TRADITION

中村吉右衛門の磨き上げられた芸に感嘆!
忠義と愛を描いた名作古典歌舞伎
シネマ歌舞伎『熊谷陣屋』

2021.11.10
中村吉右衛門の磨き上げられた芸に感嘆!<br> 忠義と愛を描いた名作古典歌舞伎<br> <small>シネマ歌舞伎『熊谷陣屋』</small>

歌舞伎の舞台を映画館で楽しめる「シネマ歌舞伎」。その多彩な演目は、毎月1週間ずつ異なる作品を全国の映画館で上映する「月イチ歌舞伎」で楽しめる。11月の上映作品は『熊谷陣屋』。

忠義と我が子の命のどちらかを選ばなければならない、武士の悲しい運命を描いた古典歌舞伎の名作。中村吉右衛門が先代から受け継いだ名演を全国の映画館にて、2021年11月19日(金)から25日(木)まで上映する。観に行く前に、あらすじや作品背景を予習しておこう。

忠義を何より重んじる武士の究極の選択――

©松竹株式会社

舞台は源平合戦の最中。源氏の武将・熊谷直実(くまがいなおざね)の陣屋(軍勢が宿営している場所)に、妻の相模がやってくる。初陣の息子・小次郎のことが気掛かりで、様子を伺いに訪ねてきたのだ。そこへ、敵方の平敦盛の母・藤の方が現れた。現在は平家に嫁いでいる藤の方だが、以前は後白河法皇の寵愛を受けており、相模はその頃、藤の方に仕えていて直実との恋を取り持ってもらった過去がある。さらに、実は平敦盛は平家の子ではなく後醍醐天皇の血を引く子どもで、後白河法皇に仕えていたことがある直実にとって、敦盛は大恩のあるふたりの息子なのだった。

そこへ沈痛な面持ちの直実が帰ってくる。息子の無事を祈る藤の方の願いは叶わず、敦盛はすでに熊谷直実によって討ち果たされていた。息子を失って悲しみに暮れる藤の方に、直実は敦盛の立派な最期を語って聞かせる。

そして直実の主君源義経(みなもとのよしつね)が登場。敦盛の首実検が行われることとなるが、実は義経は戦の前に、直実にある指示を出していて……。

時代を超えた人気演目

©松竹株式会社

『一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)』は、1751年に人形浄瑠璃として初演、翌年歌舞伎としても上演された。以後数百年に渡って繰り返し上演されてきた人気演目。全5段の物語の中で『熊谷陣屋(くまがいじんや)』は3段目。この世の無常と親子の情が巧みに描かれ、いつの時代も多くの涙を誘っている。

さらに、動揺する相模と藤の方を直実が制する「制札の見得(せいさつのみえ)」や、息子への思いを胸に花道を去っていく引っ込みの場面など、歌舞伎らしい見どころも満載だ。

人形浄瑠璃を歌舞伎に移したものは「義太夫狂言」と呼ばれる。人形浄瑠璃では台詞や状況描写などのすべてが義太夫節によって語られるが、歌舞伎に移されたものでは台詞の部分は俳優が担当。三味線のリズムに乗って語る、台詞回しの美しさが特徴だ。

受け継がれていく芸にも注目

中村吉右衛門
©松竹株式会社

シネマ歌舞伎に収録されたのは2010年の歌舞伎座公演。本編には直実を務めた中村吉右衛門へのインタビュー映像も収録されており、養父である先代中村吉右衛門が当たり役とした熊谷直実役の芸を受け継ぐことへの特別な思い入れを語っているので、こちらも必見だ。

そのほか、中村 富十郎、中村 魁春、中村 又五郎、中村 梅玉、坂田 藤十郎ら歌舞伎界の重鎮が集結。深い悲しみと葛藤を描いた物語に説得力を持たせている。

古典の演目こそ予習が大切。長い物語の一場面を抜粋して上演しているので、登場人物の複雑な関係性やその人物が置かれた状況を理解してから見てみると、よりストーリーに入り込める。観劇のお供として定番のイヤホンガイド、シネマ歌舞伎対応のアプリ版も便利。スマホとイヤホンを通してタイミングよく見どころを音声解説してくれる。難しいと思われがちな古典歌舞伎をしっかりと味わえること間違いなしだ。

戦国の世から変わらない親子の情愛と世の無常を、磨き抜かれた芸を通じて感じてみてはいかがだろうか。

©松竹株式会社

月イチ歌舞伎2021
『熊谷陣屋』
上映期間|2021年11月19日(金)~11月25日(木)
上映館|東劇ほか全国の映画館にて(詳細はこちら
料金|一般2200円、学生・小人1500円
上映時間|103分
出演|中村 吉右衛門、中村 富十郎、中村 魁春、中村 又五郎、中村 梅玉、坂田 藤十郎 ほか

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