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ニッポンの年取り魚は、東の鮭、西のブリ
~ブリ編〜

2020.12.1
ニッポンの年取り魚は、東の鮭、西のブリ<br>~ブリ編〜

新年の食卓に欠かせない、魚料理。特に「年取り魚」とされる鮭とブリは、縁起のよい食べ物として、東日本では鮭、西日本ではブリが供されることもあります。そしてこのふたつの魚は、まさに年末に向けて旬を迎えるのです。今回は全国ブランド「氷見の寒ブリ」から、西のブリの魅力に迫ります。

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年取り魚とは?
大晦日やお正月、新年を迎える「年取り膳」に供される魚のこと。東日本では塩鮭、西日本では塩ブリが食べられてきた。古来律令制のころから朝廷に奉納されていたように、神へのお供え物として特別だった魚を、めでたい日に食べる習わしがもとになったという説が有力。鮭やブリのほか、京阪地域の鯛に加え、鱈やいわしなども全国的に散見される。

氷見の寒ブリは、定置網の進化とともに

下村加茂神社では、新年1月1日に下村地区内の氏子から届けられた塩ブリが献納される。神前に献納した地区名が読み上げられた後、切り分けられて各戸に届けられる。950年ほど前に京都の下鴨神社から伝わったものとされるが、京都では本来の姿は残されていない

氷見の寒ブリといえば、築地でも毎年高値で取引される、全国ブランド。なぜ氷見で獲れるブリは、美味いとされるのか。その秘密をさぐるべく、富山湾越しに立山連峰を望む、氷見へ足を運んだ。

氷見の寒ブリに関する記述は、1595年までさかのぼる。京都伏見にいた加賀藩主・前田利家は氷見灘浦のブリ17本を送るよう命じた「塩鰤上納申付け状」だ。古くからブランド魚として名を馳せてきた氷見の寒ブリ。その理由はこの地で進化してきた定置網漁の歴史にあった。

氷見沖2〜4㎞のところに張られた「越中式鰤落し網」と呼ばれる仕組みの定置網。3層構造にすることで、一度網にかかった魚を逃さないようにしているが、実際に獲れるのは網に入ってきた2〜3割だとか

氷見では400年以上前から定置網を用いて漁をしてきた記録が残る。当初は袋状の箕のような構造で「台網」と呼ばれていた定置網だが、明治40年には宮崎県で開発された「日高式大敷網」が導入され、昭和初期には氷見の網元・上野八郎右衛門が日高式を改良した「上野式大謀網」を考案。現在の定置網の元となっている。

寒ブリは、日本海を回遊するブリが一度北海道沖まで北上したのち、栄養を蓄えて南下し、富山湾に入ったもの。11月末〜1月末にかけて産卵前に捕獲された寒ブリは脂がのり、大きなものだと15㎏以上になる。もうひとつの特徴が、ブリの締め方。定置網から揚げたその場で氷水に入れて気絶させることで、旨み成分が消えることなく運搬できる。氷見灘浦の網元17代目・濱元英一さんによると、その昔は、獲れたその場で頭を刺して即死させていたのだろうという。

元からある環境だけでなく、人間の叡智も加えて「鰤と漁師、調理師による、“師”同士の知恵比べ」が行われてきた氷見。その努力あってこその、ブランドなのだ。

朝の氷見漁港には、数十隻の漁船が入港し、活気を帯びる
最盛期の12月、寒ブリで埋め尽くされた漁港

天然の生け簀、富山湾

氷見沖には、湾底まで落ち込む「ふけ」があり、豊富なプランクトンを求めて魚が回遊してくる格好の漁場

日本海の海岸線のほぼ中央に位置する富山湾は、大陸棚が狭く沿岸から急激に深くなっている特徴をもつ。湾には対馬暖流の一部が能登半島に沿って入り込み、暖流系の魚が入ってくる一方、−300m以下の深海には年間を通じて水温1〜2℃の深層水が存在し、冷水系の魚も生息。豊富な魚種が獲れる全国有数の良好な漁場は「天然の生け簀」といわれる。

3000m級の立山連峰からの栄養豊富な水は富山湾に流れ込み、魚介類を育む

氷見の寒ブリを贅沢にいただく

左)ブリの背身、中トロ、大トロ、尾など、部位による違いをシンプルに味わえるのが御造り。旬の時期に脂がのったものは、ブリのイメージを覆すほどの味わい。右)鰤塩焼き。大根おろしと醤油でいただく、ブリの塩焼き。ブリの脂が身と溶け合い、絶妙の味わいになる。刺身と並んで、ブリそのものの味をいただける一品
鰤しゃぶ
昆布だしに軽く2〜3回通し、半生状態でぽん酢とともにいただくブリ。旨みがぐっと引き出される。白菜やネギなど、旬の野菜にもブリの味が染みこんで美味
左)鰤大根。有機栽培の大根をブリとともに2日間かけて煮込んだ、ブリ大根。ブリの味が大根に染み込んだ、実は大根が主役の料理だ。氷見では味噌仕立てで味わう。右)鰤なます。ゆずと大根おろしとともに、ブリの切り身をさっぱりといただくなます。浅漬けにしたブリを甘酢で和えてあり、さっぱりとした味わいが楽しめる
左)えらの唐揚げ。ブリはエラも食べることができる。サクサクとした食感は、ブリ料理のなかでも異色の一品で、しげはまのオリジナルだ。お酒とともにいただきたい。右)鰤のあら煮。ブリの頭をゴボウとともに甘辛く絡め、煮込んだブリのあら煮。ゴボウにもブリの風味が染みこむ。濃く味付けされているので、お酒やご飯が進む

※ほか鰤フルコースには、鰤肝の旨煮、鰤腸の味噌付け、鰤の皮の煮こごり、鰤汁がつく。

ブリ漁の歴史を感じる旧宅があります。

ブリが描かれた欄間は、氷見のブリ文化を象徴する一枚。絹に描かれている

ブリ漁の豊かさを象徴する家が、氷見の市街地から約6㎞にある。築100年を数える網元・濱元家の住宅は、116坪の入母屋づくり。4つの庭をもち、古来公民館としての役割も担うなど、地域の中心となってきた漁家が丁寧に手入れされ、現在も住宅として使われている。輪島塗の梁や、屋久杉の天井板など、豪華の限りを尽くしたつくりは必見。

「割烹 しげはま」では、11月中旬〜2月下旬の限定でブリのコース料理をいただける。3代目のさんがつくるブリの内蔵料理はここでしか食べられない。

自家製の味噌をつくっていた味噌蔵。味噌は、氷見の味付けのベースであった

網元の家
住所|富山県氷見市泊10
Tel|0766-74-7111(ラ・セリオール)
見学時間|10:00〜11:00(要予約)
見学料|1100円(抹茶・菓子つき)
食事|昼:1人4950円(春慶三段御膳)/12:00〜14:00、夜:1人様1万1000円(網元料理)/18:00~21:00
http://himi-hamamoto.net/
※問い合わせはラ・セリオールへ、ともに4名より受付

割烹 しげはま
住所|富山県氷見市丸の内2-18
Tel|0766-72-0114
営業時間|12:00〜14:00、17:00〜22:00
定休日|木曜(年末12月30,31日、年始は1,2,3日)
https://sigehama.net/

 

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text:Discover Japan photo:Atsushi Yamahira
2012年12月号 特集「冬の味覚でおもてなし」


ニッポンの年取り魚は東の鮭、西のブリ
1|鮭編
2|ブリ編
3|鮭とブリの分類学

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