アートスペース油亀
岡山のワクワクが詰まった器ギャラリー
Discover Japan公式オンラインショップでは、2021年4月29日から「珈琲のための器展」 がスタート。岡山県の人気ギャラリー「アートスペース油亀(あぶらかめ)」発の展覧会で、全国の“コーヒー党”の作家約60人に声を掛け、彼らのコーヒー愛に満ちた多彩なうつわ約6000点を集めるというユニークな企画です。そのワクワクが生まれた展覧会誕生の地を訪ねました。
JR岡山駅からゆったりと歩いて約20分。旭川を挟み岡山後楽園の対岸にあたる出石町に、「アートスペース油亀」はある。このあたりは、古くは岡山城に出入りした商人の町で、風情ある佇まいの店舗がいまも点在するエリアだ。
建物は築140年のもと油問屋。10年ほど空き家だった「まるでお化け屋敷」を、アートスペース油亀の代表・柏戸喜貴さんと仲間たちが改修し、2007年にオープン。名前は、町内の人々に親しまれていた屋号「油亀」をそのまま使っている。
飴色に光る床に、ゆらめくガラス、坪庭の甕には季節の花……世代を問わず訪れる者を温かく迎えてくれる空間に、膨大な数のうつわがしっくり馴染む。
この古い家屋で、なぜギャラリーを開くことにしたのだろう。代表・柏戸さんに、由来を聞いてみた。
「もともとアート好きでしたが自分自身が発表するよりは、“ワクワクさせてくれるもの”を伝える空間づくりのほうが向いているなと思っていました」。その背景には大学時代、アウトドアサークルを立ち上げ、企画をつくり上げた経験があるという。「自分たちで企画を考え実行するのが、すごく楽しかったんです。それで、ものづくりする人の発信を手伝うほうに関心が向いて」。
卒業後、登山用品の企業に就職すると、赴任先の各地でものづくりの人々と知り合った。そしてたどり着いた岡山には「備前焼やガラス細工などの作家さんが、本当にたくさんいたんです」。彼らの発表の場をつくりたいと空きスペースを借り、たびたび展覧会を開くように。自由に展示できる空間がほしいと考えていた頃、この建物と出合う。「ギャラリーなら真っ白な壁がいいとか、いろんな意見をもらいました。でも、泊まり込んで掃除し柱を磨くうちに、この家が長い間大事に守られてきたことに気づいて。このまま古い建物を生かし、作品を並べてもいいんじゃないかと思ったんです」。
柏戸喜貴(かしわど・よしたか)
1978年大阪府生まれ。大学卒業後、登山用品等を扱う「好日山荘」に入社。赴任地の神戸・新潟・岡山や旅先でものづくりの人々と出会い、イベントに携わる。2004年退社後、現・アートスペース油亀の建物(妻の祖父がかつて営んでいた油問屋)と出合い、改修をはじめる。2007年にギャラリーとしてオープン。うつわを特集する企画展では、関連する食品の販売や飲食の提供、イベントも意欲的に行い、人気を博している。
それから、およそ14年。建物の趣を生かしながら企画したオリジナルの展覧会の評判は、次第に全国に広まるように。創業した2010年から 毎年開く「珈琲のための器展」 は、当初 17人ほど の作家ではじまったが、いまでは北海道から沖縄まで全国の作家約60人が参加。それぞれ、この展覧会に照準をあわせて構想を練り、毎年新たな作品を生み出してくれるという。
ほかにも「豆皿だけのうつわ展」、「果実の灰でうつわを作る」など、ユニークな切り口の展覧会がいくつもあり、カレー好きの作家60人超による約1万点が集結する「カレーのためのうつわ」展は、大阪・阪急うめだ本店にも巡回。いまでは、ギャラリーの 三大催事に数えられる大人気イベントになっているとか。
ところで、アートスペース油亀の作家セレクトの基準とは、どんなものなのだろう。
「展覧会を一緒になっておもしろがり、互いに力を出してつくりあえるかどうか。ロクロのうまさや『数がつくれる』といったことではなく、作品からほとばしるワクワク感を大事にしています」
同じものは二度とつくれない! というほどの熱を込めて、うつわに向き合う——そんな作家を探し、対話を重ねるため、展示替えの期間には全国各地の工房を訪ね歩く。
終始穏やかに語る柏戸さんだが、“ワクワク”への感性は、ことのほか鋭そうだ。その目利きのルーツを尋ねると、子どもの頃の祖父との体験を教えてくれた。
「お酒好きでぐい呑みを集めていた祖父は、修学旅行などに出かける僕にもお金を託し『買ってきてくれ』と。祖父の気に入りそうなものを探し持ち帰ると、喜んでくれるのがうれしくて。時には『大したことないな』という表情も(笑)。それがいまの原点でしょうか」
作家から届くうつわに対し、「もう少し、こうしたら?」と提案することもあるという柏戸さん。それはお客が手にしたときの感動を一途に願ってのこと。そして実際、どんなふうに喜び買い求められたか、そのようすも作家につぶさに伝えるという。
使う人の感動と、つくる人の情熱をともに引き出し、“ワクワク”をつくる。その積み重ねが、アートスペース油亀の、心躍る展覧会を生み出しているようだ。
アートスペース油亀
住所|岡山市北区出石町2-3-1
Tel|086-201-8884
営業時間|11:00〜19:00
定休日|展覧会により異なる ※展覧会のスケジュールは、アートスペース油亀のウェブサイトから確認。ほか展示替え期間あり
アクセス|JR岡山駅から徒歩20分/路面電車東山行き城下駅から徒歩7分/宇野バス東岡山行き就実高校前停から徒歩3分
https://www.aburakame.com
「アートスペース油亀」が選ぶ注目のうつわ作家
1|ワクワクが詰まった岡山のギャラリー
「アートスペース油亀」
2|柳 忠義
3|タナベヨシミ
4|田川亞希
5|加地 学
6|寺村光輔
text: Kaori Nagano(Arika Inc.) photo: Mariko Taya