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日本最南端峰の「黒糖」見つけた!【前編】
日本最南端の楽園を菓子職人・藤田怜美さんと旅する

2021.7.25
日本最南端峰の「黒糖」見つけた!【前編】<br><small>日本最南端の楽園を菓子職人・藤田怜美さんと旅する</small>
究極に美味しい黒糖かき氷の正体は「パーラーみんぴか」の人気メニュー「波照間黒みつ」。波照間島産の黒糖と黒蜜が、たっぷり!

「究極に美味しい黒糖かき氷がある」そう聞きつけて向かった先は日本最南端の有人島・波照間島。菓子職人の藤田怜美さんと旅した。

菓子職人
藤田怜美(ふじた。さとみ)
1983年生まれ。辻製菓専門学校フランス校卒業後、東京の「レ・クレアシヨン・ド・ナリサワ」に勤務。2005年に再度渡仏し、2006年、パリの二ツ星レストランでシェフパティシエに。’10年、パリでの和菓子研修会への参加を機に和菓子に感銘を受け、帰国後、京都「亀屋良長」で「Sato mi Fujita by KAMEYA YOSHINAGA」をスタート。’14年、京都岡崎に自身の店「kashiya」をオープン。

菓子職人・藤田怜美さん
憧れの黒糖を訪ねる

集落のある島の中心部を少し外れると、あたり一面に広大なサトウキビ畑が広がっている。波照間島を象徴する風景のひとつだ

石垣島から大型船に揺られること約100分。「さい果てのウルマ(サンゴ礁)」を名の由来にもつ、波照間島に到達。藤田さん、今回初上陸です。

最高峰の黒糖は島人の日常食だった
波照間島に降り立ったのは、菓子職人の藤田怜美さん。お目当ては、この島でつくられる黒糖だ。「実は暑いところは苦手で(笑)」と切り出し、こう続けた。

「パリ時代、地中海には行かなかったけれど、波照間島にはいつか行きたいと思っていました。なぜなら、そこに黒糖があったから」

藤田さんが波照間島の黒糖に惹かれる理由は、200余年の歴史をもつ京都の和菓子店「亀屋良長」の創業来の銘菓「烏羽玉」にある。

「波照間島の黒糖が使われているんです。ほかの黒糖で烏羽玉をつくったことがあるのですが、味が全然違って。波照間島の黒糖の美味しさを再認識しました」

波照間島では、1914年、石垣島からの移植によりサトウキビ栽培がはじまった。以来、島の主要産業として、黒糖づくりが行われている。今回は、烏羽玉の原料となる黒糖を製造する「波照間製糖」を訪問。つくり手の西波照間善光さんは、波照間島の黒糖の魅力をこう語る。

「波照間島では約9割が手作業での収穫です。人の目で見極めながら丁寧に収穫することで、製品の味に違いが出てきます。また、黒糖は原料であるサトウキビの新鮮さが美味しさの秘訣であるため、波照間製糖では収穫後24時間以内に処理・加工を行っています」

「パーラーみんぴか」に掲げられるメニュー。かき氷を中心に、ランチに最適なカレーライスや、島産の泡盛「泡波」も楽しめる

質を重視するため、年間(実質、12〜4月頃)生産可能な黒糖は、平年作で1800t。生産量は少なく、流通も限られる。しかし、島人にとって黒糖は、“日常食”。

「島人は黒糖が大好き。私も300g入りの黒糖の袋を、おやつ代わりにひと袋食べちゃいます(笑)。黒糖をこんなに食べるのは日本だけでしょうね」と西波照間さん。藤田さんは、パリ時代を振り返った。

「フランスの料理人の間でも黒糖は大絶賛されていました。ただ、ヨーロッパでは高級食材だった。日本最高峰の黒糖が日常食だなんて、波照間島はまさに楽園です!」

波照間島の黒糖の特徴とは?

波照間製糖でつくられる黒糖の原料は、島で栽培される約20品種のサトウキビ。収穫期の12~4月頃に黒糖を製造する。ミネラル豊富な土壌で育ったサトウキビを収穫し、24時間以内に処理・加工するため、フレッシュな仕上がりに。上質な甘さ、風味のよさが魅力だ。

波照間製糖 総務課長代理 西波照間善光さん

西波照間さん 波照間島の黒糖の持ち味は“風味”。どこにも負けない自信がありますよ!島人は子どもの頃から黒糖を食べて育ちます。

藤田さん 普通の黒糖より“癖”がありますね。ワイルドでコーヒーみたい。風味が豊か。見た目はほぼ一緒なのに、味が全然違います。

パーラーみんぴかの外観。

パーラーみんぴか
住所|沖縄県八重山郡竹富町字波照間465
Tel|非公開 ※予約不可
営業時間|11:00〜13:00、14:30〜17:00
定休日|木曜

当たり前がなによりの贅沢
日常の中に楽園がある

夕暮れ時のニシ浜。海水浴を終え、宿へと向かう観光客。飼いヤギを散歩させる島人。ただただ、海を眺める人もちらほら

この島にあるのは、広大な海と大地、そして空。そこに島人たちが、のんびりと暮らしている。波照間島の日常そのものが、楽園だった。

波照間島の日常に藤田怜美さん、感動
波照間島には、国道、県道はない。また、島内には信号機が一カ所も設置されていない。日中、たまに道ですれ違うのは、主に観光客が利用する、自転車やバイク、乗用車。そして時折、畑でサトウキビづくりを行う島の人々。あとは人よりもヤギや牛を見かけることが多いほどだ。人口約500人。波照間島に暮らす人々は、ゆるやかに、そして健やかに、それぞれの日常を送っている。藤田さんはそんな波照間島の印象をこう語った。

「ハイビスカスが、本州でいうツツジみたいに普通に咲いていて。本州とも九州とも違う、海外を旅して、異国の文化に触れた感覚がありました」


南十字星も待っている。
緯度が低く周囲に人工的な明かりが少ない波照間島。南十字星を好条件で観測できる稀少な場所。星空のために島を訪れる人も多数

ニシ浜やサトウキビ畑、日本最南端の碑から眺める星空など、島では当たり前の風景が、島を訪れた外の人間からすると、何よりも贅沢に映る。決してやさしいアクセス条件ではないものの、島を訪れる観光客が後を絶ない理由は、忘れがちな“豊かな日常”がこの島にあるからだろう。

「私の中では、波照間島は楽園ランキング1位ですね。精神の解放感、本当の意味での自由。それを体感できる島こそ、波照間島です」

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text: Discover Japan photo: Yasutaka Kinaga, Koichi Masukawa
Discover Japan 2018年8月号「あの憧れの楽園へ。」


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