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アイヌの文化と技を再発見する阿寒湖の旅【後編】

2021.2.9 PR
アイヌの文化と技を再発見する阿寒湖の旅【後編】

阿寒湖を訪れる楽しみは、阿寒カルデラの中心に位置する雄大な自然、地域性豊かな食、北海道でも有数の温泉地としての顔などさまざまありますが、今回は阿寒湖アイヌコタンの工芸を中心としたクリエーションに注目。アイヌにまつわるショップや施設が立ち並ぶ阿寒湖で、工芸・木彫作家として活動するお二人にお話を聞きました。

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「アイヌの人は自然を感じとる感覚や表現が豊か」

郷右近富貴子(ごううこん・ふきこ)
阿寒湖温泉生まれ。姉の絵美さんと共にアイヌのウポポを唄う姉妹ユニット「KAPIW&APAPPO」として活動。工芸作家として、木の皮やイラクサを材に糸を紡ぎ織り上げる、アイヌ伝統の刀下げ帯「エㇺシア」の技を用いてつくるブレスレットなどのアクセサリーを制作。阿寒湖アイヌコタンで評判のアイヌ料理の店 民芸喫茶「ポロンノ」を両親と夫と切り盛りする

アイヌの人々にとって、唄や工芸はもともと生活の中で自然発生的に生まれ育まれてきたもの。郷右近富貴子さんが木の皮を加工してつくったものを編んでつくるブレスレットも、子どもの頃からそばにあったアイヌの伝統的な道具で、工芸品である刀を下げる帯「エㇺシア」が元になっている。

アイヌの男性が儀式で使う刀下げ帯を元に、オヒョウの木の内皮やイラクサなどの草の繊維を材に糸からつくったブレスレット。手間をかけて制作される一点物

織り物や刺繍に使う「糸」づくりも、それ自体がアイヌの女性たちに受け継がれてきた繊細な「手仕事」。

現代の考え方では気が遠くなるほどの手の込んだもので、ニレ科の植物であるオヒョウの木の内皮をはぎ、外側の荒い皮をとったものを温泉に漬けたり煮たりして繊維状にする。それをよることで一本の糸にするという手間をかけてつくるのだという。「根(こん)を詰め過ぎると目が見えづらくなっちゃうこともあるほどの作業です。私自身、もともと作家でも歌手でもないし、料理にしてもアイヌ料理人ですと言ってやっているわけではありません。刺繍にしてもエㇺシアというアイヌの刀下げ帯つくりを習得した浦河のおばあちゃんから教わったもので、ことさら選んだというよりも自分のライフスタイルの中に偶然あっただけなんです」

若い頃にはバックパッカーとして海外を旅したこともあるという富貴子さん。そのことで逆に「自分のルーツを意識するようになったのかな」と笑う。

「結局この土地の文化が大好きなんですね。アイヌの人たちは自然を感じとる感覚や表現が豊かだし、心の動きに敏感でそれを工芸や唄、物語、踊りで表現する感覚をもった民族だと思います。唄は感情の動きや背景を大切に唄っています。アクセサリーに関しては自分が身につけていいなと思ったものをつくりたいと思っています。それが私からでてきた『伝統』になるんだと思っています」

「アイヌは自然と切り離すことができない民族」

瀧口健吾(たきぐち・けんご)
木彫作家。阿寒湖温泉生まれ。オーストラリアの高校へ進学し、現地で木片から鳥の姿を削り出し彩色するバードカービングの精緻な技に触れ、自身のルーツでもある木彫に興味をもつ。道東の雄大な自然の中で作品をつくった彫刻家・瀧口政満さんは、健吾さんの父。阿寒湖アイヌコタンでは父から継いだ「イチンゲの店」を営み、アイヌ文化の魅力を伝えるアイヌ文化ガイドも務める

魚の頭、セピア色の写真、カーネーションのドライフラワー、煤けた時計、野球バット、飯ごう、行者にんにく、水中メガネなどなど。木工品や土産物が店先に並ぶ「イチンゲの店」の天井には値札のない不思議な品が吊るされている。

「これは父が生前吊るしたもので、一つひとつに家族の思い出が詰まっています。だから父が亡くなった後、店がなくなってしまうのが嫌で、家業を継ぐことにしました」

家族の歴史が記録された民藝館のような味わい深い店内。留学したオーストラリアで木彫りに興味をもち、帰国後は酪農の仕事についたが、家業を継いだ経緯を瀧口健吾さんは静かにそう話す。

 

阿寒湖アイヌコタンにある「イチンゲの店」で愛犬の円空と店番をしながら木彫作品を制作する瀧口健吾さんは、アイヌコタンで生まれ育った3世代目のつくり手の一人だ。

「母がアイヌ人で、父親が営むアイヌコタンの土産物屋の店舗住宅で生まれ育ちました。熊やフクロウ、実用的なバターナイフやペーパーナイフをいまは楽しんで木彫りをしています」

健吾さん作の、立ち姿がユニークなオリジナルの木彫りの熊。刃物の勢いが感じられる木肌と愛嬌のある個性豊かな顔立ちが魅力で、ぜひ手にしたい逸品

アイヌの中でも先進的な気風をもつといわれる阿寒湖アイヌらしく、健吾さんも木彫りに使う樹種もさまざまなものを使ったり、最近では人工漆で着色した作品づくりなど新しいことにチャレンジしている。手にしてくれた人に長く使ってもらえるものづくりを目指し、父も木彫をしたというイチンゲの店の店内の一角で木彫を続ける。
「アイヌの文化にはないバターナイフにアイヌ柄に自分なりのアレンジを加えて文様を彫ったり、伝統にとらわれず自由につくっています。木彫に関してはまだまだ素人同然ですが、木彫をしながら店に立って嬉しいのは、昔に買ってくれた人がまた来てくれることです。木は割れたりしますから、いまだに父がつくったものを直してほしいと持ってきてくれる方がいるんですね。それは僕の使命みたいなもので、他の人にやらせるのではなく僕が直さなければいけないんだと思っているんです」

阿寒湖の魅力を伝えるアイヌ文化ガイドの仕事もする健吾さん。アイヌの自然観について興味深い話を教えてくれた。
「アイヌの人は、木は地面から生えているんじゃなくて、地面をおさえていると考えています。山から木を切れば鉄砲水で災害が起こることを知っていたんじゃないかな。そんなこと一つとってもアイヌは自然と切り離すことができない民族だということがわかります。知れば知るほどアイヌ文化のおもしろさに気付く毎日です」

阿寒湖より、神秘的な日の出

世界中から訪れる人々からLake Akanと呼ばれ親しまれる阿寒湖。

その雄大な自然に育まれ今も昔も変わらずアイヌの人々の暮らしの身近にある工芸、そして日常の心の機微を映し出す歌や踊り。訪れるたびに心惹かれる不思議な魅力が阿寒湖にはある。

今回、阿寒湖を旅して写真に収めた横田さんも、「今回の滞在ではアイヌの作家の方々にお会いして、民族文化の継承や移住の話など興味深い話をお聞きすることができました。薄く氷が張ったばかりのオンネトーでは念願のアイスバブルやフロストフラワーを撮影できたことが嬉しかったです」と旅の記憶を振り返った。

■伝統の技術を受け継ぎ、進化させる阿寒湖アイヌ工芸の詳細はこちら
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取材協力
TSURUGA アドベンチャーベースSIRI
TEL|0154-65-6276
阿寒ネイチャーセンター
TEL|0154-67-2801

アイヌの文化と技を再発見する阿寒湖の旅
・前編
・中編
・後編

全3回の記事をチェックしよう
滞在の様子はSNS(#lakeakan)でも発信中!

秋、初冬、晩冬の全3回の滞在の様子はそれぞれこちらから。

第1回|アイヌの聖地・阿寒湖で、秋の大自然を満喫する。
第2回|アイヌの文化と技を再発見する阿寒湖の旅
第3回|coming soon…(2021年3月公開予定)

今回の旅の様子は、2人のSNS(#lakeakan)でも情報発信していますので、あわせてご覧ください!

横田裕市さん
Twitter:@yokoichi777
Instagram:@yokoichi777

加藤孝司さん
Twitter:@takashikato
Instagram:@takashikato

text: Takashi Kato photo: Yuichi Yokota


≫アイヌの聖地・阿寒湖で、秋の大自然を満喫する。

≫ニューノーマル視点で阿寒湖のアイヌ文化に触れる旅

≫北海道・阿寒湖でアイヌの美意識に触れる。

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