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「土田酒造」の無添加日本酒は、データサイエンスと江戸時代の造りの融合で生まれる【後編】

2021.1.12
「土田酒造」の無添加日本酒は、データサイエンスと江戸時代の造りの融合で生まれる【後編】

いまの日本酒の常識からは考えられない、菌を生かした江戸時代の酒造りを、現代的な設備とデータ分析、チーム力の結集で実現する群馬県川場村の土田酒造。その古くて新しい造りとは?後編では、土田酒造に勤めるお二人の対談をお届けします。

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土田酒造6代目 土田 祐士(つちだ・ゆうじ)
1976年、群馬県出身。4人兄弟の4男で、ゲーム会社勤務後、2003年土田酒造入社。6代当主となる。経営者として次世代に残す日本酒の味と技術を模索

土田酒造杜氏 星野 元希(ほしの・げんき)
1985年、東京都出身。東京バイオテクノロジー専門学校卒業後、土田酒造入社。2012年杜氏に就任。自由な発想で菌を生かした日本酒本来の造りに挑む

土田酒造の「日日是研究」

星野さんはじめ、スタッフがのびのびと楽しく造る環境を整えている土田さん。新時代の造りを思わせる社長と杜氏の関係性に注目!

菌の声を聴く杜氏
杜氏の声を聴く社長

土田 「酒造りがしたい」と星野君が電話をかけてきたのが2005年。何年かして造りを手伝ってもらうようになったら、センスはあるし、とにかく熱意が強いのがわかりました。普通は造りが終わると「ようやく終わった」と言うけど、星野君は「もう終わっちゃった。早く次の季節が来ないかな」と言っていた。それを聞いたとき、この子は僕より絶対いいものを造ると感じて現場を任せるようになったんです。

星野 群馬の酒造組合のリストを見て上から順に電話をかけて断られ続け、たまたま土田にたどり着きました(笑)。当時は地元の方向けの普通酒がメインでしたが、山廃に挑戦したのが2013年。人工の乳酸を添加する速醸仕込みと違って、山廃では菌の機嫌によって酒にならない可能性があります。それが断然おもしろくて、山廃を増やしていきましたね。

土田 蔵にお客さんが来てもアルコールや乳酸を添加する作業を見せたくない自分がいて、一切の添加物もやめました。その頃、新政酒造のエクリュという酒に出合ったんです。きれいなのに幅があって、群を抜いて旨い。その感動が星野君とも一致して、こんな酒を目指そうと決まりました。

星野 ご縁をいただいて新政さんに造りを見せてもらい、まねすることからはじめました。最初は中途半端にしかまねできなかった。でも自己流を少しでも入れるとすべてが崩れていくので、とにかく完コピを目指すところからでした。

土田 星野君は新政さんだけでなく、たくさんの蔵で勉強しています。本気度が伝わるからか、ありがたいことに皆さん快く教えてくださるんです。そのあたりから土田の酒が劇的に旨くなりました。日本酒を飲み慣れない人にも美味しいと思ってもらえる酒ができたので、造りを全量山廃に変えることにしたんです。

星野 方針は決まったんですが、やればやるほど課題もやりたいこともたくさん出てくる。山廃で造った大量のもろみが乳酸菌に汚染されるという大失敗も経験しましたね。

土田 僕は、失敗はチャレンジした人だけに与えられるギフトだと思っているから想定内でした。量は多かったけどね(笑)。でもそれを美味しいと言ってもらえる酒に仕上げて、2万本近くを売り切った。経験値を増やした意味でもギフトだったんじゃないかな。

ナチュラルワインのような複雑な味わいを楽しめる個性豊かなラインナップ。飲み手の日本酒の常識もアップデートする必要がありそうだ

星野 失敗も踏まえて、今度は山廃より生酛で造りたいと考えるようになりました。作業としてはすりつぶす手間は増えますが、酒が安定するので最終的には楽になるといえます。全量生酛にしたいと呟いたら、社長がやってみようとリプライをくれ、社の方針がTwitter上で決まったんです(笑)。

土田 僕はとにかく旨い酒を造りたい。杜氏が造りを変えて美味しくなるというなら、すぐにでも変えたほうがいいと思うんです。米の栽培方法が酒の味に影響することがわかってきたので、自然栽培米にもチャレンジしています。昔の造りが健康にいいとか懐古主義なわけではなく、味を追求するほど自然な造りになっていったんです。

星野 スタッフたちも速醸では造りがおもしろくないと感じる身体になっているんじゃないかな。最近ようやく麹造りや野生酵母の扱いもわかってきたので、もっと美味しくなるはず。

土田 僕は、酒造りを茶道や華道のような酒造“道”だと思っています。極めたくても極まらないとわかっていますが、その道を楽しみながら進みたい。酒造りを100m走にたとえると、10mくらい走ったら突然ハードルが出てきたり、途中で200mに変わっているかもしれない。スタッフがそんな造りを楽しんでくれることが、ありがたいです。今後は、造りで出た酒粕を土地の肥料や家畜の餌としたり、蔵にいる自然の乳酸菌でほかの食品をつくったり……。酒造りを中心に川場村で永続可能なエコシステムを構築できないかとも考えています。まだまだ進化の途中ですが、常に挑戦は続けていくつもりです。

土田酒造
1907年の創業から譽國光という地酒で親しまれてきた老舗蔵。蔵見学、併設の店舗で酒の購入も可。
住所|群馬県利根郡川場村川場湯原2691
Tel|0278-52-3511
年間生産量|約10万8000ℓ(一升瓶約6万本)
www.homare.biz/

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text:Akiko Yamamoto photo:Kazuma Takigawa
Discover Japan 2021年1月 特集「温泉と酒。」


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