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「香雲館」和洋折衷空間で伊香保の湯を愉しむ

2019.10.24
「香雲館」和洋折衷空間で伊香保の湯を愉しむ
宿の中心には舞台がしつらえられている

名湯として古くから知られる伊香保温泉。多くの温泉宿が建ち並ぶが、中でも随一の名宿が「香雲館」だ。日本の美だけでなく、各国の意匠を取り込んでいる。茶色の名湯に浸かり、心地いいもてなしに身を委ねたい。

伊香保名物の「黄金の湯」を愉しめる大浴場「あうるの湯」。“あうる”とはフクロウのこと。温泉の効能は、神経痛や筋肉痛など。古くから愛されてきた茶褐色の湯を、源泉掛け流しで堪能できる

万葉集にもその名が登場するほど、長い歴史を誇る伊香保。長い石段をシンボルとして、いまに至る温泉街のかたちをつくり上げたのは戦国時代だといわれる。

時代は下って近代に入ると、徳冨蘆花、竹久夢二、与謝野晶子などの文人たちが足繁く通う湯処となった。榛名湖のそばにアトリエを構え、しばしば伊香保に訪れていたという夢二が、スケッチブックを携えて、ふらりと歩いていそうな坂道の途中に、城壁のような石積み門をもつ宿があり、その名を「香雲館」という。

松竹梅
厳寒の時季にも緑を失わない松と竹、花を咲かせる梅は「歳寒の三友」。この3樹を意匠に用いた部屋。入り口に掛けられた白錆竹染付『松濤図』、一の間と二の間を仕切る襖絵『蔦に竹図』が見事

文久年間創業という宿の別館として建てられたこの宿は、わずか10室のみの小さな規模だが、それぞれの部屋の意匠が異なる。それらの客室が、平安の都から、室町時代、江戸の昔、はてはルイ王朝の盛りまで、まさに伊香保がたどってきた年代をデザインされているのは実に趣が深い。

案内されたのは「銀閣」。京都洛北「慈照寺」をイメージしたのだろうと推し測って部屋に入ると、アプローチの正面に鎮座するフランシス・ベーコンの胸像に意表を突かれる。続くダイニングルームと傍らのツインベッドルームはエドワード朝の様式を再現したというから驚くばかり。

貴賓室「銀閣」は、洋間と寝室、和室、露天風呂からなる。洋室はイギリスの20世紀初頭エドワード朝時代の様式を取り入れ、和室は慈照寺(銀閣寺)をイメージ

廊下を抜けると一転、純和風のしつらえに変わり、2畳小間の茶室を備えた座敷に上がり込むと、ようやく銀閣の意がわかるという凝った仕掛けだ。その典型ともいえるのが「鳥」の間。入口正面に飾られているのは母子フクロウの木彫。

アイヌの名匠が彫ったというフクロウはアイヌの守り神。そして伊香保という地名は、アイヌ語で「たぎる湯」を意味する「イカホップ」を起源とする説がある。大浴場をはじめ、この宿のそこかしこにフクロウが潜んでいるのには、そんなわけがあったのだ。

朝食にも上州名物が
コンニャク芋からつくったばかりのコンニャクや、手づくり豆腐、豚汁、上州地鶏の卵を使った卵焼きなど、群馬の食材を豊富に使用

香雲館は、料理もまた、その土地ならではの個性を大いに発揮する。上州牛、武尊サーモンをはじめ、下仁田ネギ、下仁田こんにゃく、妙義産大シイタケなど、地元の食材をふんだんに使いながら、洗練の技を加え、見た目に美しく、食べて美味しい料理に仕上げる。

隣接する「塚越屋七兵衛」の風呂も利用可能。温度の異なるふたつの湯船がある大浴場と露天風呂がある

名宿の条件として、最も大切なのは心だと常々思っている。心なくしてはしつらえも、接客も料理も客の心に響かない。デザイナー任せのしつらえ、マニュアル通りの接客、はやりを追うだけの料理。そういう宿に辟易しているなら、ぜひこの香雲館を訪ねてほしい。真の「おもてなし」とは何か、がきっとおわかりいただけるだろう。

—松老白雲多—と書かれた書が銀閣の茶室に掛けられていた。

白雲のように、香り立つ煙に包まれて過ごす一夜に、身体も心も芯から癒される。「香雲館」は、名湯伊香保一の名宿である。

香雲館
住所:群馬県渋川市伊香保町伊香保175-1
Tel:0279-72-5501
Fax:0279-72-5505
E-mail:yoyaku@kouunkan.jp
客室数:10室
料金:1泊2食付2万5000円〜(税・サ別)
カード:AMEX、DC、DINERS、JCB、MASTER、VISA、銀聯、デビッドカード
IN:13:00 OUT:11:00
夕食:会席料理(食事処または部屋) 朝食:和食(食事処または部屋)
温泉:伊香保温泉 黄金の湯(カルシウム・ナトリウム-硫酸塩・炭酸水素塩・塩化物温泉/源泉掛け流し/加温なし/加水なし/神経痛、筋肉痛、関節痛など)
風呂:大浴場男女別各1(24時間)、部屋風呂10室(温泉ではない)
アクセス:車/関越自動車道渋川伊香保ICから約20分 電車/JR上越線渋川駅から路線バスで約20分 バス/新宿駅新南口から上州湯めぐり号・伊香保温泉号で約3時間
館内施設:大浴場、エステ
Wi-Fi:あり
www.kouunkan.jp

文=柏井 壽 写真=宮地 工
Discover Japan_TRAVEL「味わいの名宿」

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