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七夕って何の日?
七夕の基礎知識

2021.6.15
七夕って何の日?<br>七夕の基礎知識

七夕といえば、笹に願い事を書いた短冊をぶら下げて飾る、織姫と彦星が年に一度会う日……そんなイメージでしょうか。七夕も元旦や雛の節句、端午の節句、菊の節句と同じ、五節句のひとつ。昨今は百貨店やスーパーマーケット、街の商店街でも、訪れる客に短冊を書いてもらい飾っている様子が、よく見かけられます。
ではなぜ、ほかの五節句にはあまりない、願い事をいろいろするという形が、七夕に生まれたのでしょうか?


源氏五節句之内 七月七夕祭

牽牛と織女は理想のカップル?

七夕のお話で最も有名なのは、織女(しょくじょ)と牽牛(けんぎゅう)の物語だろう。中国の「荊楚歳時記(けいそさいじき)」によると、天の川の東岸に住む天帝の娘・織女は天帝のための衣を織ることに熱心で、ほかのことには見向きもしない。これではかわいそうだと考えた天帝は、天の川の西岸に住む働き者の牽牛に織女を嫁がせた。だがそれ以来織女は機織りをせず、牽牛とともに遊び暮らすように。怒った天帝は織女を東岸に連れ戻す。2人があまりに嘆くので、年に一度、七夕の日に2人が会うことを許したという。

中国では、機織りが上手な織女と働き者の牽牛にあやかり、織物その他の技芸の上達を祈る「乞巧奠(きこうでん)」という行事が、7月7日に行われるようになった。これが日本の七夕のルーツの一つになっている。

本来は技芸上達、また仲のよい織女と牽牛を見習っての恋愛成就が、七夕らしい願い事だが、だんだんと拡大解釈されて、現代では「サッカー選手になりたい」「○○が欲しい」など、何でも願っていいということになっている。

祖先を迎えるための禊の機織り

じつは日本にも昔から、この時期に行う特別な機織りの行事があった。それは祖霊を迎える準備の一環として、人里離れた水辺の小屋にこもり、乙女が祖霊にささげる布を織る風習だった。この布を織る乙女は「棚機女(たなばたつめ)」と呼ばれ、これが七夕の読み方のルーツになっている。夏の水不足から作物を守ってほしい、疫病から人々を守ってほしい、そうした祈願をこめ祖霊を迎える行事が、仏教伝来ののちにお盆(盂蘭盆)とも結びついていく。

ちなみに神にささげる布を織る乙女は、日本の神話において重要なモチーフのひとつ。例えば古事記や日本書紀で、スサノオノミコトが天界で暴れる場面にも、神にささげる布を織る乙女が登場する。スサノオノミコトは神聖な機織りの館の屋根に上り、中へ皮をむいた馬を投げ込み、これに驚いた機織りの乙女が驚いてけがをして死んでしまったため、スサノオノミコトの姉であるアマテラスオオミカミが天岩戸に隠れてしまう。この大事件を起こしたスサノオノミコトは、手足の爪を抜かれて天界から追放される。機織りの乙女を汚すことの罪がどれほど重いかがうかがえる。

七夕にまつわる話はまだあった?!

米が広がるよりも前の時代、日本では麦や粟、稗、豆などが主食となっており、夏はそうした作物の収穫期でもあった。七夕には夏の収穫に感謝する祭りでもあったため、日本の各地に「七夕の日には○○の畑に足を踏み入れてはならない」といった言い伝えも残っている。タブーとされる作物は土地によっていろいろで、それを犯すとその畑に虫が湧いて収穫がふいになる、あるいは足を踏み入れた人が溶けてしまうといった“罰則”も伝えられている。

タブーの作物としてよく登場するものの一つに瓜がある。信州の一部には「なでしこの花を植えると天人が下りてくる」という、言い伝えを信じた翁の話がある。翁がなでしこを植えたところ、なんと本当に天人が下りてきた。彼女が水浴びをしている隙に、翁はその衣を隠してしまう。天に帰れなくなった天人を連れ帰った翁は、二人で楽しく暮らすようになった。だが気が緩んだ翁が衣のありかを話してしまうと、天人は衣を取り返して天へと帰ってしまう。「もし私に会いたければ、厩肥を積んでその上に青竹を立てて、それに伝わって昇っておいでなさい」という天人の言葉に従い、天へと上った翁は天の畑の世話をして暮らすようになる。そこで食べてはいけないと言われていた瓜を食べたために、瓜から大量の水があふれ出して川となり、翁は天人と離れ離れになってしまった。このことから、七夕には青竹をたてるようになったと、この地方では言われているそうだ。

これは羽衣伝説としてよく知られている話だが、似たような話が全国的にあるということで、信州が発信地というわけではない。織女や牽牛の話とは違うが、天にささげる布や乙女、大水が裂く男女の仲といった、共通のモチーフが登場して、七夕に青竹(笹)を立てる言われも語られる、れっきとした七夕の物語なのだ。

ちなみに平安時代には七夕に「なでしこ合わせ」という行事が行われており、昔は七夕になでしこも関係していたことをうかがわせる。

疫病を払う行事でもある七夕

源氏五節句之内 七月七夕祭

七夕の短冊は歌にもあるとおり、陰陽五行に基づいた青、赤、黄、白、黒(紫)の5色で、それぞれが「木、火、土、金、水」の5つの要素を表している。この5色は七夕だけでなく、日本のさまざまな行事に用いられており、魔除けとして強い力を持つと信じられていた。七夕には魔を払う、疫病を払うという役割もある。昔、七夕飾りを川や海に流したのは、穢れを払い、無病息災を願う意味から。現代では川や海に流すところは減ったが(流す地域はあとで回収する)、形変われど思いは同じ。5色の短冊に思いを込めて、現代も全国各地で七夕祭りが行われている。

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ライタープロフィール
湊屋一子(みなとや・いちこ)
大概カイケツ Bricoleur。あえて専門を持たず、ジャンルをまたいで仕事をする執筆者。趣味が高じた落語戯作者であり、江戸庶民文化には特に詳しい。「知らない」とめったに言わない、横町のご隠居的キャラクター。

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参考文献=「日本の行事」と「しあわせ」の関係 日本のくらし「基本のき」(メディアパル)、暮らしのならわし十二か月(飛鳥新社)、年中行事覚書(講談社学術文庫)、知れば恐ろしい日本人の風習(河出書房新社)、浮世絵でみる年中行事(山川出版社)

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