発酵食品は多々あれど、日本の発酵食、実は3つだけ?
あれも発酵、これも発酵②
発酵とは、目には見えない微生物が有機物を分解し、人間にとって有用な物質をつくり出すこと。日本人は、古代から発酵を生活に取り入れ、その恩恵にあずかってきた。発酵デザイナーの小倉ヒラクさんに発酵の魅力を教えてもらいました。今回は、日本に数えきれないほどの発酵食品を、つくり方から「3つ+その他」に分類!
発酵デザイナー。山梨県甲州市を拠点に全国の醸造家との商品開発、絵本・アニメの制作、ワークショップなどを行う。著書に『発酵文化人類学』(木楽舎)、『日本発酵紀行』(D&DEPARTMENT)
発酵は日本らしい文化!?
食における発酵の最たる機能は、発酵させることによって、食材の保存性が高まり、栄養も増すこと。日本人はその恩恵にあずかるための努力を惜しまず、多種多様な発酵食品を生み出してきた。なんと、漬物だけでも全国に3000種類以上あるというから驚きだ。それくらい日本の食には発酵が根づいている。そのほかにも味噌、醤油、納豆、日本酒など、日々の食生活に欠かせないものも多い。
「発酵は、日常的な実践の背景に自然や生活に対する普遍性を見出す、行動と思想が伴ったムーブメントなんです。禅や民芸、茶道と同じですね。そういうところも含めて、日本の発酵文化はとても日本らしいものだと思います」
さらには、日常の食卓に馴染みのある発酵食品に加え、ある土地でしかつくられていないユニークな発酵食品が多数存在することも日本の発酵文化の特徴といえる。
「日本には、数えきれないほどのローカル発酵食品があります。その多様性は、日本ならではの自然環境と微生物環境、そしてさまざまな偶然が重なって生まれたものなんです。偶然から生まれたものを、いつでも、誰でも再現可能なメソッドに磨き上げたことが発酵文化の原点です」
ヒラクさんは、展覧会「Fermentation Tourism Nippon 〜発酵から再発見する日本の旅〜」開催に際し、一人で47都道府県をめぐるフィールドワークを行った。その期間はなんと8カ月。地道な聞き込みを重ねながら、その土地に根ざした発酵食品を探し出した。
「その土地ならではの漬物や調味料だったり、なぜか古代や海外の発酵の流れを受け継いでいるものだったり。地元の人でさえもほとんど知らないという発酵食品も発掘しました」
土地の数だけあるともいえる日本の発酵食品。ヒラクさんはそのつくり方から「調味料」、「漬物」、「お酒」の3つに分類している(乳酸菌の発酵によるものなど西洋で主流の発酵食品は除く)。つくり方、つまり微生物の働き方を意識することで、日本ならでは、もっといえばその土地ならではの発酵文化が見えてくる。
数ある発酵食品を
3つ+その他に分類!
地域の歴史を知ることできる
【調味料】
麹菌をスターターとして、大豆や米などの食物を発酵によって溶かしたもの。機能としては「調味する」もの。味噌、醤油、酢、みりんなど、毎日の食卓に欠かせないものが多い。魚を塩漬けにして溶かす魚醤もこのグループ。
気候・風土が見えてくる
【漬物】
塩、麹、酒粕などの床に食材を漬け込んで発酵させたもの。塩漬けは京都のしば漬け、麹漬けは東北の三五八漬け、酒粕漬けは奈良漬けが代表例。塩辛、熟鮨もこのグループ。機能としては「食べる」もの。
日本の発酵のルーツにつながる
【酒】
酵母によって原料に含まれる糖分が分解され、アルコールを引き出したもの。日本酒、ワイン、ビール、焼酎、ブランデー、ウイスキーなど、酒はすべて発酵食品。機能としては「酔う」もの。今回は割愛し他に譲る。
実は一番多い!?
【その他】
「調味料」、「漬物」、「酒」という分類には当てはまらないもの。たとえば納豆、せん団子(P109)、くず餅、発酵茶など。その多彩なバリエーションは、自然環境と微生物環境が多種多様な日本ならではのもの。
1|発酵で日本のいまが見えてくる
2|日本の発酵食、実は3つだけ?
3|発酵は生活の中から生まれた知恵の結晶
4|世界的に見ても日本は発酵大国でした
5|発酵の主役は人間ではなく微生物
文:成田美友、編集部 写真=山平敦史