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これからの暮らしに“デジタルの風土”を
はじまりの奈良

2021.4.21
これからの暮らしに“デジタルの風土”を<br><small>はじまりの奈良</small>
2021年3月に閉店した小誌プロデュースの「coto coto」のプロジェクトは「はじまりの奈良フォーラム」で生まれたコミュニティに引き継がれ、新しい展開を迎える

初代神武天皇が宮を造られ、日本建国の地とされている奈良県。連載《はじまりの奈良》では、日本のはじまりとも言える奈良にゆかりのものや日本文化について、その専門家に話を聞いていきます。今回は「はじまりの奈良フォーラム」を主催する三浦雅之さんと、東吉野村を拠点にさまざまなオンラインイベントやサービスを展開する坂本大祐さんのお二人に、オンラインがもたらす“これからの生き方”について伺いました。

教えてくれたのは……
三浦雅之(みうら・まさゆき)さん
株式会社粟、NPO法人清澄の村代表。1998年より奈良の在来作物の調査研究、栽培保存に取り組む。また奈良市でレストラン「清澄の里 粟」などを運営し、6次産業化によるソーシャルビジネス「Project粟」も展開

坂本大祐(さかもと・だいすけ)さん
合同会社オフィスキャンプ代表社員・クリエイティブディレクター。2006年に奈良県・東吉野村に移住。シェアオフィス「オフィスキャンプ東吉野」を運営し、全国のコワーキング施設の開業サポートも行っている

今後、時間をどう使って何を共有していくか

「私はへき地に住んでいるので、以前は一日の活動時間のうち3分の1か2分の1は車による移動に充てていました」

そう話すのは、奈良県・東吉野村に住む坂本大祐さん。移動に使っていた時間を読書や料理、薪集めなど“暮らしの時間”に充て、充実感を覚えたという。

彼がほかにその余剰時間を使ったのが、さまざまなオンラインイベントやサービスだ。「仕事では、ミーティングはもちろん、スクールや座談会、サロンイベントなどをオンラインで実施しました。プライベートでは、それぞれが自宅で手元にお酒を置いて会話するオンラインスナックや、オンラインカラオケなどもやりました(笑)」

こうした体験を経て、オンラインのメリットを感じたという。

「ひとつが、距離の制限がないこと。全国どこからでもアクセスでき、海外にいるゲストだって呼べます。ふたつ目が、立場の差が少なくフラットであること。育児中の方や場所に縛られる仕事をしている方などが参加しやすいんです。3つ目が、オンライン上でレコーディングができること。後から見返したり、参加できなかった人に共有したりすることも可能です」

こうした“ハードルの低さ”はオンラインだからこそ可能になるのだろう。各所でオンラインによるユニークな新サービスもはじまっている。坂本さんが教えてくれたのが、あるゲストハウスがはじめた、オンライン宿泊だ。

「実際に参加してみました。1泊1000円で、寝る部屋までオンラインで案内してくれるんです。ゲストハウスはロビーなどで宿泊者同士が話し、交流できますが、そういう時間も設定されていて、宿泊者たちで交流しました。その中に車椅子を使っている方がいて『ゲストハウスには興味があったけれど、これまでは行けなかった。でもオンライン宿泊には参加できた』とおっしゃったんです。先ほど『立場の差が少なくフラットである』と話しましたが、まさに障がいのある方もそうで、これが最大のメリットなのでしょう」

その一方で、デメリットも感じたと坂本さんは話す。「ひとつは、雰囲気をつかみにくいこと。同じ空間にいれば、参加者がおもしろがってくれているのかなど非言語のコミュニケーションをつかみやすいのですが、オンラインだと反応が分かりづらいです。ふたつ目が、没入感をつくりにくいこと。簡単に離脱できますし、並行して違う作業ができてしまいます。3つ目が、通信環境や端末などの環境に左右されることです」

そして最大の弱点が、偶然を生みにくいことだという。「たとえば電車や居酒屋のカウンター、大学の講義などで起きるような偶然の出会いが、まず起きません」。

オンラインとオフライン、どちらにもあるメリットをうまく使いこなし、コミュニケーションを取っていくことが、これからの時代に求められるのだろう。

2021年3月に閉店した小誌プロデュースの「coto coto」のプロジェクトは「はじまりの奈良フォーラム」で生まれたコミュニティに引き継がれ、新しい展開を迎える

伝統野菜の調査研究などを行い、「はじまりの奈良フォーラム」も運営している三浦雅之さんは、今後の活動や暮らし方、コミュニティづくりの鍵として「七つの風」を提唱している。「すべてのものを生み出す源である『風土』、それから生まれる作物の『風味』、農作物をつくる人の行為が生み出す『風景』、暦の中で日本人が培ってきた『風習』、職人の仕事から生み出される『風物』、日本人の生活様式である『風俗』、これらの中で育まれる価値観や心持ちの『風情』です。これらはコモン(共有するもの)であり、独占するものではないと思っています」

さらに三浦さんは、これにリンクした食、エネルギー、住家、学び、生業、健康、助け合いという「七つの自給率」を高めるトレンドがやってきていると考えている。

「これらの自給率を高めていくと、豊かさと幸せの自給率も高まります。これまではお金でサービスを買っていましたが、自分たちの手に握り直す動きです。私と妻は七つの風でコミュニティを、七つの自給率でコモンを紡いでいくことをライフワークにしています」

坂本さんは、これからのコミュニティの在り方をこう話す。「近代では、お金の流通により人の営みや暮らしがどんどん土から離れ、分化・分断が起こりました。この土は、三浦さんの言う『風土』のことなのでしょう。いろいろな人を包括できるオンラインも、もうひとつの土だと思います。これからは“デジタルとしての土”という概念ももつといいのではないでしょうか」

培われてきた七つの風と自給率、新しい“デジタルとしての土”という概念。それらを大事にし、バランスを取ることが、これからの生き方なのかもしれない。

SDGs視点で読み解く、これからの奈良県の生き方!

2021年3月現在
解説協力:サステナブル・ラボ株式会社

人間、地球及び繁栄のための行動計画、持続可能な開発目標として国際的に採択されたSDGs。17の目標のうちゴール17の 「パートナーシップで目標を達成しよう」に関わる「インターネット普及率」に注目してみると、奈良県は89.3%で全国8位と上位になっています。

いまや欠かすことのできない社会インフラであるインターネット。その普及率が高い奈良県から、新たな価値観の風が吹きはじめているかもしれません。

詳しいデータはこちら

cooperation: Masayuki Miura text: Yoshino Kokubo photo: Kazumasa Harada
Discover Japan 2021年5月号「美味しいニッポントラベル」


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