美術館。棚田の風景に溶け込むように設計された建築。棚田に一滴の清水が落ちた瞬間のような、有機的なフォルムを描く
写真=森川 昇

今年で通算5回目の開催を迎える瀬戸内国際芸術祭。2010年から3年に一度開かれている、日本最大規模のアートイベントだ。人々の営みや島の風土と共鳴した作品は、ここにしかない感動を呼び起こし「海の復権」というテーマをめぐる気づきを与えてくれる。

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《豊島》
「産業廃棄物の島」から「食」と「アート」の島に

豊富な湧水による土壌や漁場に恵まれた名前通りの「豊かな島」だったが、1978年から13年間にわたり産業廃棄物の不法投棄に苦しむ。芸術祭では、本来の豊かさにフォーカス。地魚を中心としたグルメも魅力。

面積14.5㎢/人口768人

安部 良(建築)『島キッチン』(2010年制作)
元空き家の古民家を再生。料理はお母さんたちのアイデアをベースに、東京「丸ノ内ホテル」シェフが考案。アートと食で、人々をつなぐコミュニティでもある

高度成長期、日本最大規模ともいわれる産業廃棄物不法投棄事件に揺れた豊島。その不名誉なイメージを払拭するべく、芸術祭では本来の島の豊穣さを象徴するような作品を展開する。

真っ先に訪れたいのが、島の北東部の地区、瀬戸内海を望む豊島美術館。美しく再生した棚田と建築が柔らかく溶け合って、唯一無二の景観をつくり上げている。館内には古くから同地区に湧出し、暮らしと田んぼを潤してきた清水を用いた作品『母型』が。開口部から感じられる光や風、止まることなく移ろう自然が、作品に限りないストーリーを与える。2010年のオープン以来、国内外のファンを増やし続けている作品であり場所だ。

食もまた、欠かせないキーワード。湧き出る水と豊かな土壌、海が揃った豊島は、自給自足、地産地消が当たり前の地だった。その文化を心と胃袋で体感するなら、芸術祭の作品でもあるレストラン『島キッチン』へ。棚田で採れた米、地魚、地野菜を使い、地元のお母さんたちが調理して提供される。土地が育んだ産物と人の豊かさが、ひと口ごとに伝わる口福。「食のアート作品」はしっかりと島に根を下ろしている。

ヘザー・B・スワン+ノンダ・カサリディス『海を夢見る人々の場所』
オーストラリアを代表する現代美術家と建築家のユニットによる作品。浜辺を訪れる人々が腰かけ、思考を浮遊させるための場所

【2022秋の新作】
冨安由真『かげたちのみる夢』
西本喜美子『西本喜美子写真展~ひとりじゃなかよ~』

 

犬島をめぐる
 
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海の復権《瀬戸内国際芸術祭 2022》
アートが地域を元気にする

1|序章
2|小豆島編
3|男木島編
4|大島編
5|豊島編
6|犬島編
7|粟島編

瀬戸内国際芸術祭2022
https://setouchi-artfest.jp/

text: Aya Honjo photo: Kenta Yoshizawa
Discover Japan 2022年9月号「ワクワクさせるミュージアム!/完全保存版ミュージアムガイド55」

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