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アートスペース油亀
岡山のワクワクが詰まった器ギャラリー

2021.4.30
アートスペース油亀<br>岡山のワクワクが詰まった器ギャラリー

Discover Japan公式オンラインショップでは、2021年4月29日から「珈琲のための器展」 がスタート。岡山県の人気ギャラリー「アートスペース油亀(あぶらかめ)」発の展覧会で、全国の“コーヒー党”の作家約60人に声を掛け、彼らのコーヒー愛に満ちた多彩なうつわ約6000点を集めるというユニークな企画です。そのワクワクが生まれた展覧会誕生の地を訪ねました。

岡山県・出石町の旧街道沿いに佇むアートスペース油亀。築140年の旧商家は木枠のガラス窓などの建具をはめ直し、懐かしい趣をよみがえらせたという

JR岡山駅からゆったりと歩いて約20分。旭川を挟み岡山後楽園の対岸にあたる出石町に、「アートスペース油亀」はある。このあたりは、古くは岡山城に出入りした商人の町で、風情ある佇まいの店舗がいまも点在するエリアだ。

建物は築140年のもと油問屋。10年ほど空き家だった「まるでお化け屋敷」を、アートスペース油亀の代表・柏戸喜貴さんと仲間たちが改修し、2007年にオープン。名前は、町内の人々に親しまれていた屋号「油亀」をそのまま使っている。

昔ながらの平屋で、思いのほか奥行きが深い。表の板間と坪庭を挟んだ二つの座敷を使ってゆったり展示が行われる

飴色に光る床に、ゆらめくガラス、坪庭の甕には季節の花……世代を問わず訪れる者を温かく迎えてくれる空間に、膨大な数のうつわがしっくり馴染む。

この古い家屋で、なぜギャラリーを開くことにしたのだろう。代表・柏戸さんに、由来を聞いてみた。

「もともとアート好きでしたが自分自身が発表するよりは、“ワクワクさせてくれるもの”を伝える空間づくりのほうが向いているなと思っていました」。その背景には大学時代、アウトドアサークルを立ち上げ、企画をつくり上げた経験があるという。「自分たちで企画を考え実行するのが、すごく楽しかったんです。それで、ものづくりする人の発信を手伝うほうに関心が向いて」。

卒業後、登山用品の企業に就職すると、赴任先の各地でものづくりの人々と知り合った。そしてたどり着いた岡山には「備前焼やガラス細工などの作家さんが、本当にたくさんいたんです」。彼らの発表の場をつくりたいと空きスペースを借り、たびたび展覧会を開くように。自由に展示できる空間がほしいと考えていた頃、この建物と出合う。「ギャラリーなら真っ白な壁がいいとか、いろんな意見をもらいました。でも、泊まり込んで掃除し柱を磨くうちに、この家が長い間大事に守られてきたことに気づいて。このまま古い建物を生かし、作品を並べてもいいんじゃないかと思ったんです」。

柏戸喜貴(かしわど・よしたか)
1978年大阪府生まれ。大学卒業後、登山用品等を扱う「好日山荘」に入社。赴任地の神戸・新潟・岡山や旅先でものづくりの人々と出会い、イベントに携わる。2004年退社後、現・アートスペース油亀の建物(妻の祖父がかつて営んでいた油問屋)と出合い、改修をはじめる。2007年にギャラリーとしてオープン。うつわを特集する企画展では、関連する食品の販売や飲食の提供、イベントも意欲的に行い、人気を博している。

それから、およそ14年。建物の趣を生かしながら企画したオリジナルの展覧会の評判は、次第に全国に広まるように。創業した2010年から 毎年開く「珈琲のための器展」 は、当初 17人ほど の作家ではじまったが、いまでは北海道から沖縄まで全国の作家約60人が参加。それぞれ、この展覧会に照準をあわせて構想を練り、毎年新たな作品を生み出してくれるという。

ほかにも「豆皿だけのうつわ展」、「果実の灰でうつわを作る」など、ユニークな切り口の展覧会がいくつもあり、カレー好きの作家60人超による約1万点が集結する「カレーのためのうつわ」展は、大阪・阪急うめだ本店にも巡回。いまでは、ギャラリーの 三大催事に数えられる大人気イベントになっているとか。

展覧会のフライヤーは、デザイン専門の油亀スタッフが制作を担当。親しみやすくポップなビジュアルは、「山のようにあるフライヤーの中でも目に留まり、自ずと足を運びたくなるように」という想いから

ところで、アートスペース油亀の作家セレクトの基準とは、どんなものなのだろう。

「展覧会を一緒になっておもしろがり、互いに力を出してつくりあえるかどうか。ロクロのうまさや『数がつくれる』といったことではなく、作品からほとばしるワクワク感を大事にしています」
同じものは二度とつくれない! というほどの熱を込めて、うつわに向き合う——そんな作家を探し、対話を重ねるため、展示替えの期間には全国各地の工房を訪ね歩く。

終始穏やかに語る柏戸さんだが、“ワクワク”への感性は、ことのほか鋭そうだ。その目利きのルーツを尋ねると、子どもの頃の祖父との体験を教えてくれた。

「お酒好きでぐい呑みを集めていた祖父は、修学旅行などに出かける僕にもお金を託し『買ってきてくれ』と。祖父の気に入りそうなものを探し持ち帰ると、喜んでくれるのがうれしくて。時には『大したことないな』という表情も(笑)。それがいまの原点でしょうか」

作家から届くうつわに対し、「もう少し、こうしたら?」と提案することもあるという柏戸さん。それはお客が手にしたときの感動を一途に願ってのこと。そして実際、どんなふうに喜び買い求められたか、そのようすも作家につぶさに伝えるという。
使う人の感動と、つくる人の情熱をともに引き出し、“ワクワク”をつくる。その積み重ねが、アートスペース油亀の、心躍る展覧会を生み出しているようだ。

アートスペース油亀
住所|岡山市北区出石町2-3-1
Tel|086-201-8884
営業時間|11:00〜19:00
定休日|展覧会により異なる ※展覧会のスケジュールは、アートスペース油亀のウェブサイトから確認。ほか展示替え期間あり
アクセス|JR岡山駅から徒歩20分/路面電車東山行き城下駅から徒歩7分/宇野バス東岡山行き就実高校前停から徒歩3分
https://www.aburakame.com

「アートスペース油亀」が選ぶ注目のうつわ作家
1|ワクワクが詰まった岡山のギャラリー

「アートスペース油亀」

2|柳 忠義
3|タナベヨシミ
4|田川亞希
5|加地 学
6|寺村光輔

text: Kaori Nagano(Arika Inc.) photo: Mariko Taya

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