海外の納豆事情
実は世界の健康食だった!
《高野秀行さんに学ぶ、納豆の豆知識》
日本だけでなく、実はアジア大陸やアフリカでも食べられている納豆。味や匂いこそ似ているものの、見た目や調理法は実に多種多様です。
世界で食べられる納豆は
実にバラエティ豊か
「納豆は僕たちのソウルフードだ」。
日本人が口にしそうな言葉であるが、高野さんはこれをタイのチェンマイで聞いたという。当地で食べられている「トナオ」は、形状こそ異なるが匂いも味わいも製造原理も、日本の納豆と同じ。そして、名前までナットウとそっくりだった。
高野さんが「納豆は日本だけのものではない」ということを知ったのは20年以上前。タイやミャンマーなどのアジアの辺境地帯に日本と同じ納豆があるという事実に惹かれ、アジア各地や西アフリカ、そして日本と、「納豆とは何か」を知るべく取材を重ねた。
「中国南部から東南アジア内陸部、そしてヒマラヤに至る広大なエリアで見られるアジア納豆は、大豆が原料で同じようにネバネバしていますが、糸引きは少し弱いです。また、バナナやパパイヤ、桑の木などの大きな葉っぱやシダの葉っぱで包んで発酵させるという違いもあります。ただし納豆菌による発酵であることは共通しており、味や匂いは納豆そのものです」
アジア納豆は粒のまま食べることもあるが、ペースト状になったり麺類のトッピングに使われたり、乾燥させたものを砕いて出汁代わりに使ったり、炒め物に加えて調味料として使ったりと、多様な使われ方をしている。
さらに驚くことに、アフリカにも納豆はある。原料は大豆ではなく当地で手に入るローカル豆だ。大きな木からぶら下がる長さ20㎝のさやに入ったパルキア豆の納豆やハイビスカス納豆、バオバブ納豆など、さまざまな種類の豆や種子からつくられる。こちらも、材料や見た目こそ違えど、味も匂いも紛れもなく納豆だ。
違いがある一方で、世界各地の納豆には共通項もある。
「ひと言で言えば、納豆は辺境食であるということです。海から遠く土地が痩せていて、生活が厳しい地域における貴重なタンパク源として食べられてきた歴史があります。平野部に比べて魚が入手しにくく、家畜も養いにくかったからでしょう。日本でも、たとえば山に囲まれた秋田県南部では、いまでも納豆汁が郷土料理として残っていますが、同じ秋田でも海に近い地域ではしょっつるという魚醤がつくられてきました」
納豆を通して浮かび上がる、海文化と山文化による食の違い。世界に共通して見られるとは、なんとも興味深い。
世界の納豆料理
雪納豆/岩手・西和賀
雪の中に、ワラに詰めた煮豆を埋めて、熱湯を注いだ鍋とともに発酵させる幻の納豆。
ツルマメ納豆/山梨・南アルプス
研究者の協力を得て、大豆の野生種ツルマメでつくった納豆。縄文時代の味!?
納豆入り回鍋肉/中国・鳳凰古城
鳳凰古城の料理店で高野さんが食した、苗族の納豆料理。シダの葉と白布で発酵させる。
味噌納豆/ミャンマー・チェントゥン
どろどろとした赤いタレのような納豆。平たい餅米に塗りつけ、炭で炙って食べる。
せんべい納豆、蒸し納豆/タイ・チェンマイ
薄焼き煎餅のような平らな形状のせんべい納豆や、ご飯とともに食べるペースト状の納豆。
幻の竹納豆/ミャンマー・ミッチーナ
ショウガや唐辛子、塩などを加えた長期保存用納豆。竹筒に入れ土産としても売られる。
古納豆/ミャンマー・ナガ山地
煮豆をイチジク属の葉で包み2週間以上熟成させた。野菜とともに煮込み、納豆汁に。
納豆カレー/ネパール・パッタリ
ネパールの納豆「キネマ」を加えた、香辛料の利いたカレー。納豆の風味は強くない。
碁石納豆/ミャンマー・タウンジー
パオ族がつくる納豆。炙って砕いて炒め物に使うなど、調味料として使われている。
くんせいオクラ形納豆/セネガル・ジガンショール
セネガルの納豆「ネテトウ」。オクラ形にして燻製にしたものなど保存形状は多様。
せんべい納豆/ナイジェリア・カノ
自生するパルキア豆を使った納豆。ペースト状にし、せんべいのようにして天日干しに。
バオバブ納豆/ブルキナファソ・ガンズルグ県
バオバブの種子でつくられた納豆。煮た後につき、丸めてから蒸して発酵させる。
その他主要な納豆料理
納豆汁/秋田県南部
軍事境界納豆/大韓民国・パジュ
隠れキリシタン納豆/大韓民国・ワンジュ郡
酸味納豆/ブータン・ティンプー
蒸し納豆/タイ・チェンダオ
納豆炊き込みご飯/ブルキナファソ・ワガドゥグ
ハイビスカス納豆/ブルキナファソ・バム県
読了ライン
1|納豆は日本のソウル&ヘルシーフード
2|実は日本の専売特許ではなかった!納豆は、世界の健康食でした。
3|昔からずっと手軽で貴重な栄養源!知っておきたい納豆のルーツ
4|身近なのに知られていない納豆トリビア!今日から役立つ納豆の10の秘密。
5|世界の納豆を食した高野さんイチオシ、全部食べれば納豆マニア!納豆四天王
text: Miki Yagi photo: Akio Nakamura, Kazuya Hayashi
Discover Japan 2021年7月号「ととのう発酵。」